第9話 鶏小屋

○郊外の鶏のいない鶏小屋

  ライトバンは、鶏小屋の前で停車する。

  ドアを開けて、ふらふらと出て来る公一は、人気の無い鶏小屋に入って行く。

  洋子も真っ青になって公一の後に付いて行く。

  公一は、薄暗い鶏小屋の中で屈み込む。

  洋子も公一の隣に座り込む。

洋子「あの人、死んだよ。きっと、死んじゃったよー 洋子怖い、怖い…」

  と、言って洋子は、震えている。

  公一は、かすれた声で、

公一「死んだな。俺。人殺しだな…」

  公一は、洋子を抱き寄せると洋子の顔を見つめる。

  怖さ、恐ろしさで公一を見つめ返す洋子。

  公一は、洋子にむしゃぶり付く。

  次第に日は暮れ、雨が降り出す。

  雨音だけが、静かに小屋の中に響く。

  公一と洋子は、寄り添って黙っている。

洋子「死ぬのー? 公ちゃん… 洋子を殺して公ちゃんも死ぬんでしょ…?

   その気なら、それでもいいよ… 洋子いいよ…」

公一「……」

  二人の沈黙が続く。

公一「はぁー こうしていると、意識が霞んでいくよ。

   みんな遠い昔の出来事だ…」

  と、公一は、独り言を呟く。

  洋子は、疲労で寝てしまっている。

公一「洋子… おまえの心は綺麗だな…

   みんな、心の中は綺麗なのかもしれないな…

   もう、何もかも考えたくない…」

  すると、洋子が寝言を呟く。

洋子「洋子いいよ… 洋子…」

  公一は、洋子の顔に頬ずりをする。

  鶏小屋の片隅で寄り添う二人を静かに雨音が包んでいる。

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