親友と俺を追放した勇者を捕まえて国に突き出すことにした。なお、個性的な女の子もついてきて勇者は勝手におちていく模様
猫野 ジム
第1話 よし、追放
「フレン、お前は今日でこのパーティーから卒業だ!」
ダンジョンからの帰り道、俺達が所属する勇者パーティーのリーダーでサラサラ金髪の勇者スラムが、俺の親友にそう告げた。
卒業。それは学業などにおいて最後までやり遂げたという証。称賛されるべきことだ。でもさっきのスラムの言葉はそんないいものじゃない。
「卒業って、僕がこのパーティーから抜けるってこと?」
フレンがスラムに疑問を投げかける。
「そうだ、お前の得意魔法は何だ?」
「能力アップの支援魔法だけど……?」
「そうだ、支援だ。要するにお前自身は戦わない。魔物の攻撃が届かない場所で高みの見物というわけだ。戦わない奴にはここにいる資格が無い。今すぐ出ていけ!」
ものは言いようとはよく言ったものだ。さっきは『卒業』と言ってたのに、『今すぐ出ていけ』ときたか。それは追放を意味している。
それを聞いたフレンは慌ててスラムに訴えかける。
「ちょっと待ってよ! まだ結成して一ヶ月しか経ってないのに! それに僕だって自分にできることを精一杯やってるよ!」
親友が追放されようとしているんだ。黙っていられるはずがない俺はスラムを説得しようと試みる。
「スラム、いくらなんでもそれは暴論じゃないか? フレンは支援魔法のエキスパートなんだ。フレンがいたからこそ乗り越えられた場面がいくつもあっただろう?」
「なんだリーナス。お前はこいつに味方するのか!?」
「親友だからな。もちろんそれだけじゃないけどな」
「そうか、だったらハッキリ言ってやる! 目障りなんだよ! 俺が必死で戦ってるってのにこいつだけ安全圏で魔法使ってるだけだ!」
スラムが声を荒らげる。すると女魔法使いのミザリアが口を開いた。
「ちょっと待って、それなら私もですっ! むしろ私こそ遠くで魔法唱えてるだけなんだからねっ! だからフレンさんが追放なら私も追放されないとおかしいよ!」
「攻撃魔法はいいんだよ! 直接攻撃するからな! 問題なのは支援魔法なんだ! 俺はもう十分に強くなった。だから支援魔法など不要!」
「だからそれが暴論だと言ってるだろ! 大体だな、お前が駆け出しの頃からまともに戦えたのは、フレンの支援魔法があったからこそなんだぞ! それにフレンだって攻撃に参加してるじゃないか」
「フン、短剣一本で何ができる! 『勇者』の俺に逆らうんじゃねえ!」
その直後、俺の左頬に鈍い痛みが走った。俺はスラムから殴られたことを自覚する。
「この野郎っ……!」
熱くなった俺がスラムに詰め寄ろうとすると、フレンに肩を優しく掴まれて静止された。
「僕のためにありがとうリーナス。でも君まで手を出してしまうとスラムと同じになってしまう。それにこれ以上は……」
フレンはそう言って、ある人物へと目を向けた。そこには一連のやり取りを傍観している若い女性が一人。五人目のメンバーだ。まるで隠密行動でもとるのかと思えるような装束に身を包んでいる。戦闘では前衛を務めており、実力は申し分無い。
でもどこか冷たい眼差しをしていて、正直言って苦手だ。普段から極端に口数が少なく、こんな状況なのに一言も発していない。
俺はフレンが言いたいことを察した。フレンは俺とミザリアのことを思って、俺を止めたんだ。
「僕なら大丈夫! これからも冒険者を続けるよ。みんな今までありがとう」
そしてフレンはパーティーから去った。止めようとしたのは結局、俺とミザリアの二人だけだった。
俺も一緒にパーティーを抜けようと思ったが、俺が勇者パーティーに居続けることをフレンは望んでいる。だから俺は自分からパーティーを抜けることはしなかった。
世界一の大国であるこの国には、人類が未だ立ち入ったことがない地域やダンジョンがある。冒険者はそんな未踏破の場所を探索するという、歴史に名を残す英雄になれるかもしれない職業だ。
もちろん危険と隣り合わせ。だから子供の頃から俺とフレンは冒険者になるべく鍛錬してきた。そして21歳になり勇者パーティーに入れた今、ようやく一緒に栄光を掴めるかもしれないと思ったのに。『目障りだから』なんてそんなふざけた理由でっ……!
それから一週間が経ち、パーティーの人数はまた五人になっていた。フレンが戻ってきたからではない。スラムの独断により新たなメンバーとして、可愛い女の子を迎え入れた。
その女の子の得意とすることは支援魔法。言っちゃ悪いが、冒険者としてはフレンよりもかなり格下だ。だから初めてそれを聞いた時、俺は思わず「は?」と言葉を漏らした。メンバー入れ替えの意味は?
そしてダンジョンからの帰り道、俺はスラムからこんな言葉を浴びせられた。
「リーナス、お前は今日でこのパーティーから卒業だ!」
「よし、分かった」
「へっ?」
あっさりすぎる俺の返事に、スラムがアホみたいな声を出した。あ、表情もか。きっと想定外なんだろう。理由なんてどうでもいい。
俺やフレンのような冒険者ギルド所属の冒険者とは違って、国家公認の冒険者のことを勇者と呼ぶ。勇者パーティーはギルドを通さずに何かと国の支援を受けられ、地位や名声も自ずとついてくる。
でも一番の恩恵は税金が免除され、国から定期的に補助金が支給されることだろう。冒険者は成果を上げなければ収入にはならない。だから通常なら固定収入なんてあるわけがないんだ。
お金はもちろん大事だけど、俺とフレンが勇者パーティーに入りたかった理由は、勇者パーティーにしか探索が許可されていない地域があるからだ。
だからフレンと一緒に勇者パーティーに入れることになった時は、本当に嬉しかった。でもフレンがいない今となってはここにいる意味なんて無い。
正直、こうなることを待っていた。もちろんフレンがいなくなってからも、パーティーの活動に手を抜いていたわけじゃない。
「今まで世話になった。ありがとう」
一ヶ月と少しとはいえ、パーティーとして共に過ごしたことは事実。俺は全員に礼を言った。
追放した側なのに呆然と突っ立ってる勇者スラム、ただ無表情で俺を見る無口な女性メンバー、アワアワしている新人の女の子。ただ一人、ミザリアだけは俺の必要性を熱く訴えてくれた。俺はそれがたまらなく嬉しかったんだ。でも一緒には行けない。
俺がスラム達のもとを離れて何分くらい経っただろうか、後ろから俺を呼ぶ聞き慣れた可愛い声がする。
俺が振り返るとそこには、ひざ上丈のふわっとしたスカートの白いワンピースのような服装で、右手に杖・頭には先端がへなへなしている白いトンガリ帽子。そして明るいオレンジ色の髪の長い女の子が立っていた。
それはフレンと俺が追放される時にただ一人、反対してくれたミザリアだった。声も可愛いが顔もどこか幼さが残っていて可愛い。確か19歳だと言ってたっけ。
「お兄様、来ちゃった……!」
「俺はお兄様じゃないから!」
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【あとがき】
読んでくださりありがとうございます!
ぜひ評価やフォローをお願いします!
まだそこまでじゃない場合は……、引き続き第2話もよろしくお願いします。
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