第22話 実技試験の時間だ:前編
面接の翌日、私は
「はえーっ、意外と大きい……」
その川崎支社には高い建物はなかったものの、敷地の広さは本社にも負けず劣らずだ。確か、買収したダンジョン関係の会社の敷地や建物をそのまま使っているんだとか。そっちの会社もだいぶ大きかったんだなぁ。そしてそれを買収した静寂インダストリーはとっても大きいんだなぁ。
確か、まずは中央にある建物の受付に話を聞けば良いんだったな。と思い、私はその建物に入る。
入口は本社の中央ビルと違い、ちょっと古臭いように見える。しかし、それは本社のほうがおしゃれってだけなのかもしれない。直紀さんの会社も、だいたいこんな感じの内装だったはずだし。
とりあえず受付の人に話を聞かなければ、と私はその前にとてててと早足で歩いていく。
「失礼します。Core Moduleのキャンペーンガールの実技試験に伺いました、御剣優花と申します。案内は受付の方がやってくれると聞いたので、聞きに来ました」
私がこう言うと、受付の人はパソコンを操作し、
「御剣優花さんですね。はい、確認が取れました。それでは、この建物を出て右の方にある性能試験室へ移動してください。実技試験の案内はそちらの方がしてくれるはずです。それでは、ご武運を」
と答え、お辞儀をしてくれた。性能試験室……ということは、Core Moduleのテストをする場所なのだろうか。そこを実技試験のために貸し出してくれているようだ。太っ腹だなぁ。
私は受付の人に、
「ありがとうございます、それでは頑張ってきます」
と言って、建物から出ていった。
性能試験室のある建物は、外から見るとかなり大きめな体育館のような見た目だ。入口が1階正面の1つと2階左右の2つ(外階段から入るようになっている)、合計3つある。左右側の入口には「観察・見学用入口」と書いてあるので、中で戦っているのを見る用の入口なのだろう。
さて、1階正面の入口には、静寂社長と鳴海さんが立っていた。あれっ、鳴海さんも来たんだ。
社長は私を見ると、
「来てくれたか、御剣優花さん。さて、今日はここで実技試験を行う。1階入口を通った後の左側に女子更衣室があるのでそこで戦闘用の装備に着替え、試験室に入ってくれ。何をするかは実地で説明をする」
と言い、2階入口の方に歩いていった。そして鳴海さんは私の方を見て、
「頑張ってくださいね! 優花さんなら大丈夫だと思います!」
と言って、彼について行った。うーん、どんな試験が待っているのだろうか……。緊張するけど、ちょっと楽しみだぞ。
1階入口に入ると、そこには待機所らしき部屋があった。休憩用らしきベンチがあったり、観葉植物があったり、なんかテレビがあったりする。Core Moduleのテストが終わった後、ここで休憩をして次の仕事に向かうのだろうか。
そしてその左側には女子更衣室と女子トイレ、右側には男子更衣室と男子トイレがある。
私は女子更衣室に入ると、持ってきたアタッシュケースを下ろして、中身が監視カメラに映らないように自分の体を壁にして開ける。
実はこのアタッシュケース、中身は女性用の和風軽鎧型防具のみであり、武器は入っていない。武器である刀は、自分の左腕から出したものを使うからだ。これは、自分がシュラインフォックスであることに由来する能力らしい。そのモンスターは、体から刀や御幣を出して、それを口に咥えて戦うんだとか。自分の体から武器を出す人間なんていないから、それを隠す必要があるということだ。
もし相当稼いでいる冒険者ならば、アイテムボックスという見た目より大量のものを詰め込める袋や箱などが買えるんだろう。しかし、富豪でもない限り初心者にはそれを買うのは無理だ。よって、その方面でもごまかせない。
出した刀を左腰に下げ防具を着た私は、女子更衣室から出て試験室に入った。
そこは結構無機質な見た目で、距離を測るために使うものなのか格子状の線が壁や床に走っている。そして上の方を見ると、視線の先に開いた窓から、社長と鳴海さんそして社員の皆さんが見える。そこから私の戦いっぷりを見るってわけね。
私が待っていると、いきなり、
『御剣優花さん、準備はできたか?』
という声が響いてきた。どうやら、マイクを通じてこの部屋のどこかに設置してあるスピーカーから声を出してしているらしい。
「はい、大丈夫です! いつでもいけます!」
私がこう言うと、
『威勢がよくてよろしい。それでは、実技試験の内容を説明する』
と皮肉交じりの声で言われた後に、私の目の前に鳴海さんの姿が出てきた。服装はダンジョンで会った時と同じゴスロリ風衣装だけど、普通の人間の姿だ。なにもないところからいきなり鳴海さんの姿をした何かを出現させるなんて、どうやっているんだ……?
『そこに鳴海の姿をした護衛対象を設置した。周りからモンスターを模した討伐対象を続々と出現させるから、それらから護衛対象を守ってくれ』
私は社長の話を聞いて、
「分かりました!」
と言いつつ、鳴海さんの姿をした護衛対象に手で触れようとしてみる。すると、確かに硬い感触がした。流石に本人のような柔らかさは再現できていないが、見れば見るほど本人と見分けがつかない。中々に作り込まれているなぁ。
『それが気になるか。実はそれは、私がこだわって作らせたモデルを投影しているんだ。実に本人をよく再現しているだろう?』
『もう、お父さんったらぁ』
社長の方を見てみると、堅物そうな顔からはまるで想像がつかないほどのいい笑顔になっていた。……これ、
『ゴホン、とにかく、まずは弱いモンスターを出現させてみる。これはいわゆる例題だと思って、肩肘張らずに、今からこういう試験をするんだと思いながら戦ってみて欲しい』
「はい、お願いします!」
社長の言葉を聞いて、私は鞘から刀を抜いて正面に構える。狐耳と尻尾が出せないせいであまり実力は発揮できないが、Core Moduleのキャンペーンガールになるには頑張るしかないな!
そして少し待つと、周囲からモンスターがどやどやと出てきた。
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