第13話 これからも、ずっと


「本当にお疲れ様。

 付き合ってくれてどうもありがとう。すごく良い経験になったわ~」


「……本当にプロになった?

 ……もう、まだプロじゃないし、おだてても何も出ないわよ~。

 私のお給料は見習いで、まだまだなんだから~」


「でも、……またこうして、あなたの髪をカット出来て嬉しいわ~。

 子供の頃からあなたの髪を切っていたから……他の人が切っていると思うと、ちょっと寂しかったのよ~」


「……そうね~。まさか、自分で切っているなんて思わなかったわ~」


「どうして、他のところでカットしてもらわなかったのか、……やっぱり聞いてもいいかしら~?」


「……(息を呑む音)」


「……それは、……予想外だったわ~」


「あなたも、寂しいと思ってくれていたなんて~……」


「……もう。……ちょっと今は、顔を見ないで欲しいわ~」


「どうして? って。……もう、意地悪ね~」


「だって、私、顔が絶対赤いもの~」


「……そんな顔が見たいって、……本当に意地悪ね~。

 昔も、今も、ずっと意地悪なんだから~」


(お互いの近くの床で足音が鳴る)

(少しだけ衣擦れの音)

「……あなただって、顔が真っ赤じゃないの~。人のこと、言えないわ~」


「……ふふっ。二人して真っ赤になって……。

 ……そうね~。店長にこんなところを見られたら、何を言われるかわからないわね~」


「……さっきあなたが言っていたことって、そういうことだったのね~」


「鈍いって。……そ、そんなことないわよ~」


「絶対鈍い? 恥ずかしいこといっぱい言われたし、された?

 ……あなただってそうなのに。納得いかないわ~」


「……少し、片づけを待っていてくれる?

 今日は、一緒にお食事をしたいわ~」


「……え? それはこっちのセリフ?

 じゃあ、二人とも同じ気持ちだったってことね~。嬉しいわ~」


「……あらあ。また顔が真っ赤よ~?


「……私も顔が赤い?」


「……全部、お互い様ね~」


(しばらく片付けの音が響く)


「……ねえ。また、実験台になってくれるかしら~」


「……ありがとう」


「……これからもずっと、私があなたの髪を切るわね~」


「うん。……約束よ~」


(ぱち、っとライトを消す音と、扉を閉め、鍵をかける音)

(幸せな静寂に満ちる音が広がり、二人を見送る)


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幼馴染の美容師見習いとの密室空間 和泉ユウキ @yukiferia

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