第4話 現実

○東京駅

  忙しそうに歩く人々。


○中央線車内

  吊り革にすがるようにつかまる公一。


○水道橋駅

  リュックを背負って改札口を出る公一。

  ナイター観戦の人々の流れは、東京ドームまで続く。

  その中を人にぶつかりながら歩く公一。

  公一は下宿に向かう。

  ふと顔を上げると、ラブホテルから出てくる男女。

  よく見ると、洋子と喫茶店の店長である。

  公一は歩みを止めてしまう。

  店長は去り、洋子は俯いてこちらに歩いてくる。

  洋子は顔を上げる。そして、公一と目が合い、立ち止まる。

洋子「あっ、公ちゃん… いつ帰って来たの? あっ、お茶飲もうよ」

  洋子は、取り繕うが公一は振り返ると、その場を去って行く。


○喫茶店内

  夕刻の忙しい喫茶店内、公一は洗い場で一心に仕事をしている。

  しかし、心は何処か遠い一点を見つめている。


○田舎での回想

  桂子、正恵、島村が脳裏に浮かび上がるが、

  それよりも新鮮に蘇る洋子と店長の二人。


○喫茶店内

チーフ「おい、公一。 タンブラーくれ」

  我に返った公一は、慌てて洗浄機からタンブラーを出す。

  そして、ダスターでふこうとした瞬間、タンブラーを落としてしまう。

チーフ「何やってんだっ、こいつ-」

公一「すみません…」

  破片を拾う公一を、音を聞きつけてやって来た洋子が覗き込む。

洋子「公ちゃん- 大丈夫?」

  公一は、洋子を無視して破片を拾う。


○喫茶店からの帰り道

  公一は、下宿に向かっている。後ろから洋子が追いかけて来る。

洋子「公ちゃん-、 待って-」

  公一は振り返る。

洋子「話がしたいの。あれから何にも口きいてくれないじゃない… 洋子寂しい-」

公一「あの、おっさんは、いいのかよう…」

洋子「……」

  二人は、歩き出す。

洋子「家は、どうだった? 良かった?」

公一「いいもんか! 地獄だ…」

洋子「公ちゃんとこ、むづかしいもんね…」

公一「……」

洋子「洋子のこと、怒ってるのう?」

公一「……」

  洋子は公一を見つめて、

洋子「なんか、言ってよ」

公一「……」

洋子「ねえっ」

公一「あんな、おっさん好みか…」

洋子「嫌いよう」

公一「じゃ、何であんなことする?」

洋子「……」

公一「今夜は、俺とつきあえっ」

  公一は、洋子の手を掴むと、下宿へ連れて行く。


○下宿

  散らかった部屋が明るくなる。

  洋子は、玄関ドアの外に立っている。

公一「入って来いよっ」

  洋子は、靴を脱ぐと部屋の中に入って来る。

  公一は、扇風機のスイッチをひねり、煙草を一本口にくわえる。

洋子「公ちゃん、今夜、私がここに居たらあのこと許してくれる?」

公一「俺、女が信じられない。

   綺麗なもの、清いもの、美しい思い出がみんな汚されていく気がする…

   なぜだ?」

  洋子は、ぽかんと口を開けて公一を見つめているが、

洋子「あはっ、あははっ、公ちゃんってメルヘンね。全然知らなかったぁ。

   それじゃ、洋子のことも、そういう目で見てくれていたわけ?」

公一「……」

洋子「あ-、ごめん、公ちゃん-」

  洋子は、謝りながらも、くすくすと笑っている。

公一「ふっふふ-っ、お笑いだなぁ」

洋子「あははっ、公ちゃんて冗談ぽい」

公一「はははっ、は、は…」

  公一は、泣きながら笑う。

  それに気づいた洋子は、笑うのやめて、

洋子「公ちゃん…、気持ち悪いっ」

公一「ちっくしょうっ」

  公一は、洋子に飛びかかると抑え込む。

  洋子は、両手を畳に押さえつけられて抵抗しながら、

洋子「やめて、やめてよ。いやーよーうっ」

公一「冗談ならいいじゃないかっ」

  公一は、洋子を犯しながら顔を上げる。

公一ナラタージュ「みんな、この世の出来事は冗談にしておけばいいじゃねえかっ」


  フェードアウト


○下宿 夜中

  公一は、上半身裸になって、コタツの上に広げた原稿用紙に向かっている。

  原稿用紙に 『湖の場面』 と書く。


  オーバーラップ


○湖

  湖岸に立つ公一、山荘から、にこやかに洋子が出て来る。

洋子「公ちゃん…」

  遠くで響くような洋子の声。朝霧に煙る木々の間を、

  公一と洋子は追ったり追われたり楽しそうに走っている。

公一「洋子…」

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