白い夕方に帰るとき

がんぶり

第1話 公一と洋子

○大学教室内

  講義中、教室の後ろの方に座っている公一は、ため息と共に鉛筆を投げ出す。

  そして、腕時計に見入り指でなぞり出す。


○キャンパス

  鐘の音、多くの学生達が校舎から出てくる。

  その中に公一の姿が見える。その後ろから3人の学生たちが駆け寄って来て、

  公一の肩をぽんっと叩く。

学生「公一、ジャンやろうぜ」

  公一は、学生の手を肩から降ろして

公一「今からバイト、わりいな、バーイ」


○大学前の駅のホーム

  電車に駆け込む公一、電車は走り去って行く。


○バイト先、夕刻の喫茶店

  ビルの間の薄汚い路地を急ぎ足で歩く公一、

  通用門の鉄の扉を開けて階段を上り事務所へ。

公一「おはようございます」

  脇にあるタイムカードをつまみタイムレコーダにカードを入れようとする。

事務員「おーいっ! 服を着替えてからにしろよ! 何回言ったら分かるの?」

  向こう側の机の上に座って、意地悪そうに公一を見るヤクザ風の男の事務員は

  煙草を持った指で指差し

事務員「あんたぁ、5時からの人だろう? 遅刻だよ、遅刻!」

  公一は、カードを戻すと再び階段を駆け上がる。

  ロッカールームで作業着に着替えるとロッカーを勢いよく閉める。

  すると、作業着の作業員が上がって来てすれ違う。

公一「おつかれさま…」

  下を向いてむっそり言う公一に作業員は、訝しげに公一を見る。

  再び階段を降りた公一は事務室のドアの前に立ち止まる。

  先ほどの事務員とウェイトレスがいちゃついている。

  公一は、舌打ちをして階段を降りていく。


○従業員食堂

  食堂に入って行く公一。

公一「おはよう!」

  笑顔で食堂のおばさんに挨拶する。

食堂のおばさん「おはよう、暑いねぇ」

  手を止めて公一を見る。

公一「おーっ、今日は魚か! それにこの味噌汁うまいんだなぁ!」

  公一は自分でお玉で味噌汁をよそう。

食堂のおばさん「おふくろの味を思い出すかね?」

  公一の表情は一瞬にして曇る。

公一「そんな味…」

  お椀の中の味噌汁から洗い場の水槽へ。


○洗い場

  黙々とグラスを洗う公一、

  洗い場の返却口にグラス類がどっと差し出されて来る。

  その向こうにウェイトレスの洋子の笑顔が見える。

公一「オッス! 今日は忙しいな、洋子!」

洋子「うん! 土曜日だからね!」

  洋子は、銀盆片手に笑顔で答える。

公一「今度の休み、俺に合わせといてくれた?」

洋子「うん! バッチリネ! 今度、何処へ行くの?」

公一「そうだなぁ。この前さぁ…」

  公一の言葉の途中で店内の螺旋階段を下りてきた店長の咳払いで、

  公一はすぐに仕事に戻る。

  店長は、洋子の傍らに近づき何か喋りながら去って行く。

  洋子も笑顔で背の高い店長を見上げて、一緒に歩いて行ってしまう。

公一「チェッ」

  上目遣いに二人の後ろ姿を見つめ、舌打ちする。

  そして、返却されたシャーベットグラスを一つ摘むと故意にそれを落とす。

  ガチャン!

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