序章「地方都市グエルチーノでの奴隷オークション」

序章 第1話「地方都市グエルチーノ」

 ここは島国であるバルザート国の地方都市グエルチーノ


 人口は8万人ほどで首都のラクーナに比べたら都市として半分くらいの規模だが豊富な水資源により街には活気がある。そんな平和で暮らしやすいこの町だが外部の人間には厳しい

 島国特有の感情というか気質だろうか


 私はこの都市の軍の第二師団の第一連隊の隊長をしているグルド


 先日の盗賊が職人の妻を連れ去った件

 職人の妻二人以外に奴隷に捕らえられていた見慣れぬ服を着て自分の名前も分からない18歳の青年

 軍はあの男を不法移民として奴隷オークションに掛けることにした。

 その者が自らを転生者と言い張っていた事実は役所の文書から消された。

 転生者の出現は転生の間以外からの出現はあり得ない、それは転生の間を管理する教会への冒涜ともとられかねなかった。


 転生の儀は大賢者が生涯に2度のみ行える、その大賢者は国に今は二人しかいない。

 勿論転生の儀は国の管理の元に行われる

 そこらの森で盗賊に捕まっていた大したユニークスキルも持たない者が転生者はそもそもあり得ない。


 国が正式に認めた転生の儀は一番最後は13年前に行われ侯爵家のご令嬢に懐胎された、その子はドルフという名で13歳ながらも国の騎士をも凌ぐ戦士に育っているという

 前世の記憶も持ち戦士ながら魔法も使えるらしい


 教会が言うには転生者は神から与えられた使命があるという。

 そのことはこの国の王族の一部と教会の最高司祭とその直属の部下のみが知ることであり、教会に属さぬものに教えることは禁忌に触れる。


 あの青年を鑑定の間に連れて行ってからやはりその後が気になっていた

 奴隷オークションは今日の夜だ。

 我々兵士には教会が何をしているのか知る由もない

「あの青年が言ってった異世界からの転生がもし本当だったら?」


 この国で転生の間を知る者は少ない国家機密である、転生者が国にどんな利益を齎すのか今だ誰も分からない。

 そんな転生者がもし奴隷オークションに掛けられ、貴族が買い取ったら?


 今日は街の巡回しか仕事がないのでつまらない日だ

 すると兵士が話しかけていた「グルド隊長!今日の夜は先日の職人の奥方奪還及び最近暴れていた盗賊殲滅の祝いの宴です」


「ああ、そうだな」

「職人の奥方二人は回復は順調か?」


「身体の回復はされたそうですが、心はまだふさぎ込んだままのようです。」兵士が言った

「あともう一人捕らえられていた、あの心が壊れて自分は転生者だと訳の分からない事を言ってた青年はどうなりました?」

「あいつ、自分の名前も年齢も分からなかったですよね」

兵士が私に聞いてきた。


「そうだ!鑑定で名前も分からなかったのは本当だ、年齢は18だったかな、結局奴隷オークション行きになった」


「え!奴隷オークションに!あいつそんな価値あったのですか?」兵士は驚いた。


「今日の夜に奴隷オークションで売られる。毒耐性ユニークスキル持ちだから多少は高く売れるだろう。」

「オークションの売り上げの三割は第二師団、そのうちの半分が我々の隊に入る」


「その金で第一連隊でパーティでもやりましょうぜ、グルド隊長!」兵士はおどけて笑った。


 私は愛想笑いをしていたが、やはりあの青年とオークションで買った人物を数年マークすべきかと思案した。

 16歳で軍に入り22年、何か私の勘がそうしろと言っているようだった

「あのユニークスキル…」

 あの青年は全く悪意が無かった、名前も歳も自分のことも分からないのに奴隷オークションに掛けられるのを気の毒に思ったのか?

「すまないが、明日役所に行って奴隷オークションの結果を聞いておいてくれ、どうせお前ら夜の宴で二日酔いだから夕方からで良い」


「分かりました、グルド隊長!」


 奴隷オークションの会場は役所のすぐ近くの劇場で行われる。

 参加者は貴族や商人が殆んど、冒険者もそこそこ参加する、最低落札価格は2000万ギル

 それ以下の値段の奴隷は奴隷商人が直接売りさばく

 奴隷オークション自体は月一回、少ないときは3人しかオークションにでない時もある

 2000万ギル以上の奴隷はそれなりに貴重だ。


 そして我々が本日の夜、祝いの宴をしている時、奴隷オークションが行われた。


______________________________________


 後日、役所から奴隷オークションの件の情報を聞いた兵士から報告があった。

 会場の雰囲気はこうだったらしい。


 今日のオークションの目玉は…

ユニークスキル 【細菌・ウイルス耐性】 【免疫強化】持ちの18歳の男

最低価格は2000万ギル


 その会場に周りから露骨に避けられてる者がいたという


 会場に全く似つかわしくない薄汚れたボロ布のフードの付いたマントを身にまとい全身を覆い隠す異様な恰好のもの


 その”異臭を放つ仮面のモノ”は後方座席に座った……と




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