第21話 いきなり社長と面接かよ……(2025/02/11更新)
数日後、私のもとに魔窟内採取従事者証が届いた。ちゃんと自分の名前と顔写真が載っている。
そして呼び出されてIM管理部に赴くと、鑑定を欺瞞する装置の更新型をもらった。どうやら、高レベルの刀スキルを得たと鑑定されるもののようだ。まぁ、初っ端から高レベルのスキルが発現する例もあるみたいだし、ありえなくはないのか。
そして魔窟内採取従事者証を得たということで鳴海さんに連絡を取ると、即座に面接の予約を取ってくれた。のだが、なんと初っ端から社長――鳴海のお父さんだ――との最終面接になってしまった。まずは社長と面接をしたあと、Core Moduleを作っている部署で実戦形式の選考があるらしい。……なんか緊張するなー。
とにかく、直紀さんにスーツを買ってもらったあと、従事者証を作る時に撮った証明写真のデータを使って履歴書を作る。履歴書はデータを作って鳴海さん経由で送ればいいので、実際に印刷する手間がなく、面倒くさくなくて良かった。
そして面接当日。私はスーツでビシッと決め、再び
受付でアポイントメントを確認してもらったあと、エレベーターで社長室へ向かう。社長室……めちゃくちゃ緊張するー。でも、直紀さんと練習もしてきたし、多分大丈夫。私はこう思い、社長室の扉をノックしたあと、それを開けて部屋の中へと入った。
「御剣優花さん、おはようございます。それでは、こちらのソファに座ってください」
「は、はい」
鳴海さんのお父さん、そしてこの会社の社長でもある静寂龍一郎さんに促されて、一人がけのソファに座る。これは多分、この前行った応接室にあるソファと同じものだな。
この社長室には、実に様々なものがある。標語らしきものが書かれた掛け軸、何かしらの資料が入っていると思しきファイル、それといろいろな置き物……。なんか、「デキる社長の社長室」と言った感じだ。私が座るように促されたソファも、静寂さんがさっきまで座っていたところの前にある。ここで社長同士が話をしたりするのだろうか。
そして静寂さんは私の前に座ると、資料を自分の前に広げながら私の方を見た。なんか、結構目付きが鋭くてちょっと怖いな。顔も体もちょっと細めだし。
私と彼が目を合わせていると、彼は私に向けて、
「御剣優花さん、おはようございます。今日は弊社へお越しいただき、ありがとうございます。それではまず、自己紹介をお願いいたします」
と言った。これは、直紀さんと予習したところだ。もちろん、返しの言葉はできている。
「はい、私は御剣優花と申します。あなたの娘である鳴海さんからスカウトをいただき、御社のCore Moduleキャンペーンガールへ応募いたしました。Core Moduleのキャンペーンガールになった暁には、あなたの娘を守りつつ、Core Moduleの売上に貢献すると誓います」
一応、言いたいことは言えた。こういう面接って、基本的に「自分が会社にとって役立つ」ってことを言うと良いって、直紀さんが言ってた。まぁ、彼はダンジョンやダンジョンコラプスでの活躍を買われて今の会社に入ったみたいだから、あまり役に立たないかも、って自分で言ってたけど。
静寂さんは私の言葉を聞いたあと、資料を見ながらメモを取り、顔を上げて、
「あなたは、最近冒険者証を得たようですが、それで本当に私の娘を守れるとお思いですか?」
と言った。確かに、数日前に魔窟内採取従事者証を得た人が「あなたの娘を守れる」と言っても当然信じられないだろう。自分でも無理だ。しかし、もちろんそれに対する回答も用意してある。
「私は初めから高レベルの刀スキルを得ましたし、剣道の心得もありますので、十分に守れると考えています」
前半部は嘘になってしまうが、正体を隠すためなら仕方がない。すると静寂さんは、
「……スキルについてはよく知らないが、まぁ、実力は実戦を見て判断すればいいか。今はその他の部分について判断するとしようか」
と返してきた。む、社長はダンジョン周りについてあまり知らないのかな。
そして、なおも静寂さんからの質問は続く。
