第23話 変わらない日々
「元勇者スラムよ、何か申し開きがあれば話してみよ」
国王がスラムに向かってそんな言葉をかけた。スラムは今、大勢が見守る中でただ一人国王の前でひざまずいており、両手にはミザリアの魔法で作られた手錠ではなく、国が使う正式な拘束具がはめられている。
「国王様……っ! 俺は、俺は悪くないんです! 実力の無い者はパーティーから除名する。それって普通のことだと思いませんか!」
涙ながらに訴えかけるスラムだが、俺達を含め周りにいる騎士や大臣までもが冷ややかな表情でスラムを眺める。
「ふむ、確かにそれについては一理あると認めよう。だがこれはそんな単純な話ではないことくらいは分かるであろう?」
国王はスラムをジッと見つめてそう言った。するとさすがのスラムもバツが悪かったのか、顔をそむけて言葉を発することを諦めたかのようだった。
「元勇者スラムよ。今日からその身を拘束する。そして己が犯した罪や行動を時間をかけて省みるのだ。そして然るべき報いを受けよ」
「俺は勇者だ! 犯した罪ってなんだよ! 国王様! 俺は勇者なんです……! いやだ! 許して下さい! アヒャヒャ! もっと血を流そうぜっ……!」
あまりにも異様なスラムの様子を見た周りの騎士達が、一斉にスラムを取り囲む。
どうやらバーサクマッシュの禁断症状が出始めているらしいな。だがこの先スラムはバーサクマッシュを食べることはできない。
有罪になり収監されるだけならまだしも、それらの衝動を抑えながらなのだから、どれほど過酷な日々が待っているのだろうか。
さすがに国もそのまま放ってはおかないだろうけどな。
騎士達がスラムを取り押さえようと試みる。
「放せっ! 俺は悪くない! 俺は勇者なんだぞ!」
まるで小さな子供のように暴れるスラムが、ことあるごとに勇者という言葉を口にする。そんなに勇者であることを大切にするのなら、なぜそれに相応しい行動を取ることができなかったのか。
騎士達に半ば引きずられながらこの謁見の間を出て行くスラムを尻目に、俺は改めて勇者という存在の大きさについて考えさせられた。
「さて、これからどうするか」
俺達四人のパーティーの目的はスラムを捕まえて国に突き出すことだった。それが達成された今、解散という選択肢もある。
懸賞金については辞退した。ありえない選択かもしれないが、被害に遭った女の子がいることを考えると、とても貰う気にはなれなかった。
国王に顔と名前を覚えてもらえただけで十分だ。正直言ってそのほうが俺達にとっては価値がある。なぜなら俺達は勇者になることを目指しているのだから。
聞いた話だと被害に遭った女の子二人は幸いなことに、心に傷を負うこともなく、今も元気にしているとのことだ。
「僕は今まで通りリーナスと二人で冒険者を続けるよ」
「私はフレンについて行くだけだよ!」
「私はお兄様について行きますっ!」
「なんだ、それじゃ何も変わらないじゃないか」
「うーん、変わらなくてよくない?」
俺が何気なく口にした一言に、エイミーがそんな言葉を返してきた。
「結局のところはさ、その人はその人らしく、言い換えれば自分は自分らしく生きていけばいいんだよ。もちろん悪いことはしないようにね。スラムみたいに地位や名声を得た途端に悪い方向に変わってしまうくらいなら、私はそんなものいらないかな」
「どうしたエイミー、今日はまともじゃないか」
「ちょっと! それじゃまるで私がいつもはおかしい子みたいじゃない!」
「ププッ、まさかエイミーは自分がまともだと思ってたんですかぁ?」
「あぁん? ミザリアよりはマシだろうがっ! このトンガリ帽子めっ!」
「ケンカするなって! こういうところは変われよ!」
「まあまあ、リーナス落ち着いて。僕は賑やかで好きかな」
すぐケンカする女の子二人を俺がなだめ、フレンはそれを見て微笑む。確かにこれはこれで
変わらなくていい日常なのかもしれないな。
俺達は勇者を目指す。そしてもしそれが実現した時、俺はどうなっているのだろう。スラムのようになってしまわないだろうか。
きっと大丈夫だ、心配ない。俺は今まで冒険者としていろんなものを見てきた。そしていろんな人と出会った。そのなかで人を敬う気持ちを忘れないようにしてきたつもりだ。
誰もがそんな気持ちを持てば、今回のようなことは起こらないのだろう。
俺はこれからもこの頼もしい仲間と共に、いつの日か誰からも尊敬されるような勇者になることを改めて誓った。
(了)
【あとがき】
これにて完結です。初めてのファンタジー作品でしたが、その難しさを実感しました。
ですが読んでくださった方・応援や評価・フォローをしてくださった方々がいたことがとても嬉しかったです! 本当にありがとうございました!
他にも作品を完結させてるので、よければ読んでみてもらえると嬉しいです。ジャンルはラブコメです。
これからも活動を続けますので、またどこかで見かけましたら、よろしくお願いします。
猫野 ジム
親友と俺を追放した勇者を捕まえて国に突き出すことにした。なお、個性的な女の子もついてきて勇者は勝手におちていく模様 猫野 ジム @nekonojimu
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