第4話 勇者を捕獲することにした

 フレンを探しに来た街にある、ギルド支部の掲示板に勇者スラムの捕獲依頼があった。依頼主は国。事実上の全国指名手配だ。

 もちろん治安維持のための国家騎士団も動員するだろうが、それに加えて冒険者ギルドに協力が要請されることもある。


 探索・採集・護衛など冒険者の仕事は数あれど一番危険とされるのが、直接魔物を相手に戦うことだ。その中でも捕獲と討伐に分かれている。


 捕獲と討伐の決定的な違いとは何か? それは相手の命を奪うか否か。そして勇者スラムに対する依頼は『捕獲』。さすがに討伐ではないようだ。国が「あいつを仕留めろ」なんて表立って依頼するのはマズイのだろう。


 依頼達成の懸賞金はいくらだ? ……マジか。贅沢しなければ一生働かなくてもいいんじゃね? ってくらいの大金。


(一体あいつは何をやらかしたんだ? どれどれ……?)


 依頼書には『勇者育成制度』の対象でありながら、その地位を悪用する行き過ぎた行為の数々が書かれている。追放もそのひとつらしい。自分で勧誘しておきながら、大した理由も無くあっさり追放する。確かに身勝手な行為だろう。


 冒険者にとって信用というものは大切だ。例えば護衛の依頼があったとして、パーティーを追放されるような冒険者に任せてもらえるだろうか?


 ましてやそれが勇者パーティーの場合、知名度が抜群にある。もの凄い早さで全国に知れ渡るだろう。そうなると今後の活動に支障が出ることは想像にかたくない。


 だからって指名手配ってのはやり過ぎな気もするが……? 俺が殴られたのだって確かに暴行だが、冒険者同士のいざこざなんて珍しいことじゃない。


 俺はそう思いながらもう少し詳しく依頼書を見てみると、それ以外にも女の子に乱暴しようとしたり、ナイフで人を傷つけたりといったことも書かれている。


(あいつ、普通に犯罪おかしてるな)


「お兄様、やっぱりゴミパーティーでしたね」


「ゴミなのはスラム一人だけどな」


 おそらくあの無口な『監視者』が国に報告したのだろう。


「何なに? 二人はこのスラムって奴のこと知ってんの?」


 エイミーが興味津々で聞いてきたので、俺は経緯をまとめて説明した。


「目障りだからって何それ。フレンもリーナスも悪くないじゃん。追放されて良かったね。ていうかフレンそんなこと一言も言ってなかった」


「良かった……のか? 俺達が追放されてなければ、こんな事態にはならなかっただろうに」


「どう考えてもスラムって奴の自業自得だよ。それにそれまでパーティーのために精一杯頑張ってきたんでしょ? リーナスのせいじゃないよ」


「ありがとう。そう言ってもらえると助かる」


「それにしても私からすれば、ミザリアは思い切った行動したよね。自分から勇者パーティーを抜けるなんて」


「お兄様がいないパーティーなんて無意味ですからねっ。お兄様が一番大事なんですっ!」


「アンタ相変わらずっも!」


「それはあなたも同じじゃないですかっ! 勝手に他人フレンの家の鍵開けて入るとか、普通じゃありません!」


「私はフレンの友達だからいいんですぅー!」


「ケンカするなって!」


 なんでこんな疲れるパーティーが出来上がったのか。俺とミザリアは他人だし。あとフレンとエイミーは友達なんだな。


「それでどうするつもり? そのスラムっての捕まえるの?」


 まだ若干興奮しているエイミーが依頼を受けるか確認をしてきた。国からの捕獲依頼は受付を通さなくてもいい。

 冒険者は各地にたくさんいるから、スラムからすれば気の休まる場所なんて無いはずだ。つまりどこにいても捕獲される危険がある。


「うーん、スラムはかなり強くなったからな。低ランク冒険者では敵わないだろう。下手をすれば返り討ちだ。そういった意味でも自由にさせるわけにはいかない」


 俺はスラムを探すことに決めた。使命と言えば大げさだが、そうしなければならないという思いがあった。


「これは俺の義務だ!」


 そしてもし見つけた時、俺はどうするのだろう? 冷静でいられるだろうか? できれば捕獲して正当に処分を受けてもらいたい。なんてのは綺麗事だろうか。


(まあ実際会ってみないとどうするか分からないけどな)



【次回、勇者スラム側の話】

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