第6話 記憶

○高速道路を爆進する公一達の車 夜


○東名清水インターチェンジ


○アパートの前

  アパートの見える道路に静かに止まる車。

  2階の部屋のドアは開いており、室内から光が漏れている。

  数人の人影が中で動いている。

洋子「ここなの? 公ちゃんの家…」

公一「家なんかじゃねぇ」

洋子「行くの?」

公一「関係ねぇんだからなっ」

  公一は、乱暴に車を発進させる。


○夜道を走る車


○車内

  公一は、横目使いに家跡と柿の木を見る。

  車の割れた窓から見える柿の木は、すぐに視界から消えてしまう。


○三保海岸 夜

  車は、砂浜に突っ込み、止まる。


○車内

  公一は、ハンドブレーキを引く。「ギーッ!」そして、沈黙。


○洗うように押し寄せる波。

  遠くに漁船の漁火が見える。

洋子「漁火って、きれいね」

公一「……」

洋子「何もかも忘れられそう… あっ、ごめんね。公ちゃん…」

  公一は、ドアを開けると砂浜に駆け出る。

  洋子もその後を追う。

  公一は、駆けて来て砂の上に寝転ぶ。

  洋子は、公一をちょっと見るが、さらに駆けて行く。

  波打ちぎわまで行き靴を脱ぎ、波と戯れる。

  公一は、少し起き上がり、そんな洋子を見つめる。


  オーバーラップ


○夏の海岸

  波と戯れる正恵、赤い水着を着て、はしゃいでいる。

正恵「お兄ちゃん、おいでよ! 気持ちいい!」

  手を振って公一を招く正恵、太陽が眩しい。

  座っていた公一は、にこやかに手を振ると、正恵の方に駆け出して行く。

  二人は、波打ちぎわで水をかけ合い、はしゃぐ。

正恵「わーっ、お兄ちゃんのバカーンッ」

公一「それっ、それっ」

  無邪気にはしゃぐ二人は、再び砂浜に戻る。

  正恵は、タオルで顔を拭き公一に渡す。

  正恵は、父親に連れられた幼い男の子と女の子が、

  母親に写真を写してもらっているのを見つめる。

  顔を拭き終わった公一は、それに気づき黙って親子を見つめている正恵を、

  そっと見つめる。


  オーバーラップ


○夜の海岸

  洋子が波と戯れている。

公一「正恵… 可哀想に…」

  と、呟く。

  洋子は、棒切を拾うと、それをバトン代わりにくるくると回し始める。

  そして、駆けて来ると公一の横に座る。

洋子「公ちゃん… もう秋ね。風が冷たい…」

  公一は、黙って波を見つめている。

  洋子は、静かに歌い始める。

洋子「♪今は-、もう秋、誰も、いない海-」

  しだいにBGMがフェードインする。

  公一の目から涙が溢れる。

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