序章 第3話「そしてノア・ヨルクは奴隷を買った…」

 私”ノア・ヨルク”はその日

 冒険者ギルドに依頼達成の報告のついでに書記長に面談を申し出た。

 奴隷オークションで毒耐性ユニークスキルを持つ者が出品されると他の冒険者がギルドで話しているのを聞いたからだ。


 毒耐性ユニークスキルは殆んど聞いたことがない、私の胸は色々な感情で締め付けられていた


「ノア・ヨルク様が私に用があるとは珍しい」ギルドの書記長が言った

「ギルドで受付以外で貴方と応対した事がある職員は一握りですよ」

 物腰の柔らかい口調で話す。


「次の奴隷オークションで毒耐性ユニークスキルの奴隷が出ると聞いた」

「オークション出席の為、ギルドの推薦状を頂きたい」

 私は声を発したくないので予め書面に書き記したものを書記長に渡した。


 書記長は私の書面を確認しながら言った。

「貴方に毒耐性ユニークスキルを持つ奴隷の購入の意志があるとは知りませんでした」

「毒耐性ユニークスキルは毒見役で高貴な家の方にも人気ですのでお高くなると思いますよ」

 私は頷いた。


「奴隷オークションは最低落札価格は2000万ギルからですが、ノア様は12年ギルドに貢献されてますから大丈夫でしょう」

「では、オークションの日にちは1週間後です、今月は三日間開催との事なのでいつ出るか確認して次回推薦状を受け取られに来られた時に書面でお知らせ致します」

 と書記長は言った。


 仮面を被り異臭を放つこの私に一切躊躇せず普通に話すのはこの書記長くらいでしょうか

私は少し驚いた。


 いえ、1か月前に依頼に行く先で子供に石を投げつけられた時に庇ってくれた男性がいた…

あの人も私の異臭や薄汚れた恰好に一切躊躇しなかった。あの人も森で生活しているような酷い恰好をしていたけどまだ元気だろうか?

 私はあの時の事を思い出しながら帰り道をのんびり歩いた


 あの時、初めて男の人に肩を掴まれた…

 あの時何故それが嫌じゃなかったのだろうか…


 それから4日後ギルドで推薦状が届いた、奴隷オークションは三日後のとの事だった。

私はオークション開催まで冒険者ギルドの軽い依頼をこなした。


 そして、奴隷オークション当日となった。

会場入口で警備員に不審がられ止められたがギルドマスターの推薦状を見せるとすんなり入れた。


 会場に入ると周りの者はざわつき私から逃げるように遠ざかっていった

 薄汚れたマントに仮面、そして私から放たれる異臭。自分が周りに不快な思いをさせているのは分かっている

 受付で少し説明を聞き私は足早に会場の席に座った。


 私は人の多い所が嫌いだ

念のために少し早く来てしまったようで最後の出品という毒耐性ユニークスキルを持つ奴隷まで待ちくたびれてしまった

 目をつむり少しウトウトとしていた所に司会の声が聞こえた


「それでは最後の出品です、本日の目玉商品!」

 私はパッと飛び起きた。


 中央のステージに連れて来られたのは、俯いてうなだれている奴隷だった。かなりやつれて体調が悪そうだ

 どこか見覚えがあるような気がしたが思い出せなかった。


 そしてオークションが始まると金額が吊り上がっていく

 私はギルドの銀行に4500万ギルは預けているが、上がっていく金額に不安を覚えた

「3000万!!」家柄の良さそうなご老人が叫んだ

 少し会場が静かになった


 その静寂の中、私は意を決した。さっと手を上げ指で4本を示した

「えっと、そこの後方にお座りの方、4000万ですか?」そうオークション司会の者が私に聞いてきた。

 私が頷くと少し沈黙が続いた、他に競る者もなく商談の札が上がる。無事落札されたもようだ。


 私は中央ステージに降りるよう促された、そこで毒耐性ユニークスキルの奴隷と対面した。

 しばらくしてオークションに連れて来られてからずっと下を俯いてうなだれていたその奴隷が私の方を見た。


 その奴隷の顔を間近で見て私は驚き確信した!


