第16話 体験談
俺達は今、人探しの宝具があるという森の中にいる。その森の名は『
この森の中心部には遺跡がある。そこに目的の物があるらしいのだが……。
「見てみてー、木の根元に真っ赤なキノコが生えてるよ。綺麗だね、美味しそう」
エイミーが楽しそうに、鮮やかな赤いキノコを指差す。
「ああ、それは『バーサクマッシュ』だな。見た目は綺麗だが、結構エグい毒キノコだ」
「バーサクマッシュ……ですか?」
エイミーよりも先に、ミザリアが首を傾げて聞いてくる。
「一口でも食べてしまうとバーサク状態、つまり狂ったように戦いを欲するようになってしまう。相手が強かろうが関係ない。そして戦闘能力が限界を超えて大幅にアップする。さらに痛みを感じなくなると言われているんだ」
「痛みを感じないなんて、いいですね」
「そんなことはないぞ。痛みというのはとても大切なもので、痛みを感じるからこそ体の異変に気がつくことができる。もし痛覚が無ければ、例え骨折していようが切り傷から大量に出血していようが、気がつくのが遅れてしまい、手遅れになることだってあるだろう」
「なるほどー。なんともないと思ってさらに無茶をすることもあるわけですね。でも無敵でもなんでもないから、体は壊れてしまう。確かに恐ろしいです」
「そういうことだ。だから絶対に食べないように」
「わかりましたぁー!」
ミザリアが右手を上げて元気よく返事をした。元気で素直な女の子だと思う。少しおかしいところはあるけど。
さっきの説明は当然エイミーにも聞こえており、今度はエイミーから質問がとんできた。
「それにしても、よくこんなマイナーなキノコのこと知ってるね。私なんて存在も知らなかったのに」
「俺とフレンはAランクだからな。それなりに危険な場所に行くことが多いから、事前準備としていろんな知識を取り入れるようにしているんだ」
「そうそう。予定外に野宿をすることになって食べ物が足りなくなったこともあったからね。そんな時は勉強しておいてよかったと思うよ」
フレンがそう言って補足すると、エイミーが感心したように言葉を発する。
「そっかぁー。冒険者ってただ強いだけじゃダメなんだね、知識や経験もないと。まさかこんなキノコ食べる人なんていないよね」
「何言ってんですか、エイミーはさっき『美味しそう』って言ってたじゃないですか。食べてみればいいんじゃないですかぁ?」
「あぁん? ミザリアの口に大量に放り込んでやろうかっ!」
「ケンカするなって!」
「ま、まあまあ……。僕とリーナスが行くような場所はAランク推奨だし、あまり知られてない植物とかあることが多いから、知らないのも無理ないよ」
「フレン、優しい……! でももしこのキノコ食べる人がいるとすれば、腹ペコで今にも倒れそうな人くらいのもんだよね。背に腹はかえられないっていうか」
「確かにそうかもしれないが、それで腹は満たされても結局は破滅の道をたどることになると思うぞ」
「だよねぇー、フレンとリーナスがいてくれてよかった! ホントなんでスラムってのはAランクの二人を追放したんだろう」
それからさらに進むと、ひらけた場所が見えた。その中心部には不自然に大木が一本あり、何やら果実がなっている。
「見てみてー、あのでっかい木に美味しそうな実がなってるよ。取りに行かない?」
またもやエイミーが楽しそうに、大木を指差して先に進もうとする。
「待て! あの木に近づいたらダメだ!」
「ダメだよ! 危ないから止まって!」
俺とフレンが大声で制止すると、エイミーはビクッとなって俺達に視線を向けてきた。
「急に大きな声出さないでよっ! なんで近づいたらダメなの!?」
「あれは罠だ。あの木になってる果実を取ろうとしたら、ブラックドラゴンがやってくる」
「えっ……! ブラックドラゴンって、あのSランク魔獣の?」
「そうだ。あの果実は人間をおびき寄せるための罠だ。そもそもこんな不気味な森のひらけた場所のど真ん中に、果実がなる木が一本だけあるなんて不自然だろう」
「言われてみればそうかも……。フレンとリーナスはそんなことまで知ってんだね」
「まあな」
なんでそんなことを知ってるのか。それは実際に体験したからだ。ずいぶん前のことだが、ギルドの依頼をこなすため、俺とフレンと初対面の二人の計四人のAランク即席パーティーで、ここに来たことがある。
そしてその中の一人が、さっきのエイミーみたいに、
フレンの支援魔法があったからなんとか逃げ切れたが、もう二度と体験したくない思い出だ。
「ホントにフレンとリーナスがいると心強いねっ!」
「そうですね! もし二人がいなかったら、迂闊なエイミーは2回滅んでましたねっ!」
「あぁん? 毒キノコ食わせてあの木の下に放り込んでやろうかっ!」
「ケンカするなって!」
(煽り耐性アップの魔法とかあればいいのに)
それから一時間ほど歩き、ようやく目的地の遺跡へ到着した。
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