第一章 第11話「グエルチーノ第二師団の森林捜索」

 私は隊の新人から報告を受ける

 「グルド隊長!政府からの依頼文を預かってきました。」


 1週間前に政府は街道を荒らす魔獣の”魔角鹿”の討伐を冒険者ギルドに依頼した。しかしその依頼を受けた冒険者が依頼場所の森林に入ると高レベルの魔獣”オルトロス”に攻撃を受け負傷したとの事、ベテラン冒険者の証言なので調査せよとの命令だった。


 「こういった面倒事はいつも第二師団の仕事ですね。」新人隊員がおどけて話す。

 我々第二師団は実直な第一師団と違い何でも言い合えるくだけた雰囲気である。それは私のせいかもしれない。団長はこの都市のヴィール侯爵家の長男がお飾りで就いているので現場のトップは第一連隊の隊長である私である。

 第一師団は国を代表して他国の応援に行くが第二師団はもっぱら国内の面倒事の解決が多い、数週間前は盗賊の討伐など行った。

 「最近平和だったので、気合が入りますね」新人隊員が話す



 「”オルトロス”は危険だからお前は連れて行かないよ、私を含めて精鋭4人で向かう。」

 私がそう言うと新人隊員はうなだれていた。実際”オルトロス”と1対1で厳しい隊員を連れて行って怪我等させたくない。我々は冒険者などより強いが森林での実践経験は少ない。森で4泊する予定なので何が起こるか分からない、慎重に行くべきだと判断した。


「では行くぞ!」私は第二師団の精鋭3人と馬車に乗り込む、今回は各隊員に薬草や魔石、ポーションなど支給している。これから数日は森で野宿となるので干物など携帯食も用意していた。そして我々を乗せた馬車は森の入り口まで到着した。ここは既に依頼があった森林だ。本日は何か日が暮れるまでに手掛かりが見付かれば御の字だが・・・。


 我々はこの広大な森林をひたすら進む・・・そして1時間ほど経った頃、先行していた2人のベテラン隊員が戻って来た。

「隊長!魔獣の足跡を発見しました!」


 私は若い隊員を連れて行くことにした、彼は緊張しているように見受けられていた。

 我々はこの辺り森林に何度か足を踏み入れている為、森の地形は最低限は把握している。今回の依頼の襲われた場所まで一直線に向かっても7時間程で到着する距離だ。しかし”オルトロス”のような高レベルの魔獣はそんな簡単にはいかないだろう・・・。


 暫く進むと2人の隊員がまた戻ってきた。

「隊長!!この先の洞窟に魔獣の痕跡があります!」


「うむ、ご苦労さん。しかし相手は”オルトロス”かもしれん、決して油断するな!」


 我々は慎重に洞窟の入り口に向かう・・・。確かに魔獣の足跡がある。比較的新しいのでこの中に潜んでいるのだろうか?洞窟を進むと地下に続く通路があった・・・。私は1人の隊員に松明を持たせ先に歩かせる。他の隊員は若い隊員を守るように陣形を取った。私も剣を構えながら進む・・・。そうして進んだ先の広い空間に出た時、奥の方で何かが動く気配を感じた!

「”オルトロス”じゃない!?」4匹の”ヘイズルーン”が唸り声を上げこちらに突進してきた。


「身構えろ!!」私は剣を構えながら叫ぶ!それと同時に1人の隊員が松明を捨て盾を構え”ヘイズルーン”の突撃にぶつける。その反動でお互い吹っ飛ぶ。しかし2匹が左右にもう一匹が後方でこちらを伺う・・・、思っているより知能があり陣形を取っている。

「全員目を瞑れ!」私は腰から魔石を取り出し一瞬魔力を込め投げつける。


 魔石から閃光が走り”ヘイズルーン”が怯む。

 私は盾を構える隊員に攻撃命令を下し、もう一匹を剣で仕留める。後方にいる1匹は弓を構える隊員が頭を射る!その刹那後方から”ヘイズルーン”が牙と爪で私に襲い掛かる!! 次の瞬間・・・『ウィンドカッター!』”ヘイズルーン”の首が飛び頭が地面に落ちた・・・。


