第18話 建前上はダンジョンへの初突入③
そして周囲を探索していると、またもやレッサースライムがやってきた。
「それでは、宮野さん、次はあなたがやってみましょう。小さい得物を用いる際はより相手に近づく必要があります、ご注意を」
「うん、分かりました! 薫さーん! 行ってきますよー!」
小南さんに促され、宮野さん(さっき
「よぉーし、僕も薫さんに続いて、やってみるぞー!」
宮野さんは、相手に目線を向けながら、双剣を構える。流石に素人だからか、様になっているとは言いづらい。とはいえ、腰が引けていないのは個人的には高評価だ。
彼は近づいてくる相手をよく見ながら、動かず構えを続けている。これは、もしかして私と同じように、跳びかかってきたところをカウンターで仕留めるつもりなんだろうか。そういうのって初心者にはあんまりおすすめできないと思うけど……。
そうこうしているうちに彼我の距離は縮まっていき、ついにレッサースライムが宮野さん目掛けて跳びかかっていった!
「やーっ!」
彼はそれを目掛けて、両手に持った剣をブンと振る!
しかし、剣もレッサースライムも、その軌跡は空を切ってしまい、互いに当たらなかった。ちょうど、剣を早めに振ってしまって体をかがんだ宮野さんの頭上を、レッサースライムが通った形となる。
宮野さんはその後も双剣を振り続けるが、なかなか相手に当たらない。やっぱり、武器を振るのに慣れていないと当たらないものなんだなぁ。思い出せば、私もそうだった。懐かしいなぁ。
そうこうしているうちに、宮野さんが体勢を崩した瞬間を目掛けて、レッサースライムが彼の背中に向かって跳びかかってきた! 彼はそれを避けられず、その突撃を背中に受けてしまう!
「うわっ……えっ、あんまり痛くない……」
宮野さんはこう言いながら背中を左手でさすりつつ、相手がいる方へ向く。心配になってちょっと叫びそうになってしまったのは言わないでおこう。それはそうと、防具が良いのか、この階のモンスターくらいなら、攻撃が当たっても痛くないものなんだなぁ。
「よーし、とりゃ!」
何かを思いついたらしい彼が、相手が着地した瞬間を狙って剣を振ってみると、なんと一発で命中した。いわゆる着地狩りっていうものだろうか。
「薫さん! やったよ! ……えっ、何これ?」
そうして彼は、友だちに勝利を報告しようとした。その時、彼の周りにバチバチとした電撃のようなものがほとばしっていくのが見えた。こ、これは……?
私含めみんなが呆気にとられていると、小南さんが、
「あーっ、これは、雷魔法のスキルが発現した証ですねー。安心していいですけど、彼に触ったりしないでくださいねー。ただのエフェクトじゃなくてちゃんと感電しますから。とまぁこんな風に、魔法系スキルって発現するとこんな風になるから分かりやすいんですよね。火を吐いたり水を吐いたり、体の末端がやけに冷たくなったり全身が発光したり」
と言った。へぇーっ、これが、魔法系スキルが発現する瞬間なんだー。直接見たのは初めてだから、なんか興味深いなー。
私がこう感心している間にも、宮野さんを覆う電撃は徐々に激しくなっていく。
「うわわっ、これ大丈夫なの?」
「ちょっと経てば収まるから大丈夫ですよ。収まるまではその場に待っていてください」
強い電気に覆われて軽いパニック状態になる宮野さんを、小南さんはぶっきらぼうになだめる。まぁ流石にこのままずっと放電しっぱなし、ってことはないよね? 大丈夫だよね?
