第2話 公一の夢

○学友の下宿、麻雀(昼間)

  公一混じえて4人の男子学生が取り散らかされた四畳半の部屋で麻雀パイを

  かき回している。

学生A「あーあっ!」

  仰向けに寝転がる。

学生B「俺、明日までの実験レポートがあるんだようっ!」

学生A「明日の語学の講義、休講にならないかなぁー」

学生C「俺に代返させないでくれよなっ!」

  公一は、寝転がって煙草をふかしている。

  学生Bは、両手で膝を叩くと、

学生B「そろそろ夏休みだなぁ、うん!」

  その言葉で学生A、B、Cは何やら話を始めるが、

  公一はそのまま寝転んでいる。


○喫茶店内

  目まぐるしく働く人々、公一もカウンター内で黙々と働いている。


  (公一の横顔からオーバーラップ)


○草原

  TOWN PRODUCTIONと書いたマイクロバスが走って来て

  小高い丘の上に止まる。

  そのバスの中からは、きらびやかな衣装をまとった数人のモデル達が

  降りて来る。


○マイクロバス

  慌ただしく撮影機材をおろすスタッフたち。


○撮影現場

  35ミリフィルムカメラの横に立っている公一がスタッフやモデルに

  指示している。

公一「このCFは、もっと明るくて軽い感じを出したいんだなぁ…」

  指示をする公一に従うモデルたち。

公一「ヨオーイッ、スタートッ!」

  撮影台本片手に真剣な眼差しの公一


  (公一の横顔にオーバーラップ)


○喫茶店内

  やがて閉店となる。ウェイトレス達は集まって話をしている。

  カウンター内の従業員達は帰って行く。

  そこへ洋子がやって来る。

洋子「はいっ」

  洋子は、公一に売れ残りのパンを一つ差し出す。

洋子「来週の休み、二人で何か美味しいものを食べに行かない?

   大学もう休みなんでしょ?」

公一「……」

  公一は、聞こえないふりをして食べている。

洋子「ねぇ! どうかしたの?」

公一「そんなこと、あの店長のおっさんに言えばいいじゃねえか!」

洋子「なに言ってんのよ! 洋子わかんないよう!」

  洋子はそう言って去って行ってしまう。

  公一は、パンを食べ終わると壁のスイッチを切る。

  真っ暗になると店内のレジに集まっていたウェイトレス達がキャーッと言う。


○公一の下宿

  裸電球のソケットをひねると室内は明るくなる。

  電球の近くに公一の疲れきった顔が浮かび上がる。

  部屋の壁には、色々な映画のポスターが所狭しと貼ってある。

  散らかった部屋は、コタツと扇風機が同居しており、

  書きかけの原稿用紙が乱れている。

  公一は崩れるように座り込む。

  ふと、ドアの傍らに落ちている手紙を見つけると拾いに行く。

  拾い上げて差出人を見ると、それは母からのものである。

  公一は面倒くさそうに窓の側に歩み寄り、開封して読み出す。

母ナレート「公一、元気でやっていますか? もう直、夏休みに入ると思います。

 公一、今度の休みは帰って来てね。3回生になってからは、

 ばったり帰って来ないじゃないの。

 顔を見せてちょうだい。

 それから、公一が小学校の時植えた柿の木を公一は覚えていますか?

 まだ、切られずに残っていました。今ではもう昔のことだけど…」


○回想 家の裏庭

  小学生の公一、妹、父、母がいる。

  4人は楽しそうに小さな柿の木を植えている。

  スコップを持ち地面に穴を掘っている父。

父「公一も元気でこの柿の木と同じように大きく育ってくれよ」

公一「うん!」

  素直に明るく答える。

母「そうだね、十年後には、公一も二十歳になるんだね。

  母はしみじみと柿の木を見つめる。

父「そうだなぁ」

母「公一も早く大きくなってお父さんの片腕になってね。

  お母さんは、そればかりが楽しみだよ」

  公一は、そばに置いてあったジョウロを持ち上げると植え終わった柿の木に

  水をやる。

  妹は、自分のおもちゃのジョウロを持ち出して来て公一の真似をする。

  それを、眺める父母はにこやかに微笑む。


○手紙を読む公一

  きつい表情になってくる。

母ナレート「…顔を見せてください。 それでは楽しみに待っています。 母より」

  公一は、読み終わると手紙を丸めてゴミ箱めがけて投げ捨てる。


○清水駅

  改札を出てくる公一。

  公一は、久しぶりの帰省で辺りを見回す。


  タイトル『白い夕方に帰るとき』


  清水の港まつりの風景

  公一は、リュックを肩にかけて祭りを見て歩く。

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