第12話 写真を撮らせてくれないかしら~


(しゃき、しゃきん、と少しずつ髪を整える音が響く)

「……うん。出来たわ~」


(こつこつと遠ざかる足音)

(またこつこつと足音が近づき、主人公の後ろで鏡を持って止まる)

「後ろは長くなり過ぎた分を切って、軽くしてみたわ~。どうかしら~」


「……え? ばっちり? 良かったわ~」


「あ、じゃあ写真を何枚か撮らせてくれないかしら~。

 時間がある時に、こんな感じになりました~って店長に見せるの」


「ありがとう。じゃあ、ちょっとそのままでいてね~」


(かつかつと足音が遠ざかる)

(ロッカーを開く音が遠くから響き、バッグのファスナーの音が鳴る)

(足音がまた戻ってくる。先程よりも軽い足取り)


「じゃあ、いくわよ~」


(カシャッと、カメラのシャッター音)

(角度を変えて、何度もカシャカシャッと鳴り響く)


「前髪も撮りたいんだけど……大丈夫かしら~。

 顔を見せることになっちゃうから、嫌なら断ってね~」


「……構わない? ありがとう。

 あ、顔だけ何かをかぶせて加工しようかしら~。……でも、眉も見せるから駄目ね~……」


「別に構わない? ……本当にありがとう。じゃあ、撮るわね~」


(シャッター音。何度も鳴り響く)


「もう、全部仏頂面じゃないの~。

 ……モデルとしての表情だと、どうしていいかわからない? もう、普通でいいのに~……。……ふふっ、でもこの顔、可愛いわ~」


「……え? そんなことない?

 いいのよ~、私だけが知っていれば」


(最後のシャッター音)


「……はい、お疲れさまでした~。今、自由にするわね~」


(首の後ろでばりばりっと、マジックテープが剥がれる音)

(ばさっとカットクロスを取り払い、椅子を九十度右に動かす音)

(椅子が軋む音)

(立ち上がって、二人でレジカウンターへと歩く音が続く)


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