第4話「優姫」

20XX年4月14日10時58分。近江屋2階。


トントン(ドアをノックする音)


「すいません。」

「・・・。」


やはり返事はない。あるわけがない。

でも確実に言えるのは、彼女が泣いてるということだった。


「入ってもいいですか?」

「・・・」


「・・・。」

「・・・。」


この沈黙が続いた。すると、、、


「・・・いいですよ。入り口だけなら。」


そういわれ、恐る恐るドアを開けて部屋に入った。


「失礼します。」

「・・・。」


また、沈黙が続いた。


「おじいさん、とんでもない話をしてましたね・・・。僕も驚きました。」

「・・・。」

「・・・。」

「おじいちゃんはいつもそうだから・・・。」

「・・・。そうなんですね。」

「でもありえない・・・。突然来た見ず知らずの男について行けなんて。」

「・・・。確かに。。。」

「私のことなんてどうでもいいんだよ。おじいちゃんは。」

「そんなことないと思います。」

「あなたになにがわかるのよ。」

「なにもわからないです。すいません。・・・。でも、どうでもいいわけではないと思います。」

「どうしてよ。」

「おじいさんがさっき下で言ってました。『あいつには、もっと世界を見てほしい。その俺のもう一つの夢が俺のせいで終わるのは馬鹿らしいだろ。』って。」

「なにそれ。」

「僕にはわからないですが、、、おじいさんには2つの夢があって、一つは商売人としての夢。もう一つは男としての夢。なんだと思うんです。」

「その一つの夢が私に世界を見させることってこと?」

「はい。」

「やっぱり意味が分からない。私のこと考えてないじゃん。」

「そうですね。」

「でも一つ言えるのは、おじいさんはこの店のことも、あなたのことも大事だから。だからこそ、この二本を僕に託して、店をたたもうとしてるんだと思います。」

「・・・。あなたはおじいちゃんが言う『世界』を見せてくれるというの?」

「う~~ん。確定ではないですが。僕もこれから世界を見ていこうと思ってるんです。」

「・・・。」


また、少し沈黙。


「私ね。ここを継ぐのが夢なの、ここ、近江屋という狭い店を大きくして天国にいるお父さんとお母さんに見せるの。」

「・・・。」

「でも、、おじいちゃんはそういうつもりじゃなかったみたい。」

「・・・。」


「ねえ、ちょっとつきあってくれるかしら。」

「え??、あ、うん。」


そういって、近江屋を出てすぐ近くの丘に登った。

そこは、鎌倉の海が見えて、小さな花瓶がおいてあった。


「私この海が好きなの。この街が好きなの。」

「うん、なんとなくわかる。」

「だからね、絶対に離れたくないの。出ていきたくないの。私の『世界』はここで十分なの。」

「・・・。」

「でも、、、あなたにチャンスをあげる。」

「チャンス?」

「えぇ、私も一度だけ外に出てみる。あなたと一緒に出てみる。」

「・・・。」

「それで、詰まらなかったらここに戻って、近江屋を継ぐ。それでもいいかしら?」

「俺はそれでいいと思う。」

「じゃあ、決まりね。じゃあ、準備してくる。」


そういって彼女は丘を下り始めた。

いったん止まって、こっちを見て、


「そういえば名前は?」

「遠藤大和」

「私は、優姫。近江優姫(おうみゆうき)よ。よろしくね、大和。」

「よろしく。優姫」


荷物をまとめて、おじいさんを説得して、小旅行という形で優姫は近江屋を出た。


「そういえば、どこに行く予定なんだっけ?」

「あぁ、たしか、箱根。」

「箱根かぁ、温泉地」

「そうだね、次の電車乗るの?」

「あ、えっとね。合流してからかな。」

「???」

「あぁ、えっと、おじいさんが言ってたリリスっていう子がいるんよ。もうそろそろ来るはずなんだけど。」

「あぁ、そうなんだ。」


優姫は少し機嫌が悪くなった気がする。

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