序章 第2話「奴隷オークション」

俺は、商人のケイン。

今日は月に一度の奴隷オークションの日なので会場に向かっている。

いつもは商品が少なく1時間程度ですぐ終わるオークションだが今月は三日間に分けられて夜7時から深夜まで行うとの事、今日はその初日だ。

数年に一度の規模なので主要な商人は皆集まっているだろう

会場もいつもと違って普段は演劇など催している都市の一番大きな建物になる


この世界では、奴隷は合法で、国が認めている。

オークション会場は政府が管理し、奴隷商人主導で行われる。

たいていは軍が捕縛した罪人や不法移民、身寄りのない獣人が殆んどだ

奴隷は3種類いる。


・1つ目は解放奴隷  これは国が定めた年数奴隷として勤めれば解放され市民権を得られるが、その後も住居制限はある。

不法移民、戦争捕縛者等が該当する。期間は4-10年くらいか


・2つ目が犯罪奴隷、 罪刑期が終えれば解放されるが、犯罪の内容や再犯等により扱いが異なる。奴隷商人が扱うのも多くの者は刑期15年以下が殆んどだ。

この国の重犯罪者は軍の奴隷となり強制労働場に行かされる、奴隷商人も扱えない


・3つ目が借金奴隷  こちらは政府主導の競売にて落札される、奴隷商人も扱えない。ほぼ労働奴隷で年250万ギル相当の労働とみなされる。1000万ギル以上の借金持ちは少ないので多くは5年以内で再び市民に戻る

主人も街の商店や娼館の主、職人が殆んどだ。娼館は規定により短期間で解放される。


奴隷魔法印により奴隷主の命令には逆らえない、主人が死ねば魔法印は解除され再度別の者の奴隷になる。主人も奴隷を殺すことはできない。

奴隷主は労働や仕事を与える。給金はでないが衣食住は全て保証される。

奴隷魔法印は契約が終われば役所の魔導士により正式に解除される。

また管理責任が発生する、違反すれば犯罪者となる。国は一般市民は処罰ができるが、貴族等は捕まえて引き渡すだけで罰則はほぼない。

この国では多くは犯罪奴隷と借金奴隷が半々だ。解放奴隷は戦争等が無い限りは少ない、島国なので移民も少ない

商人主導の奴隷オークションに出されるのは解放奴隷と犯罪奴隷だ。


そうは言っても、人身売買に変わりはないので、俺は好きになれない。

契約が終えれば解放されるのだが、自由になっても帰る家もない、仕事もない者が多いので、そのまま奴隷主の使用人を続けるか冒険者や傭兵になるのがほとんどだ。


そうしているうちにオークション会場に着くと沢山の人が集まっていた。

本日は71人が出品されたか。最近は一桁の人数も多かったのに

今月は三日で220人は出品されると聞く

先月軍が隣国の内戦に協力した時に多くの獣人を捕縛したと聞くがそいつらが出品されたのだろう


少し会場のエントランスを歩き周りを見渡すと明らかに避けられてる ”異臭のする異様な浮浪者のような恰好の者”がいた


薄汚れたボロ布で全身を覆い隠すフードのついたマントの異様な出立ち、背丈は150cmくらいか?顔は仮面覆われていた。


「あのような者はオークションで初めて見るな」

会場に似つかわしくない者の出現に周りの商人たちがざわついていた。

その者は俯いて歩きながらさっと会場の中に入り後方に座った、勿論その者の周りに座る人間など誰一人いなかった…


私は会場に入り顔見知りの商人と談笑した

「今日の目玉はなんですか?」

「先月の隣国の戦争の捕縛者や敵軍の未亡人だろ」「いや軍が捕縛した傭兵の獣人ハーフの女だろ」

オークション開始が近づき周りもざわつき始める

今日は女奴隷も多いか、可哀想に・・・。 男は労働奴隷だが女は性奴隷や愛玩奴隷になることが多い。

性奴隷は男も女もいるが女が殆んどだ、貴族か街で一番大きい娼館が多く買っていく…。


オークションが始まり次々と商品が出てくる。

隣国の内戦で負けた傭兵の獣人が労働力として多く買われていく。

後半からは最低落札価格が多い者が出てくる獣人の若い女の子が多いな・・・

「7500万」

久々に大きい金額を見たな、性奴隷は近年市民から問題視されて短期間のみの奴隷とされた

性奴隷は奴隷オークションでは奴隷魔法印は長くても5年までとされている

それでも高額で買う貴族は後を絶たない。


そして最後に出てきた商品を見て驚いた

会場の中央のステージに連れられて出てきたのは、やせこけた若い男だ

決して美少年でもない、覇気がない今にも泣きそうな情けない顔をして俯いている


「それでは最後の出品です、本日の目玉商品!」司会が囃し立てる


「この者は解放奴隷、毒耐性ユニークスキルを持っています、是非ご購入を! 年齢は18歳、奴隷契約期間は8年間、最低価格は2000万ギルから始めます」


「ふざけるな!もっとましなの連れてこい!500万ギルから始めろ!」

いつも冷やかしで来ている下級貴族から野次が飛ぶ


「2100万」貴族が言う。

「2200万」商人が競る。

「2500万ギル」錬金術士が吹っ掛ける。

「3000万!!」上級貴族の執事が叫ぶ

これで決まりかな?毒見役と雑用係にしては少々お高い値段だが


「えっと、そこの後方にお座りの方、4000万ですか?」そうオークション司会の者が言うと会場が静まりかえった


その先に異様な浮浪者のような恰好の”異臭を放つ仮面のモノ”が手を上げ指で4を示していた


あの会場入りから異臭で避けられていた者だ

そもそもこの会場は貴族やある程度の資産を持つ商人の者、他に各ギルドマスターの推薦等のある人間でなければ絶対に入れない

警備も厳重だ。一般人や素性の知れないものが入れるのはあり得ない

「あの者は誰なんだ?」


すると商談の札が上がる。貴族の提示額よりかなり高い 4000万ギルで落札された。

”異臭を放つ仮面のモノ”は立ち上がり奴隷商人の元に降りて行った

周りの客は露骨にその”異臭を放つ仮面のモノ”を避けて動き始めた


私の少し離れた席の風貌に似つかわしくない高級な服を着た冒険者が喋った

「あの仮面の奴はたまに見掛ける、ランクEだが冒険者ギルドでは特別視されてるベテランだ」

背丈が小さいのに冒険者か、魔法使いとかだろうか?


司会に促されて

”異臭を放つ仮面のモノ”は中央のステージに行きオークションで落札した奴隷に近付いた

オークションに連れて来られてからずっと下を俯いてうなだれていたその奴隷は

自分を落札した者を見て突然泣き始め座り込んだ


”異臭を放つ仮面のモノ”はその姿をずっと見つめていた……。

仮面で表情など見えないのに何故かその姿は優しく見えた


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