第20話 建前上はダンジョンへの初突入⑤
そして実地訓練を負えた私たちは、装備を返却したあと、現地で解散することになった。そして……。
私は、ダンジョン前のセーフエリアにある売店で、エナジードリンクを手に取っている。長門さんからは涙ながらにお酒をオーダーされたが、流石にここにそんなものはない。酔った冒険者に暴れられたら困るし。
私の分と彼女の分のエナジードリンクを買った私は、そのまま席へつき、鑑定所に行った彼女を待つ。あんなことになった彼女だが、これを飲めばまた元気になるだろう、……か。
そして自分の分を飲みながら待っていると、長門さんがフラフラとやってきた。これは……鑑定で意に沿わない結果が出たんだね……。
「えっと……、どうだった?」
私は、長門さんが分かりやすい表情をしているのに気づかないふりをしつつ、ちょっとはにかんで聞く。
すると、
「まぁ、大方の予想通り、火魔法スキルのみでしたな。しかも初心者にしては結構強めの……」
と返ってきた。やっぱり?
「そうなると、会社では会社お抱えの素材供給師になることになるね、たぶん」
「びええええええええん!!!」
私が言うと、長門さんは思いっきり大声で泣き出した。うっ、周りの視線が結構痛いぞ……。とにかく泣き止ませなければ……。
「な、長門さん、とりあえず泣き止んで……。ちょっとみんなこっち見てるって」
「そ、そうですな……ズビ」
周りをキョロキョロと見た彼女は、自分へ向けられた視線に気づくと、恥ずかしそうに涙を止めた。すると周りの冒険者たちは、こちらへの興味を失ったためか各々のお話に戻っていった。
「で、でも、戦闘系のスキルを得てしまったからには、我輩も戦って会社のために素材を納めねばならなくなるでしょう。そうなったら我輩、モンスターに無惨に殺されて、死体をあんなことやこんなことに使われてしまうのですぞ~、およよ~」
「およよ~」なんて言って泣くの、初めて見たぞ。
「そ、そうなるとはまだ決まったわけじゃないでしょ……。多分複数人で行くことになるんだし。元気出して」
「いーや、戦いともなれば真っ先に殺されるのはどんくさくて運動神経も悪い我輩ですぞー! 我輩まだまだ死にたくないですぞー!」
確かにダンジョンに行くとなると多かれ少なかれ危険が発生する。流石に新人の頃からそんな危険な仕事には従事させないはずだが、それでも危ないことというのは発生するものだ。どうしたものか……。
そんな折、ふと、Core Moduleのことが思い起こされた。使い慣れればδ層のモンスターとも危なげなく渡り合えるパワードスーツ……。そういえば、私がここに来たのも、そのキャンペーンガールになるために必要な魔窟内採取従事者証を取るためだった。
もしかして、長門さんもそれを使えば、安全に戦うことができるかもしれない。
「長門さん、」
私は、泣きじゃくって飲み物にも手を付けていない長門さんに呼びかける。すると、
「えっ?」
と、顔を上げてくれた。とりあえず、話ができないと文字通り話にならないからね。
「そういえば、Core Moduleって知ってる? ダンジョン用のパワードスーツなんだけど……」
「ダンジョンにパワードスーツ? なかなかに変な取り合わせに聞こえますが」
おっ、ちょっと食いついてきた。
「それ、
「ふむ……。とりあえず、後で見るだけ見ておきますぞ。今はそんな気分にはなりませぬ……」
一応、後で見てくれるようだ。これで彼女がCore Moduleを買って、ダンジョン探索を安全に行ってくれれば良いな。多分この子が会社に入る頃には販売されてるでしょ。
「とにかく、今は飲み物でも飲んで。帰ったら、実験の続きをしよう」
「そうですな……」
長門さんは、エナジードリンクのプルタブをカシュッと開いた。
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