第8話 事故

○車内

公一「結局、俺は奨学金で大学に進学して田舎から逃げ出した。

   やっぱり、自分が一番可愛かった…」

  洋子が、缶ジュースを差し出す。

洋子「あーん、洋子、お腹減ったようーっ」

公一「食おうかー」

  車は、動き出す。

洋子「洋子、ステーキ食べたい。それから、チョコサンデーでしょ、

  プリンとねぇ…」

  公一は、笑い出す。

公一「ハッ、ハハッ」

  洋子は、目を丸くして、

洋子「あっ、公ちゃんが笑った、笑った、アハッ、アハハッ」

公一「ハハッ、フハハ」

洋子「わーいっ、アハハハッ」


○レストラン

  洋子は、美味しそうに食べている。

  洋子の服装を見て、レストランのウェイトレスは、変な顔をしている。

洋子「あーっ、美味しいなぁ」

  フォークをテーブルの上に置くと、

洋子「でも、もう、帰ろうよう、洋子…」

  と、言って公一の顔を覗き込む。

公一「…もう、ここに居たって、しょうがねぇしな…」

洋子「帰ろう、ね、帰ろ」

公一「はぁーあ、もう、どうでもいいやー」

  洋子は、楽しそうに、

洋子「そうよ、そうよ、どうでもいいやー」

  洋子は、ナイフとフォークを持った両手を頭の上に上げる。

  ウェイトレスは、いっそう変な顔をして洋子を見ている。

  公一は、皿のライスをフォークでいじっている。

洋子「ねぇ、公ちゃん、東京に帰ったら、私のアパートで一緒に住もうよっ、

   ねっ?」

公一「うーん」

  洋子は、にこりと微笑むと再び食べ始める。

  公一は、そんな洋子を眺めている。


○車内 走行中

  ラジオから、ディスコサウンドが流れてくる。

  洋子は、身体を揺らしてリズムをとっている。

  公一の顔も明るい。

  洋子が、公一の口にお菓子を一つ持っていく。

  公一は、顔を横に向け口で受取り、前方を見ると、

  一人の男が道路を横断して来る。

  公一は、慌ててブレーキを力いっぱい踏む。

  車は、そのまま、物凄い音を立てて突き進む。

  男が、公一の車に気づき顔をこちらに向ける。

洋子「キャーッ」

公一「アーッ」

  男は、立ちつくしてしまう。

  車は、どんどん男に近づいて行く。

  男が視界いっぱいになる。

  その男の顔は、島村の顔になる。

  突然、その顔は、笑い出す。


○大型トラックの車内

  島村の運転するトラックの前方に老婆が現れる。

  タイヤの擦れる音。

  島村の物凄い顔。

島村「アーッ」

  島村は、やっとハンドルをきり、トラックは、道路沿いの民家に突っ込む。

  大きな激突音。

  島村の右足に、鉄骨が突き刺さる。


○公一たちのライトバンの車内

  クラクション、激突音。

  公一の物凄い顔。

  洋子の悲鳴。

  車は、そのまま走り続け、

  郊外の人気の無い場所で停車する。

洋子「どうしようー」

  洋子は、半分泣きべそになっている。

  公一は、困惑し、

公一「わかんねぇよっ」

  と、言ってハンドルに頭をつける。

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