第7話 可愛い女の子と同じ部屋で寝る

 夜。俺とフレンが住む街にある宿の、決して広くはない一人部屋の中には、俺とミザリアの二人がいる。


 自分が住んでる街の宿に泊まることなんて無いので、冒険者ギルドの近くという好立地の宿なのに、あまり豪華ではないことが予想外だった。


 ミザリアはいつもの白いふわっとしたスカート姿ではなく、薄い青の半袖シャツに白いショートパンツという、完全に部屋着の服装だ。

『どこまでがショートパンツ?』と思うほどに、白い素肌によく合っている。


 頭にいつものトンガリ帽子は無く、オレンジ色の長い髪を一つにまとめており、いつもと違う姿にやっぱりこの子は可愛いんだと再認識した。


「お兄様、そろそろ寝ましょうか」


 やっぱりどこかズレてるミザリアがそう言うと、ベッドインして俺を待つ。俺はそんなミザリアを見て荷物から寝袋を取り出した。


「俺は寝袋で寝るからミザリア一人でベッドを使ってくれ」


「宿なのに寝袋で寝るって、おかしくないですか?」


 そんなミザリアの疑問に「おかしいのは君だから」と言いたくなるが、その言葉は飲み込んだ。腹の足しにはならないけど。


「ベッドは一つだけだからな」


「もうー、そういうことなら早く言ってくれればいいのに」


 ミザリアはそう言ってベッドから降り、自分の寝袋を用意し始めた。


「お兄様がベッドを使ってください!」


「いやそういうことじゃなくて、恋人でもない男女が同じベッドで寝るのは良くないって話。仮にも親友が行方不明なんだから、そんな気にはなれない」


「そんな気って、ただ一緒に寝るだけですよ? いったい何を想像してたんですか?」


 一点の曇りもないような目でミザリアが聞いてくるので、いつの間にか俺の方がおかしいという感じになっている。


「とにかく俺は寝袋で寝るから、ミザリアは一人でベッドに寝るように!」


 俺がそう言うとミザリアは、「仕方ないですねー」と渋々ベッドに戻っていった。これは俺の感覚の方が正しいという自信がある。


 俺とミザリアが互いに「おやすみ」と言ってから、部屋に備え付けのランプのあかりを消すと、部屋の中が闇に包まれた。

 それから一分も経っていないだろうか。ベッドの方から、もはや聞き慣れた可愛い声が聞こえてきた。


「お兄様、まだ起きてますか?」


「起きてるよ」


「お兄様とフレンさんの話、聞かせてほしいです」


「前にも言ったと思うけど、子供の頃から同じ村で過ごしてきて、冒険者になるために一緒にこの街まで出て来たんだ」


「そうですよね。でも私が聞きたいのはどうして仲良くなったのかってことです」


「話すのは構わないんだけど、どうしてそれを聞きたいんだ?」


「一ヶ月くらいとはいえ、フレンさんも一緒に勇者パーティーで行動をともにした大切な仲間ですから、もっと知っておきたいんです」


「あんまり面白い話じゃないけど——」


 俺はそう前置きしてから、初めてフレンと会った日のことをミザリアに話す。


「俺が小さな子供の頃、両親に連れられてフレンが住む村にやって来たんだ。ちょうどその頃の俺はいわゆる『悪ガキ』というやつだった。都市から田舎への引っ越しが気に入らなくて、人に対する態度が悪かったんだ」


 今にして思えば、単なる子供のワガママだ。恥ずかしいとすら思う。


「フレンは隣の家に住んでて、お互いの家族同士であいさつをした時に、フレンは俺に優しく微笑んで握手をしようとしてくれたけど、俺はその手を振り払ってしまった」


 こうして改めて人に話すと、やっぱり気分のいい話ではない。にも関わらずミザリアは、あいづちを打ちながら聞いてくれている。


「そんな態度を取られたら、『もうあんな奴とは関わらない!』となってもおかしくないのに、それからもフレンは俺を遊びに誘ってくれたんだよ」


「それから少しずつ仲良くなっていった、と。なんだかフレンさんらしいですね。それでお兄様はジワジワと心を解かされたんですねっ!」


「少し表現が怪しい気もするが、簡単に言うとまあそんなところだな」


 俺の話を聞いたミザリアは満足したのか、その後わりと早めに眠ったようだ。そういえばここまで話したのはミザリアが初めてかもしれない。



 翌朝。俺が目を開けるとミザリアが俺の顔を覗き込んでいたので、寝袋に入ったままで一応聞いてみる。


「何してる?」


「お兄様の寝顔……グヘへ」


「よだれよだれ! 顔にかかるっ!」


 俺は寝袋のまま転がり回避した。同室で危険なのは実は俺の方だったとは……。


 エイミーと合流した俺達は宿で朝食をとったが、エイミーからはミザリアと同室だったことについて追求された。そもそもはエイミーがミザリアとの同室を嫌がったのが原因なのに。


 冒険者ギルド支部に入った俺達は、フレンが帰って来ていないか昨日と同じ受付のお姉さんに確認した。

 どうやらまだ帰って来ていないとのことなので、エントランスのフリースペースに置いてあるテーブル席で待たせてもらうことに。


(まだ午前中だしな、ここで待つか)


 ところが夜になってもフレンは帰って来なかった。

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