「隊長の風魔法はさすがです!」倒れていた”ヘイズルーン”を仕留めた隊員が安堵と共に話す。

「大丈夫か?」私は盾を構えて倒れた隊員に声をかける・・・「結構な突進でしたよ、いてぇ…。」


 我々は洞窟を出た。「”オルトロス”でなく”ヘイズルーン”か」

 「この辺りではあまり見掛けなかった魔獣だな……。」


 「もし”オルトロス”の件が本当なら魔獣が増えてきてませんか?グルド隊長。」ベテラン隊員も不審がる。


 「ともかく、進むぞ!」私はそう言うと森の更に奥に進んだ・・・。

 暫く進むとかなり大きい足跡の痕跡があった。しかし戦闘した形跡がない・・・。

「隊長!これは?」若い隊員が指さす先には魔獣の足跡と緑の血の跡がある・・・そしてその先には引きづるような足跡があった。その足跡は更に森の奥の方へと続いていた・・・。

 するとそこには2匹の魔獣が横たわっていた・・・。

 1体は首が噛み千切られ絶命している・・・そしてもう1体も首と胴体が爪の深い傷で絶命している・・・この2体の魔獣は”ヘイズルーン”

 戦闘の跡が殆んど無い。・・・ 私は呆気にとられた。一瞬で勝負がついたような痕跡だ。

 ”ヘイズルーン”をたった一瞬で倒したのか!?先程我らも倒したが我々は4人だ!

 

 ”ヘイズルーン”は赤い血だ、緑の血が”オルトロス”なら負傷しているいう事。

 『それでもこの強さか…。』ランクC程度とは思えない…。

 その後我々は依頼地点まで進んだが遠くに数頭の”魔角鹿”を見掛けた程度だった


 「グルド隊長、やっと依頼地点に着きましたね」もう夕方になっていた。

 休みなしに歩き続けたのでここでテントの準備をし、飯にする事にした。

 そこで隊員が木に付いてる血を見付ける「これが負傷した冒険者の血かな?結構な出血だったみたいですね。」


 私は少し考えそして口を開いた。「”オルトロス”は凶暴だ、先程の”ヘイズルーン”の死骸も一瞬で仕留められていた。」

 「妙だとは思わないか?その冒険者たちは何故生き延びたんだ?」

 

 「グルド隊長、その冒険者はランクDと初仕事の冒険者の二人だと報告書に書いてありましたぜ。」

 

 私は不審に感じ、帰ったらその冒険者の名前と素性を調査するよう隊員に命じる。

 「今日は初日だから早めに寝るぞ、明日は朝早いからな」

 我々はその場で食事を取り、交代で見張り番をし朝を迎えた。

 森の奥に進みながら”オルトロス”の足跡を確認しつつ進む・・・。すると木に吊るされた冒険者らしき死体があった・・・

「これは!?!?」私はその死体をよく見る・・・「この剣は・・・」

「グルド隊長!!どうかしたんですか?」隊員が私に尋ねる。「この剣は街のドワーフの親父の武器屋の刻印だな・・。」

「死体はかなり腐ってるのでこの森はかなり前から危険だったという事か…」


 その時、私は長年の勘から身構え隊員に指示する「何か来るぞ!」

「隊長!何かが高速で我々の方へ!」

 我々はその方向を目を凝らして見る・・・すると黒い塊が物凄い速さでこちらに突進してくる!!私は咄嗟に盾を構え、隊員に防御態勢を取らせる! 次の瞬間、私の盾に衝撃が走った!そしてそのまま後ろに吹き飛ばされる!!

「うおぉぉ!!」私は受け身を取る。

「グルド隊長!!」隊員の1人が叫ぶ。

「大丈夫だ、それより戦闘態勢だ!」私は剣を構える。『何だこの魔獣は!?・・・』私はこの一瞬で2つ考え付いた・・・。


 1つはランクC程度の魔獣ではないという事。

 2つ目はこの魔獣が負傷していないという事だ!


