第22話 勇者を捕まえたから国に突き出す途中

 俺達は常闇の森を抜け、王都へとやって来た。ミザリアが作り出した魔法の鎖は淡いピンク色に光っており、スラムの腕と腰にしっかりと巻き付いていて、その動きを封じている。


 さらに足にまで鎖が巻き付いており、自然と『気をつけ』の体勢になっている。ならばどうやって前に進むのか。


 直立不動で鎖が巻き付いたまま、どこも動かさずにスーッと前に移動している。これがまた不気味でけっこう恐い。

 

「なあスラム。もし俺達がさっきあのままお前の誘いにのっていたらどうなっていたんだ? 確か転移石を使うと言ってただろ」


「いいぜ、教えてやる。あれは地獄へと転移する転移石で俺が死神からもらったものだ」


 つまりもし俺達があのままスラムの近くに行っていたら、全滅していたということか……。そういえばエイミーは何の疑いもなく行こうとしていたな。遺跡にあった罠は見抜けるのに。


「ちょっとリーナス、何か失礼なこと考えてない!?」


「いや、別に」


 自分の姿を別人に変えるなんてことはできない。それこそ神のみが起こせる奇跡のようだ。例えそれが死神であったとしても。だからスラムが言ってることは本当なのだろう。


 未だに俺のほうを見て「ホントかなぁー?」と首をかしげるエイミーを尻目に、俺はそんなことを考えていた。



 森を抜けると、青い空からの暖かな光が身体に降り注ぐ。ずっと暗い場所にいたからか、陽の光を浴びることの大切さを改めて思い出させてくれた。


 俺達は四人パーティーだ。ところがそこにピンクの鎖が全身に巻き付き、直立不動のまま音も無く付いてくる人間がいたら、周りからはどう見えるか? 


「ミザリア、スラムの両手だけを拘束することはできないか?」


「こうですか?」


 ミザリアが杖を一振りすると、スラムに巻き付いていた鎖が消えて、スラムの両手首だけを拘束する手錠に姿を変えた。

 いとも簡単にできるあたり、やっぱりミザリアは優秀なんだな。


 一刻も早くスラムを国王のもとへ連れて行くために、フレンの支援魔法を使った。そのおかげで日が暮れる前に王都に着いた俺達は、早速城へと向かうことにした。


 城下町では人々がみんな俺達を見ている。有名指名手配犯を連れているんだから当然だろう。中には「先を越された」やら「あの女の子二人とも可愛い」なんて声もある。


 意外だったのはスラムがおとなしく付いて来たことだ。森の中で会った時はいろいろと崩壊していたのだが、今はこの静けさがなんとも不気味に感じる。静かでおとなしい方がいいというのに。


「なあスラム。お前森の中に生えていたキノコ食ったか?」


「あぁん? キノコだと? 食ったがそれがどうしたってんだ」


 なるほどな。あのキノコはバーサクマッシュという毒キノコ。自分の実力を考えず常に戦闘を欲するようになってしまう。

 食べた直後が最も効果が強いが、一度でも口にするともう元には戻れないとか。


 さらにずっとバーサクマッシュを求め続け、それが無いと生きられず、次第に量も増えていく。なんとも恐ろしいことだ。


「いいかよく聞けスラム。お前が食ったキノコはバーサクマッシュという毒キノコだ。少しでも体内に入ると、体が壊れようが実力が無かろうが、戦闘を求め続けてしまう」


「てめぇの言うことなんて信じるかよ!」


「信じないならそれでもいい。ただ一つ教えておく。意思を強く持て。戦闘をしたいという欲を抑えつけるんだ。そしてあのキノコのことは忘れろ」


「リーナス、何を訳わかんねえこと言ってやがる!」


 人は簡単には変わらない……か。スラムは聞く耳を持たないといった感じだ。


 これからスラムは罪の償いと、バーサクマッシュによる戦闘の衝動を抑え込むという苦痛の日々を過ごすことになるだろう。

 だからさっきのアドバイスは、俺からのせめてもの情けだった。



【次回、最終話】

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