第10話 洋子の正体

○鶏小屋

  黒塗りの車が2台とレッカー車が鶏小屋の敷地内に静かに入って来る。

  うとうとしていた公一は、目を覚ます。

  車の屋根に赤色灯が無いので警察では無い。

  公一は、寝ている洋子を揺り動かす。

公一「洋子っ、洋子っ、起きろっ」

  洋子は、公一に起こされる。

洋子「うーん、何… 何なの…」

公一「誰か来た、警察じゃ無いみたいだ…」

  公一は、声を押し殺して、さらに、

公一「ライトバンをレッカー移動している…」

洋子「……」

  静かな雨音の中、レッカー車は、ライトバンをレッカーして行った。

  暫くするとスーツを着た男が鶏小屋に入って来た。

  公一は、洋子を抱き寄せる。

スーツの男「お嬢さん、お怪我は、ありませんでしたか?」

  と、言って洋子に頭を下げる。

洋子「山崎…」

  と、ぽつんと言う。

  公一は、頭の中を整理出来ずにスーツの男と洋子を交互に見る。

スーツの男「お嬢さん、帰りましょう。社長が心配しています」

  と、どすの利いた声で優しく言った。

公一「どういう事?」

  と、言って、公一が、洋子を見つめると、

洋子「公ちゃん、洋子、先に東京へ帰るね…」

  洋子は、公一の腕から抜け出て立ち上がると、不安げに振り返る。

スーツの男「電車でお帰りください、何も無かったんです」

  スーツの男は、公一に念を押すように言うと洋子を連れて行く。

  やがて、洋子を乗せた黒塗りの車は、闇の中に消えて行く。

  公一は、鶏小屋に一人残される。


○大学正門 『1か月後』


○大学の講義中の公一

  公一は、集中して講義を聞いているが、ふと、教室の窓の外に目を向ける。


○回想 スーツの男「電車でお帰りください、何も無かったんです」


○下宿で手紙を読む公一

公一ナラタージュ「一通の手紙には、車の窃盗、人身事故については、

         裏社会の力により処理されたことが書かれていた。

         そして、洋子が、土地取引と遊技場経営で有名な

         あの射場興行の一人娘であることも書かれていた」

  公一は、手紙を置くと洋子の天真爛漫な可愛さと、

  公一を思いやる優しさを思い起こした。

  だが、洋子が、公一には、到底、手の届かない存在であることも知った。

  公一は、自分の犯罪を闇に葬ってくれた組織に反しても洋子と再開したい

  気持ちが募っていった。

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