第19話 パーティーで勝ち取ったもの

 全身灰色でトカゲのように見える巨大な生物。正確には違うかもしれないが、強力な酸であろう唾液に要注意だ。


「かもしれない」なんて言い方になってしまうのは、俺も初めて見る魔物だから。冒険者ギルドが魔物一覧なるものを作っているが、こんな奴が載っている記憶は無い。


 そんな未知の存在が目の前にいる。俺がそいつの下に潜れるほどに巨大な体躯をしており、尻尾がやたらと長い。


 俺がこいつの目を見るには見上げる必要がある。そうなると必然的に足元に近づくほど死角となってしまう。だがミザリアのおかげでこいつの右目は潰れている。


 俺は魔物の右目側へと移動した。こいつの視界がどこまでなのかは分からないが、わざわざ正面から戦う義理はない。


 まずは耐久力を確認するため、素早く近づき右前脚を剣で斬り下ろしてみた。硬い。少し跳ね返されるような感覚がある。全く刃が通らないわけじゃないが、このまま続けても剣が受けるダメージのほうが大きいだろう。


 この剣だって特注した一品で一級品だ。素材や形、デザインに至るまで俺が細かく指定して、名のある名匠に依頼した。

 なので刃こぼれや、まして折れるといった事態は避けたい。だがこういう時のために特注品を買ったわけで。


 俺は魔物の脚・尻尾・背中・腹・頭・首という具合に、部位ごとの刃の通りやすさを把握するため、一撃離脱という方法をとった。

 それには素早さがものをいう。フレンの支援魔法のおかげで俺自身の動き、剣を振るうスピード、反射速度などが大幅に上がっている。


 その結果、一番刃が通るのは頭だということが判明。腹あたりだろうと目星をつけていたが、正直言って意外だった。


 頭となると気を付けるべきはあの唾液。あれを浴びるとマズイ。そこから導き出したのは頭上からの攻撃。さすがに唾液を上に飛ばすことはできないだろう。


 こいつの背中に乗って頭上へと近づくことにしたが、もし暴れられて振り落とされでもしたら危険だ。


 俺が動く度に、魔物は尻尾を素早く俺めがけて振るってくる。それは通常考えられる可動域を遥かに超えており、空振りして尻尾が地面に叩きつけられると、まるで地響きのように地面が揺れた。


「フレンは跳躍アップの魔法を俺に、ミザリアは足場を沼に変えてくれ!」


「分かった!」


「はいっ!」


 フレンの魔法が届いたと同時に、俺は魔物の背中へ飛び乗った。そしてすぐさまミザリアの魔法により、魔物周辺の足場が沼になった。それにより、魔物は脚が深い沼に埋まって暴れることができない。


 便利ではあるが、魔力消費が大きく持続時間が短いため、使いどころに悩む魔法だ。


(あとは頭に剣を突き刺すだけだな)


 俺が頭に向かって走り出すと、足の裏で何かが盛り上がるかのような違和感を感じた。

 俺は反射的に跳び上がっていた。すると魔物の背中に無数のトゲが生えているのが見える。それはとても長く、貫かれてもおかしくないくらいだ。


 俺はフレンの魔法のおかげでいち早く察知できたが、大きく跳び上がったため隙ができてしまった。でも魔物は沼にはまっているため問題なさそうだ。


 ところがその時、魔物の首がぐるりと180度回転して俺と目が合った。そして何やら魔物の口が小刻みに動いている。


(まずい、あの唾液が飛んでくる!)


 おそらく俺が近づいた時に、勢いよく飛ばすつもりなのだろう。重力に逆らっても全く上に飛ばせないわけじゃない。

 空中では動きを制御できない。こいつはそれを見越してタイミングを見計らっているに違いない。


「フレン!」


「任せて! ブースト!」


 ならばそのタイミングをずらしてやるさ、俺とフレンの二人で!


 両手で力強く剣を握った俺は、図らずも魔物の眉間に剣を突き刺すことになった。

 確かな手応えがある。無防備に刺さった剣は、魔物の奥深くへとその切先きっさきを進めていた。


 俺は剣を抜き、地面に降り立つ。地面はまだ沼のままなので、べちょっとした感覚に少し苦笑する。魔物は咆哮と共に消滅した。


「なんとか倒せたか……」


 すると三人がかけ寄ってきた。


「リーナス、無事かい!?」


「やっぱりお兄様は凄いです!」


「私だけ何もしてないね、ごめんっ!」


 それぞれに言葉をかけてくれるが、俺は大したことをしていない。フレンとミザリアは戦闘をサポートしてくれ、エイミーは罠を見破ってくれた。パーティー全員の勝利だ。


 そして階段を上り、台座の前に立つ。そこには分厚い本が一冊。1ページ目には、探したい人物をイメージしてページをめくれと書いてある。


 俺がスラムをイメージしてページをめくると、文字が記されていた。次のページからはずっと白紙だった。文字を読むと、場所について記されている。スラムの居場所なのだろうか?


 そしてそこに記されている場所、それはこの遺跡の入り口だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る