……という私の心配に反して、彼を覆う電気は急速に収まっていった。良かった。
「あっ、電気が収まった。……これで、僕は雷魔法を使えるようになったんですよね?」
「そうですね。念じるだけで体から電気が出てくるはずです。おっと、今すぐここでぶっ放さないでくださいね。まだモンスターを倒してない人がいますからね」
「やったな、大輔! 雷の魔法なんてかっこいいじゃないか! お前、武器が決まらないって言ってたし、ちょうどいいんじゃないか?」
宮野さんの電気が収まったのを見た久夛良木さんは、すぐに彼に向かって走っていき、彼の肩を抱き寄せた。本当に仲がいいんだなー。
「ま、まぁ、そうかもね。でも、どっちかといえば武装系のほうが良かったかなー、なんて。まぁ、実際に戦ってみたら薫くんみたいに上手く出来なかったから、魔法系で良かったかも」
宮野さんは、こう言って久夛良木さんに笑ってみせる。
そしてその次に、斧を持った恰幅の良い男性がレッサースライムをその斧で力強く切りつけていった。見た目からパワー一辺倒に見えたが、実際に戦ってみると斧の軌道を相手の動きに合わせて細かく変えていたりと、小技が光る人だった。やっぱり人は見かけによらないなぁ。人間ってそういうところが面白いんだけど。
となると、最後は長門さんの番だ。彼女はなんかさっきからガクブルしているし、大丈夫かなぁ。
「最後に長門さん、実際にモンスターを倒してみましょう。かなり怖がっているようですが、その防具を着たからには恐れることはありませんよぉ。果敢に立ち向かっていきましょう」
「おおおおおおはははははははいわわわわわ分かりましたぞ……」
長門さんはめっちゃ腰が引けた格好でフールゴブリンの前に出ていった。これ、変なことになって大怪我とかしないか心配だなぁ。でも、万が一の時は……、小南さんが助けてくれる、よね?
長門さんは、槍の先を相手に向けながら、じっと相手を見据える。しかしその槍先は震えまくっているし、足もガックガクだ。やっぱり、この人が戦闘系のスキルを貰わないことを祈ろう。この人を戦いに参加させてはいけない。
しかしこちらがそんな状態だからといって相手は待ってはくれない。相手は棍棒を上に掲げながら、長門さんに向かって突進してきた!
「みぎゃあああああああ! こうなったらヤケだ! KIAI!」
彼女は、恐れを振り切るように、大声を出しながら相手目掛けて槍を突いた! するとその槍の先は相手の首元を捉え、それに深々と突き刺さる。お、おぉ、倒した……。
「む……え、おぉ、や、やりましたぞ……」
長門さんは自分が本当にフールゴブリンを倒したのが信じられないという声色で、そのことを噛みしめるように言った。マジかよ、一発でやりやがった。
「あ、あぁ~、こ、腰が抜けましたぞ……」
彼女はこう言いながら、歩いてこちらに向かってくる。
「長門さん、歩けるんだったら腰抜けてないじゃん。とにかく、大きな怪我をしなくて良かったよ。これで制作系とかのスキルを得られると良いね」
私は笑顔で、彼女にこう言った。すると、
「そうですな。でも、あまり体に違和感とかは見受けられませんな。スキルを得られたのか分かりませぬぞ」
と返ってきた。モンスターの身である私には一生分からないだろうが、スキルを得るというのはどんな感覚なのだろうか。
私がそう思っていると、それを見透かしたのか小南さんが私たちに向かって、
「まぁ、魔法系以外のスキルのうち大半は得てもそのことが分かりづらいですからねぇ。せいぜい『太刀筋が良くなったかな?』とか、『なんか手先が器用になったような気がする』程度の感覚しかないですし。それに、初めてモンスターを倒したからと言って確実にスキルを得られるわけではないですからねぇ。どんなスキルを得たか知りたければ、帰る前に鑑定してもらうのが得策です。帰りがけにここの鑑定所で鑑定してもらいましょう。それと、長門さん、良いビギナーズラックです」
と言った。うーん、やっぱりスキルというのは得ても自分ではよくわからないようだ。
「まぁとにかく、制作系を得て帰れれば良いね」
「そうですな。もう戦うのは懲り懲りですぞ……」
と私たちが話していると、小南さんの準備が終わったのか、彼は、
「それでは、ここからはこのグループ全員で戦ってみましょう。まずはどう戦うか作戦を練ってから、ダンジョンを進んでいきましょう。私も離れたところからついていきますので、安心して戦ってください」
と言ってきた。ここからが実地訓練の本番のようだね。……長門さんは大丈夫だろうか。
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