「グルド隊長!!あの魔獣、頭が2本ありますよ!”オルトロス”です。」隊員が叫ぶ。

「ああ、そうだな・・・」

『負傷していないという事は”オルトロス”は2匹いるのか!?』

するとその黒い魔獣は更に別の隊員に突進していく!!「盾を構えろ!」私は叫ぶ。すると魔獣は前足で盾を構えていた隊員に突進しそのまま後方に吹き飛ばした!私はその隙を逃さず剣を振るうが、魔獣の2本の頭に邪魔され致命傷を与えきれない。

「隊長!!あいつ頭が2つもあるから防戦一方です!!」隊員が言う・・・その通りだ・・・。

『あの魔獣は頭は悪いが若干の知能がある・・・』

暫く防戦していると後方から隊員が隙を見て弓を射る。矢には痺れ薬が塗られていた。右太腿にめり込みそれに反応するかのように魔獣は攻撃を中断した。


「焦るな、落ち着いていけ…。」我々はじっくりと間合いを詰めると草陰から”パキッ”と枯れ木を踏みつける音がした。

 脚を引きづったもう一匹の”オルトロス”が出てくる。左足は緑の血の跡が付き皮膚は壊死したかのように黒ずんでる。


 ベテラン二人に足を引きづるもう一匹を託し、私と弓使いの若い隊員で最初の”オルトロス”を相手する。

「私が斬り込んだら2秒後に弓を放て」私は指示すると盾を捨て”オルトロス”に突っ込む。

 魔獣の左前足に剣で斬り込むがやはり深手を負わせる事は出来ない。しかし動きが一瞬止まった!そこに矢が刺さる・・・。そしてまた動き出そうとする・・・その時、私は”オルトロス”の右の頭の左眼に剣を突き刺す!!

「今だ!」私は若い隊員に叫ぶと彼は弓を放つ!その矢は右の頭の右目に当たる!『やったか!?』

「グルド隊長!!」若い隊員が叫ぶ。すると”オルトロス”は前足を大きく上げそのまま地面に叩き付ける!

「ぐぉ」私はその衝撃に飛ばされる!!『くっ・・・』私は痛みに顔を歪めながら立ち上がろうとする・・・。

 しかし私の目に入ったのは”オルトロス”が若い隊員を襲っている光景だった。

「グルド隊長!!」隊員の叫び声が聞こえる・・・。

 私は痛みを堪えて立ち上がり、剣を構えると魔獣に向かって突進した!

「うぉぉぉ!!」私は全力で剣を振りかざす!!そして魔獣の左頭に突き刺す!

『どうだ!?』しかし”オルトロス”は身体を上げるとそのまま覆いかぶさってくる・・・その瞬間、大きな黒い塊はドサッと地面に倒れた。

 弓使いの若い隊員は尻もちをつき震えている・・・。奥ではベテラン隊員が深手を負っていた”オルトロス”を倒していた。


 「皆、怪我はないか?」

 「グルド隊長!全員大丈夫です。」


 二日目の朝こうして我々第二師団第一連隊は”オルトロス”捜索任務を達成した。


 冒険者の証言は正しかったが、私は怪訝に思う。


 この森に魔獣が増えている事。魔角鹿だけでなく”オルトロス”や”ヘイズルーン”もいた。

 そしてこの”オルトロス”に襲われて生還した冒険者は『ランクDと初仕事の冒険者の二人』


 我々でも簡単な相手ではなかったこの”オルトロス”から低ランクの冒険者がどうやって逃げたのだ?

 ベテラン隊員二人で倒した、負傷していた”オルトロス”の脚を調べるとそれは”毒”による壊死だった……

 この”毒”はその生還した低ランクの冒険者が負わせたのか?”オルトロス”の脚を壊死させるほどの”毒”


 後日その冒険者たちの素性を知ったが、私はその者を知っていた。

 あの”転生者”と嘯いてた奴隷だ……

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