第2話 やっぱりこの子おかしいわ
勇者パーティーを追放された俺を追いかけてくる姿があった。俺や親友のフレンが勇者スラムから追放宣告を受けた時、唯一反対してくれた女の子。
「お兄様、来ちゃった……!」
「俺はお兄様じゃないから!」
ちょっとおかしな子だ。
「それよりもミザリア、なんでここに?」
「お兄様がいないパーティーなんて無意味ですっ!」
幼さの残る顔に明るいオレンジ色の髪の毛。魔法使いの可愛い女の子が俺を追いかけて来た。でも一つだけ間違いがある。俺、この子とは赤の他人なんですよね。それどころか知り合って一ヶ月ほどしか経ってない。
「だからお兄様じゃないって」
「私より年上ですよね? だったらお兄様じゃないですか!」
「そういうことじゃなくてだな、きょうだいじゃないから、お兄様呼びは変だって話」
「もう、旦那様のほうがいいだなんて……。大胆ですねっ」
あ、これ面倒なやつだ。スルーで。
「それよりも勇者パーティーを抜けて大丈夫なのか!? だってほら……?」
「もちろん分かってますよ。『監視者』のことで心配しているんですよね?」
国家公認の冒険者のことを『勇者』と呼ぶ。冒険者ギルド以外に、国が冒険者ランクに関係なく才能のある者を見極め、それに合格した者を育成するという、『勇者育成制度』がある。
鑑定士による鑑定や、魔道具を使うなどして厳密に審査される。
要するに将来性のある者を国が育てようということだ。なので低ランクでも選ばれる可能性がある。当時一番下のFランクだったスラムは、それに見事合格したというわけだ。
そして勇者パーティーには必ず、国選メンバーを一人は加入させなければならない。それはもちろん勇者のサポートのため。なので戦闘能力は申し分無い。
それと同時に公にはされていないが、勇者の『監視』という役割も担っているようだ。要は勇者がその地位を悪用して好き勝手しないようにということだろう。まあ『監視者』というのは一般冒険者の間での通称なんだけど。
能力を把握することはできるが、人格を完璧に見極めることは難しい。なぜならいくらでも取り繕うことができるから。だから対策の一つとして監視者が存在しているのだろう。
そして勇者スラムのパーティーの監視者は、あの無口な若い女性だ。
「基本的に勇者の意向には従うことが望ましい。監視者が見たことは国に報告されるはず。なるべくなら国から悪い印象を持たれないほうがいい」
普通にしていれば特に気にしなくていいようなことだ。だけどフレンは追放を受け入れた。それを止めようとした俺とミザリアに迷惑をかけまいと。
「それなら心配いりません! ハッキリと『こんなゴミパーティー辞めてやる!』って宣言してきましたから!」
(やっぱりこの子おかしいわ)
「よし、今すぐ引き返せ! 付いて来るなよ」
俺はミザリアに背を向け歩き出した。
「ええぇーっ! ちょっと待ってくださいよぉー!」
ミザリアが慌てた様子で俺と腕を組んでくる。
本来なら監視者のことなんて気にしなくてもいいことなんだ。勇者が常識人の場合は。
元々スラムにいい印象を持っていなかったけど、まさか追放されるとは思っていなかった。俺とフレンがスラムから勇者パーティーに勧誘された時は本当に嬉しかったのに。
フレンだって俺と同じ思いだったに違いない。権力を持たせてはいけない人間ってのは存在するのだ。
「歩きにくいから離せって」
「嫌ですっ! 一緒に行っていいと言ってくれるまで離しません!」
なんでこんなに懐かれてるのか全く分からん。ミザリアに腕を組まれて、俺のペースで歩くことができないので不便でしょうがない。
「分かったからとりあえず離れてくれないか」
俺が仕方なく負けを認めると、ようやくミザリアが俺の腕を解放した。小さく「グヘヘ」と聞こえたような気がするけど気のせいだろう。
「これからどこに行くんですか?」
「とりあえずフレンを探して、今まで通り冒険者を続けようと思う」
勇者パーティーの拠点としていた都市の冒険者ギルド支部に問い合わせたところ、フレンは依頼を受けていないという。
(家に帰ったのかもしれないな)
俺とフレンが幼少期から共に過ごした故郷は人口が少ない小さな農村で、小さな子供は俺とフレンだけ。それ故に俺とフレンはいい遊び相手だった。
もちろんいろいろと気が合うから一緒に過ごしていたわけであって、もしもフレンが嫌な奴だったら、俺は一人で過ごすことを選択していただろう。
俺とフレンは冒険者になるため、数年前から故郷から遠く離れた街で暮らしている。都市から馬車で二日かけてようやく街にたどり着いた。
ここから先は俺達の街だとでも言いたげな鉄製の柵の切れ目を通り過ぎ、俺は自分が住む街に帰って来た。そういえば帰ってくるの久しぶりだな。
顔馴染みの人達に「おかえり!」と言葉をかけてもらいながら、俺とミザリアはフレンの家へとやって来た。
ドアをノックして少し待つと足音が近づいてきたので、俺はフレンが帰って来ていたことに
そしてガチャとドアが開いて一人の人物が姿を見せた。
「はい、どちら様ですか?」
ところが俺達を出迎えたのは、きらめく銀髪を肩あたりまで伸ばした若い美人さんだった。おかしいな? 確かフレンには姉も妹もいないはず。
(フレン、お前結婚してるのかよ……)
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