第17話 建前上はダンジョンへの初突入②
みんなでゲートをくぐると、その先には大きな洞窟のようなものが口を開いていた。ここがダンジョンというものである。中には魔力が充満しており、中に入ると体が軽くなったような気がしてくる。ただ、普通の人間はダンジョンの中に入ってもそうはならないらしい。……やっぱ、私って人間とは違うんだなー……。
その後も、みんなでダンジョンの中を練り歩いていく。しかし、見える範囲にモンスターはほとんどいない。眼の前を横切ったフールゴブリンが、通りすがりの冒険者にボコられたくらいだ。
「あれっ、ここにはモンスターはあんまりいないんですな。意外ですぞ」
長門さんがこう言うと、前で先導している小南さんが、
「そりゃあ、基本的にこの辺のモンスターはすぐに倒されてしまうからですよ。通りすがりにーとか、憂さ晴らしにーとか。だから、講習用に場所を取ってあるんですよ。そこはモンスターがそこそこいるようにしてますからねぇ」
と返した。そりゃあ、講習を受けた大抵の冒険者はここのモンスターを簡単に倒せるだろうからねぇー。供給に対して需要が多すぎる、ということか。
そうして歩いていると、今度は壮年男性に出会った。彼はジャージを着ており、メリケンサックのようなものを手につけている。
そして彼は私たちを見ると、
「皆さん講習ですか? 頑張ってください」
と言って、
「こんにちは。頑張ってきます」
と、深くお辞儀をしながら返す。すると、他のグループメンバーも追ってお辞儀をした。
ん、あの男性、なんか私の顔を見て不思議がっていたような……。まぁいいか。
男性から別れて少し歩くと、よく工事現場に立っているようなバリケードが置いてある場所にたどり着いた。しかしそのバリケードには、「ここより先 講習予約エリア」と書かれている。なるほど、この先のエリアで実地訓練をするんだな。
また、そのバリケードの下には、モンスターが嫌がる香が焚かれている。この香、私やっぱり苦手だなぁ。
「それではこの先のエリアで実地訓練を行います。まずはグループの各メンバーが順番にモンスターを倒していき、その後グループ全員でチームを組んで戦う、という形になります。合計で1~2時間程度になると思いますね。今のうちにストレッチをして体をほぐしてしまいましょうね」
小南さんはこう言うと、腕を上に伸ばし始める。私は彼に習い、腕を上に伸ばして右へ左へとゆらゆらさせる。そして脚もきっちり伸ばしていく。
周りの人を見ると、長剣と双剣の男性コンビはしゃべりながらストレッチをしているし、長門さんは運動に慣れていないのか、たどたどしくストレッチをしている。あっ、バランスを崩しそうだぞ。
私はさっと彼女の脇の下に手を当て、倒れそうになっていた体を支える。
「あっ、ありがとうございますぞ……」
「いいってことよ。無理だけはしないようにね」
私が彼女の体勢を直すと、彼女は恥ずかしがるように頬を赤く染めた。別に悪いことじゃないのに……。
私たちがストレッチを終えると、小南さんは、
「では皆さん、この中に入っていきますよ。この先はモンスターが多く生息していますので、警戒を忘れずに。まぁ、何かあったら大声で叫べば私が助けますので、過剰な心配は不用です。それでは行きましょう」
と言って、バリケードの向こうに入っていった。私たちは、彼の後に付きながら、バリケードを超える。
バリケードの先には、α層の浅い階でよく見るようなモンスターがそこそこいた。よく和ゲーで見るようなスライムの見た目をしているレッサースライムとか、粗製の棍棒を得物にしているフールゴブリンとか。こういうモンスターの名前は、魔窟管理所が付けてるんだったかな。
そうして歩いていると、眼の前にレッサースライムが(`・w・´)という顔をして出てきた。基本的に体当たりしかしてこない弱いモンスターで、その体当たりも簡単に避けられる。あと、スライムと言っておきながら実際はゼリーやグミみたいな触感で、ドロドロが苦手な人でも楽に戦える、らしい。