「ところで御剣さん、あなたは中学校を卒業したあと高校に入学していないようですが、今は何をしていらっしゃるのでしょうか」
やっぱり聞かれた、そういう質問。実際、私はヒーロー活動のために中学校を卒業したあと主婦みたいなことをやっているので、そう聞かれるのもさもありなんと言ったところだ。
ヒーロー活動を隠して答えるとしたら……。
「私は中学校を卒業したあと、義父といっしょに住んでいる家で家事を行っています。家事は猛勉強して今では難なく出来るようになりました」
義父とは、もちろん直紀さんのことだ。ってか、実際公的にはそういう関係である。
「なるほど、とすると、不躾な質問で申し訳無いのですが、父子家庭で、しかも義理の関係ということでしょうか」
「そうですね。私は孤児で、今の義父に拾われて一緒に暮らすことになりました」
まぁ、これは半分嘘なのだが。ダンジョンで拾われたとか言っても信用してもらえないだろうし、そもそもそのことは秘密だ。
「ありがとうございます。別にこのことが選考に関わるといったことはないのでご安心を。単なる私の興味です」
静寂さんは、冷たい表情のまま、持っているペンを動かさずこう言った。だったらこの場で聞くなって言いたくなってしまうなぁ。
静寂さんはメモを軽く取ったあと、
「それでは次の質問です。あなたはなぜCore Moduleのキャンペーンガールになりたいと思ったのか、お教えください」
と聞いてきた。
「私がなぜCore Moduleのキャンペーンガールになりたいと思ったかというと、それを世の中に広めることで冒険者たちの助けになると思ったからです。私はあなたの娘である鳴海さんから直接Core Moduleについて聞きました。そして私は彼女の説明を聞き、それを広めることにより、それを使った人がより安全にダンジョンを探索できるようになったり、他の冒険者を助けたり出来るようになると確信しました。よって、私は、冒険者たちのためにCore Moduleの宣伝をしたいと考え、キャンペーンガールに応募することに決めました」
決まった。直紀さんが「志望動機はよく聞かれる」と言っていたので、頑張って考えた。ちゃんと言えてよかったなぁ。
静寂さんは感心したようにメモを取った。どうやら、感触も良かったらしい。
静寂さんから続々と質問がされ、時間は経っていく。そして逆質問(こちらから面接官に質問することのようだ)を終え、全ての質問が終わった、と思いきや、静寂さんは、
「ところで、あなたは鳴海さんと直接会い、彼女の紹介でここを受けたのですよね? あなたは鳴海さんのことをどう思いますか?」
こんな質問をしてきた。うっ、面接って変な質問をされるとは聞いていたが、まさか鳴海さんのことについて聞かれるとは思わなかったぞ。とりあえず、頑張って答えを考えてみよう。
「うーん、鳴海さんは髪の毛がサラサラで、結構美人だと思いますよ。特に、ダンジョンで見た人魚姿には、結構見とれてしまいました」
私がこう言うと、静寂さんは嬉しそうに、
「そうですか、ありがとうございます。本人に伝えておきますよ」
と言った。あれっ、もしかしてこの社長、娘が好きなのかな? まぁ、親というものは子どもが好きなものだし、そういうものだろう。
そして静寂さんは机の上に並べた資料を整えると、
「それでは、これで面接を終了します。選考結果は、翌日行われる実戦での選考の結果を加味して、明日から数えて1週間後までに通知いたします。翌日は川崎支社にて実戦テストを行いますので、ダンジョンに行く際持って行く装備を持っていってください。服装は動きやすい服装で大丈夫です。それでは、お越しいただき、ありがとうございました」
と言った。これで面接は終わりかぁ~、めっちゃ緊張した。でも、会社を出るまでが、いや、家に帰るまでが面接だ。
私は、
「本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました」
と言った後、椅子から立ち上がり、ドアの前で、
「失礼します」
と言って、部屋から退出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます