第20話 女の子二人、手を汚さずボコボコにする

 人探しの魔導具である本に記されていたのは、この遺跡の入り口だった。


「これはどういうことだ? 本当に入り口にスラムがいるのか?」


「うーん、どうだろう。どっちにしろ僕達も帰るために通るんだし、行ってみようよ」


 そして俺達は遺跡の入り口まで帰って来た。相変わらず常闇の森は暗く静まり返っており、人がいるとは到底思えない。


「誰もいないねー」


「その本インチキなんでしょうか?」


 エイミーとミザリアが少し残念そうに言う。こんなところにある遺跡の中で、しかもご丁寧に守護する魔物までいたのに、こんな無意味なものだったのか?


 ページをめくると、2ページ目があった。そこには探し人は自らやってくると記されている。


「自ら? ここで待てばいいってことでしょうか?」


「分からんが、とりあえずそうしよう」


 俺達は遺跡の入り口で待つことにした。待つこと10分ほど。森の方から人影が近づいて来るのが見えた。


「みなさん、ここにいたんですね!」


 若い男。身なりからして冒険者だろうか。そして見覚えがある。俺達がフレンを探しに入ったダンジョンに、フレンと一緒にいた冒険者だ。


 あの時は魔法で偽装された壁の向こうで、フレンとこの冒険者がミノタウロスと戦っていたんだっけか。もし俺達が駆けつけなかったら、どうなっていたことやら。


「君はあの時の……。どうしてこんな所に?」


 フレンがこの冒険者に尋ねた。


「実はですね、ギルドが至急みなさんに来てほしいとのことで、所属の冒険者で手分けして探しているんです」


「俺達をか?」


「はい。大勢でこの森の中を手分けしてて、僕が偶然みなさんの姿を見かけたんです。さあ、みなさん早く僕の近くに来て下さい。この転移石で他のみんながいる待機所へ行きましょう」


「転移石だって? そんなものどこで手に入れたの?」


 フレンが驚いた様子で問いかける。転移石は予め設定した場所へ一瞬で行ける使い捨ての魔導具。ギルドなどの組織が管理するような貴重品だ。それを個人が持っているなんて。


「ギルドから支給されたんです。さあ早く僕の近くへ!」


「へぇー、ギルド太っ腹だねー」


 エイミーが歩き出したので、俺はエイミーのメイド服の襟を後ろから掴んだ。


「ぐぇっ! ちょっと! リーナス何すんの!」


「悪い、止めるにはそうするしか無かった。いくらなんでも話が不自然だと思わないか」


「えっ、そう? 私は別になんとも」


「あっ……! みんなこれ見てください」


 ミザリアが指差したのは本のとある記述。


『探し人来たれり』


 実はこの本の記述は増え続けている。この一文はさっきまでは無かったものだ。ということは、この若い男はスラムということになる。


「お前、スラムだな?」


 全員分のセリフを俺が代弁した。


「スラムって誰ですか?」


 男は冷静にそう返してきた。


「何言ってんだ。元勇者で指名手配中の犯罪者の名前じゃないか。冒険者なら誰もが知ってるぞ」


「ごめんなさい、本当に知らないんです。僕の勉強不足です」


 まあ簡単には認めないか。するとエイミーが口を開いた。


「うっそー、本当に知らないの? 私は会ったこと無いけど暴行未遂に傷害、それに人を簡単に切り捨てる身勝手さ。リーナス達から聞いて、本当にゴミ野郎だなーって思ったよ」


 エイミーにそう言われて、男の眉がぴくっと動いた。


「珍しく気が合いましたねエイミー。私もスラムって本当に最低だと思います! 私思うんですけど、お兄様とフレンさんを追放した理由って、ただ単に女の子だけのパーティーにしたかっただけなんじゃないですか? だとしたら本当にゴミ野郎ですね。あ、だとしなくてもスラムはゴミ野郎なことに違いないですけど」


 急に頼もしくなる女子二人。なんだろう、これは素で言ってるのか、それともワザとなのか分からん。


 ミザリアにまでボコボコに言われ我慢の限界を迎えたのか、男は声を荒らげる。


「うるせーっ! 女に囲まれることのどこが悪いってんだ! 俺は勇者なんだぞ! 他の奴らは俺の言うことに従ってればいいんだーっ! アヒャヒャヒャ!」


 すると男が黒いモヤに包まれた。そしてそのモヤが晴れてそこにいるのは、紛れもなくスラムだった。

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