「それでは、まずは順番に倒していきましょう。まずは、御剣さん、やってみてください」
ほいきた。でも、あまりにもこなれ感を出すと色々と不味そうだ。しかし、「頼りになる感」をさっき出してしまったがゆえに、ただへなちょこにやったとしてもそれはそれで違和感ある。さっき「剣道をやったことがある」って言っちゃったし。
だったら、剣道っぽくやれば良さそうだ。剣道の動きはダンジョンでの実戦とはだいぶ違うけど、だからこそまじめにその動きをこなせば「頼りになる感」は出せるだろう。
私は前に出ると、刀を両手で握り、上段に構える。そしてそのままレッサースライムが向かってくるのを、それをじっと見ながら待つ。
私が相対しているレッサースライムは、ぴょんぴょんとどこから跳ぶ力が出ているのか分からないような動きでこちらに近づいてくる。しかし、その動きは緩慢であり、私でなくても捉えるのは難しくなさそうだ。
そしてレッサースライムが力を溜め、こちらに飛びかかってきたその時、私は刀を力強く振り下ろす。すると、相手は風切り音とともに一刀両断され、虚空に消えていった。
私はそのまま、腰に下げた鞘に刀を収める。まぁこんなものだろう。
「なかなかやりますね、剣道をしていただけはある。とまぁ、このように、モンスターに対峙する時は、相手から目を離さず、倒したあとも周囲への注意を切らさないようにするのが大切ですね。モンスターを倒して油断したところを別のモンスターに突かれる……なんてことありますから。ってか、うますぎますよ、御剣さん、やってましたでしょう」
「いやいや、剣道って、そう言うのが大事だって言われているので……。それがダンジョンに通づるんだと思いますよ」
あっ、小南さんに褒められた。でも、まさか「やってたでしょ」とまで言われるとは思わなかったなぁ。ちょっとこなれ感が出すぎてたか。
と思っていると、続いて岩陰からフールゴブリンが出てきた。基本的に単独行動をし、棍棒を用いた突撃しかして来ない奴だ。普通のゴブリンっていうのは、徒党を組んで連携攻撃とかしかけてくるんだよなぁ。初期の頃は結構苦戦した記憶がある。
「続いて、
小南さんがこう言うと、久夛良木と呼ばれた男子が前に歩み出た。この人、確か入る時に見た若い男性のペアの片割れだったね。もちろん、同じグループにもう片方もいる。
「よっし、それじゃ、今度は俺がやってやるぜ。
久夛良木さんがもう片方に対してカッコつけるようにこう言うと、もう片方は、
「気をつけてね~」
と言って彼に向けて手を振った。
久夛良木さんは、フールゴブリンと対峙すると、
「よっしゃ来い!」
と言いながら、借りた長剣を顔の横に構える。ちょうど八相の構えに近い。
それに対して相手は、ケシャシャという奇声を挙げながら、棍棒を掲げて彼に向かっていく。
ちょっとイキりすぎじゃないか……? と思って私が心配していると、久夛良木さんは、
「どっせーい!」
と言いながら、両手に持った長剣を横にぶんと振った。すると、その剣は愚かにも突撃してきたフールゴブリンに直撃し、それを壁まで吹き飛ばしていった!
「おぉ、飛びましたな……」
「だねぇ」
私たちがその様にびっくりしていると、久夛良木さんは相方の方を向き、長剣を肩に掛けながら、
「どうよ!」
と言った。うーん、いくら防具が硬いとはいえ、そういうのは危ないからやらないほうが良いよなぁ……。と私が思っていると、小南さんから、
「久夛良木さん、そうしたい気持ちはわかりますが、腕を切り落としたくなければやめたほうが良いですよ」
という注意が飛んだ。それを聞いた久夛良木さんは、バツが悪そうに長剣を肩から下ろした。
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