第6話 どうしてこうなった

 元勇者スラムの捕獲依頼が国から出た。莫大な懸賞金がかけられているため、どの街にいても気の休まる時なんて無いだろう。


 冒険者ギルド支部は小規模な街にも必ずあるもの。そうでなくてもパーティーの拠点になっていたり、冒険者専用の宿があったり、たまたま依頼で訪れたりして、見かけない日は無いんじゃないかというほど、冒険者の姿は日常の光景となっている。


 そして冒険者にもいろんな人がいて、控えめな人もいれば血の気が多い人もいる。賞金稼ぎ専門のようなパーティーもあるらしい。スラムはそんな人達から日々狙われ続けるわけだ。


「オッケー、じゃあそのスラムってのを探すことを目的にするわけだね」


 エイミーが俺とミザリアに確認するように聞いてきた。


「そうなるけど、まずはフレンを探さないと」


 俺達三人はフレンが依頼を受けていないか確認するため、受付にいるキレイなお姉さんに聞いてみることにした。


「すみません、ここでフレンという人が依頼を受けていませんか?」


「フレンさんですか? ではあなた方の冒険者カードをご提示ください」


 俺達はそれぞれの冒険者カードをお姉さんに見せた。どんな依頼を受けたかというのも、いわば個人情報にあたる。なのでまずは身元を証明する必要があるわけだ。


「女性はお二人ともDランクですね。そしてあなたは……Aランク! その若さですごいじゃないですか!」


 お姉さんのテンションが爆上がりした。これまでに、危険な依頼をいくつもこなしてきた実績を買われて勇者パーティーに入ったんだ。子供の頃からフレンと一緒に鍛錬ばっかりしてきた甲斐があった。


「……失礼いたしました。フレンさんが依頼を受けているかどうかですね。えっと……その方なら数日前から北にあるダンジョンの魔物討伐依頼を引き受けていますね。明日が帰還予定日になっていますよ」


「それってやっぱりパーティーを組んで行ったんですよね?」


 俺がそう聞くとお姉さんは、手元の書類に視線を落としながら口を開く。


「この依頼受理書にはフレンさんお一人の名前しか書かれていませんね」


「一人で魔物討伐に行ったということですか?」


「そうなります。でもこの魔物はDランク冒険者パーティーでも難なく勝てる強さなので、Aランクのフレンさんはお一人でも心配いらないと思いますよ。本当に無茶な場合は私が止めてます」


「そうですか。ありがとうございました」


 お姉さんだってギルドの受付として、冒険者の情報と依頼内容を照らし合わせて、無茶かどうかの判断ができるのだろう。

 それ以前にギルドのルールとして、実力に見合わない依頼は受けられない。俺達はお姉さんに軽く頭を下げてから受付をあとにした。


 もしかすると俺が懸念していたことになっているのかもしれない。冒険者への依頼で最も危険な依頼である魔物討伐は、パーティーで挑むというのが基本だ。にも関わらずフレンは一人で向かった。


 依頼のためだけに即席のパーティーを結成することも多いのだが、フレンはそれをしていない。いや、できなかったのかも。


『勇者パーティーを追放された奴』として、誰もパーティーメンバーになってくれなかったのか? いや、フレンはAランクだ。7段階あるうちのSランクに続く上から2番目だぞ。


 Sランク冒険者は数えるほどしかいないという。だからAランクだってかなり重宝されるはずなのに。


「とりあえず明日まで待ってみるか」


「そうだね。帰ってくるのが分かってるならそれがいいね」


「それなら宿を探しましょうー!」


 もうすぐ日が暮れそうだ。暗くなる前に俺達は宿を探すことにした。ところが困った事態になる。すでにどの宿もいっぱいで、ようやく空きがある宿を見つけたものの、空いてる部屋が二部屋しかなかったのだ。


 俺は自分の家に帰って寝ると言ったんだが、ミザリアとエイミーの二人から近くにいてほしいと頼まれた。


 そんなに俺が好きなのか。どちらを嫁にするかなと悩むところだが、もちろんそんなわけはなく、実際のところはミザリアとエイミーがお互い二人きりになりたくないだけだと予想した。だってこの二人仲悪いんだもの。


「二部屋しか空いてないのかぁー。仕方ない、リーナス一人で一部屋使ってよ」


「男一人に女の子二人だからな。やっぱりそれしかないか……。申し訳ない」


「謝らなくていいってー。私だって一人で一部屋使わせてもらうんだから」


(おかしいな、計算が合わないぞ?)


「エイミー、ミザリアと同室になるだろ?」


「ミザリア? 野宿でしょ?」


 平然と言ってのけるエイミー。マジか。やっぱりこの子もおかしいわ。


「ちょっと! 残りの一部屋は私が使うんですっ! エイミーこそ野宿がお似合いですっ! あっ、シーフのスキルでまた他人ひとの家に入って寝ればいいと思います!」


「私はそんなことしないっ!」


「宿の受付でケンカするんじゃねえ!」


 二人同室で寝るという発想が二人とも出ないのは、もはや奇跡といえるんじゃないだろうか。


 夜になりあとは寝るだけとなった俺だが、どうにも落ち着かない。


「お兄様、そろそろ寝ましょうか」


 隣にミザリアがいるのだ。部屋にベッドは一つだけ。どうしてこうなった。

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