 この人はあの時の人だ!あれから痩せこけて違う服を着て髪も伸びてるが、子供に石をぶつけられた時に庇って出てきてくれた男の人だ…

 彼も落札した私を見て突然泣き始め座り込んだ

 私は心が震えていた、これは運命ではないのかな・・・


 それからすぐ司会の人間に中央ステージから退場を促された。本日は深夜なので明日改めて奴隷との面会があるとの事だった。

 彼はもう一人で歩ける気力も無いのか会場の職員二人に抱えられてその場を後にした。


 その後にオークション会場の事務室に呼ばれた

職員は私をあからさまに嫌がった様子で応対する。

「それではノア・ヨルク様、明日の契約の前に読んで頂きたい説明を記した書類をお渡しします」


 この国では口頭契約が主ですが、さすがに4000万ギルの契約は書類が多いのかな


 私はそうして長い一日が終わり深夜家路についた

「明日、あの人に会える。」


 私の胸は静かに高揚していた。


 次の日、昨日貰った書類の記載事項を何度も確認しながら奴隷契約の場所に向かった。

街の中央の役所のホールで受付案内を待つ事数分、今日はすんなりと通された。


 係員に書類を渡し、応接室で待つようにと言われた。

 私は彼がもうすぐここに来ると思うと気が気でなく部屋中を何度も見まわした。

 部屋の時計の秒針が動いていくのが見えるだけで何も目に入らなかった……


 その後十分くらいしてドアが開き人が入って来た。私の心臓が早鐘のように高鳴った。

 しかし部屋に入ってきたのは別の人だった。

 その人は私を見ると一瞬驚いたような顔をした後、すぐに冷静な顔に戻った。

 そして私に言った「もうすぐ落札された奴隷がここに来ます」

「それまでの間、改めて正式な奴隷契約の書類と4000万ギルの請求書を御渡し致しますので御読み下さい。」

 私はその書類を読み、必要な情報を書き込んでいった。

 数分後彼が応接室に入って来た。昨日とは違って少し元気になっている様子だった。


「あ、あ……」彼は話すのがしどろもどろで

 あれから何か精神的に大きな出来事があったのが読み取れた。

 しかし私は彼に何も話しかけれずにいた。


 奴隷商人と役所の職員が話始めた。

 私は話の内容が全く頭に入ってこなかった。彼は書類に血判をしていた、そして私も血判とサインする事となった。

 自分の名前を書き込むのにこんなに時間が掛かった事は無いだろう……

 少し手が震えていた。

 そうして私と彼の奴隷契約は書類上成立した。


 職員が席を立ち建物の少し先にある奴隷魔法印を入れる場所に案内した

中に入ると既に魔導士が4人立っていた。


 私と彼が4人の魔導士の前に立つと1人が私に話しかけて来た。

「では、この魔方陣の真ん中に血を」そう言いつつ私に針を手渡した。

 彼は他の魔導士に連れられて魔方陣の先に立たされた。


 私も魔法を使えるが、このような複雑な魔方陣を見るのは生まれて初めてだった。

 その魔方陣は少し不思議な形をしており、手をかざした者の血を取り込むとその者にしか使えないオリジナルの魔法印になる仕組みだそうだ。

 私は手渡された針を親指に刺し血を流し込んだ


 魔方陣が光り血が彼の足に向かって行き足の甲に奴隷紋が入った。彼は驚き座り込んだ。


 魔導士たちが魔法印を確認していた。そして最後に彼の足の甲に入った奴隷紋と照らし合わせる作業に入ったようだ。

 結果はすぐに出たようだった。魔導士の一人が魔方陣を確認して言った。

 彼は呆然としていた。私もその横でただ黙って見ていただけだったが、なにか不思議な感覚だった。


 奴隷魔法印への効力を発揮するものとして奴隷主は指輪・ネックレス・ブレスレット等の体に身に着ける物に最後魔方陣から魔力を封じ込める、私は今日来る前に買った指輪をそれとした

 奴隷主は奴隷期間内は如何なる場合でも外してはならない、そう書類に記載されていた。私の場合はこの指輪をハメている時は彼に攻撃されないし、逆に彼を殺すことは出来ない。

 これは彼の奴隷紋から私に流れ込んでくる指輪への魔力で作動する仕組みだそうだ。

 そして私達は書類の不備がないか確認され、奴隷商人と互いに合意文書にサインした。


 これで正式に彼は私の所有物となったのだ……


 彼がずっと茫然としていた。

 奴隷商人は、その後の奴隷の扱い等を一つ一つ丁寧説明してくれたが私としては早く家に帰りたかったので話の途中で退席し帰宅する事とした。彼の状態が気になったからだ。

 私は彼の腕を掴み退出を促した、彼もふらつきながらも立ち上がり奴隷商人や役人に頭を下げた。


 役所を出ると日差しが眩しかった。彼はまだ足元がおぼつかない様子だったので、私は手袋越しだったが彼の手を握った


 男の人の手を握るのは初めてだった

そうして私”ノア・ヨルク”と奴隷の彼との新しい人生が始まりの一歩を迎えた。



   ・・・・・・・・・・・・・・序章・・・・・・・・・・・

    ・・・・・・・・・・・・・・完・・・・・・・・・・・



 第一章につづく……

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