第21話 勇者捕獲
俺達を探しに来たという冒険者はスラムだった。
「スラム! やっぱりお前か!」
「久しぶりだなぁリーナス。俺がお前を追放したんだ。『勇者パーティーを追放された奴』として、さぞかし苦労しただろぉー!?」
スラムは勝ち誇ったようにそう言ってるが、俺はむしろ追放されたかったんだ。フレンがいなけりゃ意味無いからな。
「スラム! あの時の冒険者が君だったなら、あのダンジョンで仲間とはぐれたのは嘘だったの?」
「ようフレン。いいぜ、こうなったら教えてやる。俺はな、お前を殺そうとしたんだぜ」
「ええっ!? どうして?」
「俺がこうなったのは全部お前のせいだ! 俺は何日もこの森でさまよい、怪物の肉すら食った。だが肉体も精神も限界を迎え、死すら覚悟した。だがそんな俺のもとに神が現れた。『死神』という名のな!」
完全な逆恨みじゃないか。それにしても目がキマっていて表情がヤバすぎる。これは普通じゃない。
「そして死神は言った。『復讐したいか? それなら力をくれてやる』と。俺が即答すると、死神はフレンの居場所を俺に教えてきた。そして俺は死神の力で駆け出し冒険者に姿を変え、フレンをダンジョンの最深部へ誘導した」
「そうか、お前はフレンの優しさにつけこんだわけだ」
「その通りだ! このバカ正直なら必ず手伝うと言い出すと思ってたぜ!」
「フレン、気にするなよ。俺はフレンが正しいと断言する」
「ありがとうリーナス。大丈夫、僕もこんな挑発にはのらないよ」
「おうおう、美しい友情なことで」
「Dランクダンジョンにミノタウロスを召喚したのはお前の仕業か?」
「そうだ! 魔法で壁を作って邪魔が入らないようにしたのも俺だ。俺は未熟な冒険者のフリをして、フレンがミノタウロスに倒されるところをゆっくり見物するつもりだった」
「そんなことしなくても、後ろからフレンを襲うこともできただろう?」
「はぁ!? それじゃつまんねーだろ。ジワジワと弱っていくフレンを見るほうが楽しいに決まってんだろうが! それを邪魔しやがって……! ヒャヒャヒャ!」
これ以上話をするのは無理だ。もうスラムは完全に崩壊している。
「俺のパーティーに野郎はいらねえ!」
スラムはこの期に及んでもそんなセリフを吐いた。そして俺達に向かって一心不乱に突撃してくる。
それはもはや何も考えていないであろう、ただただ俺達に復讐するためだけに生み出されたマシンのようだった。
「この愚か者が!」
俺はスラムにそう叫びながら、一直線に向かって来たスラムをかわし、拳を固く握りその腹めがけて渾身の一撃を入れた。
「グハア……ッ!」
スラムはその場にうずくまる。
「もうやめておけ。大人しく罪を償え」
自らが勇者パーティーに加入させた女の子に対する暴行未遂、宿で働く女の子に対する傷害。それらは紛れもなく犯罪だ。女の子達の心の傷が心配になる。
「だれがてめぇの指示に従うかよ……っ!」
スラムは立ち上がり、再び俺めがけて剣を突き刺そうと向かってくる。だがそんなもの俺には止まって見えた。
確かにスラムは最初に比べて強くなった。でもただ戦闘が強いだけでは一流の冒険者にはなれない。心の強さ。何もそれは耐え忍ぶことだけではない。自分以外の人へのリスペクト、他人を認め互いに高め合おうとする心。それだって心の強さなのだと俺は思う。
「スラム、これで終わりだ」
俺はスラムの攻撃をかわし、スラムの頬をめがけ思いっきり右の拳を振り上げた。
「リーナス、ストップ! もういいよ」
スラムにヒットする直前でフレンにそう言われ、俺はピタリと拳を止める。
「ミザリア、頼めるかい?」
「分かりました、フレンさん!」
ミザリアが魔法を唱えるとスラムの体は魔法の鎖で縛られ、身動きがとれなくなった。
「……終わったか」
俺はポツリとそんな言葉を漏らしていた。
「えぇー、私だけ活躍してないみたいじゃない!」
エイミーは不満そうに言い、フレンとミザリアは安堵の表情をしている。それは俺もそうなのだが、さっき振り上げた拳を振り下ろす役目は国に譲るとしようか。
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