第3話 勇者、捕獲対象になる
親友フレンの家を訪れた俺とミザリアを出迎えたのは、銀髪を肩あたりまで伸ばしている見たことがない若い美人さんだった。
「はい、どちら様ですか?」
「えっ……と、俺はリーナスという者ですが、こちらにフレンさんはいらっしゃいますでしょうか?」
ある意味で不意をつかれた俺は、ギルドマスターに対してしか使わないような敬語になってしまう。
「それがフレン帰って来ないのよね。こんなに可愛い私が家にいるってのに」
この女の子の自己主張が強いことはさておいて、俺は純粋に気になってることを聞いてみた。
「フレンが結婚してるだなんて知りませんでしたよ。あいつも一言いってくれればいいのに」
「私とフレンは結婚していないよ?」
「これは失礼しました。交際中ということですね」
「私とフレンは付き合っていないよ?」
俺の頭の中に『?』マークが湧いてくる。妻でもない恋人でもない。それならあとは何がある? そこでふと気がつく。俺はこの女の子の服装を見落としていた。
「ああ、分かりました。メイドさんですね!」
「違うよ。私はフレンがいない間、部屋の掃除をしていただけだからね」
メイド服を着てるのにメイドじゃないだとっ……!?
「それはフレンに頼まれたからですか?」
「私が自主的にしてるだけだよ」
俺の頭の中の『?』マークがさらに増えた。
「つまり勝手に家の中に入って掃除をしてると……?」
「そうハッキリ言われると照れるねっ!」
「それって住居侵入なんじゃ……?」
「ちっ、違うからっ! 私は冒険者ギルド所属のシーフだからっ! その証拠にホラっ!」
そう言って女の子は、身分証である冒険者カードを俺に見せてきた。21歳、同い年だ。冒険者ランクはD。一番下はFランクだから、冒険者としては一人前といっていい。
確かに本物だけど、そもそもシーフだから勝手に人の家に入っていいって理由になってないから、身分証を見せられたところで意味無いんですよね。
そして俺とミザリアも、それぞれの冒険者カードを女の子に見せて安心してもらった。
「実は私もフレンを探してるんだよね。フレンが帰って来たことを私に報告しに来てくれたから、帰って来たことは間違いないんだけど、数日前からは一度も会えていないんだ。だから仕方なく! スキルで家の鍵を開けて中に入ったんだよ」
仕方なくの部分を強調して説明をする女の子。一応、フレンを心配してのことらしい。
「実は俺達もフレンを探してるんだよ」
俺はしれっとタメ口で女の子にそう言った。
「そうなの? それなら一緒に探す?」
「うーん、一応身元がハッキリしてるし、利害が一致してるから俺はいいけど、ミザリアはどう思う?」
「勝手に人の家に入るなんておかしいでしょ」
「この子のことをどう思うかじゃなくてだな……」
俺からすれば赤の他人の俺を『お兄様』だと呼んだり、勇者パーティーに向かって『ゴミパーティー』だと言い放った君もおかしいと思うんだ。
「ミザリアって言ったっけ? その子は反対みたいだけどー?」
「別にいいんじゃないですかー? フレンさんを探すことが優先なんですから」
「そうなんだよ。まずはフレンを探さないと。というわけで手を組もうか。君の名前は?」
「私はエイミーっていうんだ。よろしくねー」
「私とお兄様の邪魔をしないでくださいねー」
「何? 君達きょうだいなの?」
「いや違う。ミザリアがそう呼んでるだけ」
「うっわぁー……。ミザリア何考えてんの?」
「そういうあなただって勝手に家入るとか重いじゃないですかっ!」
君たち初対面でもう仲悪いとか勘弁してくれよ……。不安しかないよ不安しか。
俺達三人は聞き込みのため、この街にある冒険者ギルド支部へとやって来た。まずは確認したいことがあったので、俺が受付で話をする間にミザリアとエイミーには、依頼掲示板の確認をしてもらうことにした。
念のためエイミーが冒険者登録しているか、職員に確認してもらったのだ。その結果、間違いなくエイミーは冒険者ギルドに所属していることが証明された。
するとミザリアが少し慌てた様子で俺に近づいて来て、こう告げる。
「お兄様、掲示板の捕獲依頼のところ見てくださいっ」
そう言われ掲示板を見ると、探索や採集と違って難しいとされる捕獲依頼がいくつかある。対象となる魔物のイラストがズラッと並ぶなか、その中の一つに見覚えのある名前と、魔法で再現されたそっくりの顔イラストが貼られていた。
その内容とは、勇者スラムを捕獲してほしいというものだ。これは全国に指名手配されたことを意味している。賞金首と言ってもいいかもしれない。
(一体あいつは何をやらかしたんだ?)
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