第一章 第10話「初めての契り」

 『僕らは生きている…』僕は彼女を抱きしめながら泣いた・・・。


 暫くすると彼女が目を覚ます……彼女は僕を見て驚いた表情を見せたが直ぐに優しい笑顔になる。

「レン君……良かった……」ノア様はそう言うと僕を抱きしめた。

 僕は彼女の腕の中で泣いた・・・。「ごめんなさい……ごめんなさい……、僕のせいで……。」と涙を流しながら話した・・・彼女は優しく頭を撫でてくれた・・・。

 そして僕はゆっくり起き上がり近くに落ちていた荷物を纏める。背中の傷は痛んだが何とか動ける程だ・・・。


「わ、私の荷物から赤い魔石を持ってきて下さい」

 僕はノア様の言われた通りにリュックの中を探る少し大きい赤く光る石があったのでそれをノア様に渡す。

「んっ…。」ノア様は痛みから苦悶の表情を浮かべながら魔石に魔力を込め僕に渡した。

「右の開けた場所の地面に思い切り魔石を投げつけて下さい。」

 僕は左腕をしならせ思い切り魔石を投げつけた、背中の痛みが極限に達する。一瞬地面に叩き付けられた魔石が一瞬光る、そうして赤い狼煙が上空まで上がる。

『魔石による発炎筒みたいなものなのか?』僕は何も分からないまま投げつけたので思った。


「あれはギルドで買える救援を求める赤煙が込められた魔石です。」

「もう何年も前に買って依頼の仕事に行く時はいつも持ち歩いてたのですが良かったです。」

「ギルドの救援は報酬が高いのできっと誰かが来てくれます。」

 ノア様は微笑みながら僕にそう話す。僕も笑顔になった・・・。


 救援を待って数時間、まだ魔石の赤い狼煙の効果は続いている。


 しばらくすると誰かがこちらに来る足音が聴こえる、ノア様は仮面を付け武器を構える・・・だがそこには冒険者の格好をした男性3人と女性2人のパーティーが立っていた。1人の男性が「大丈夫だったかい?」と僕達に尋ねる。僕はノア様を見て頷く、彼女は少し震えていたが僕を見て頷き返した。救難に来てくれたパーティーが僕らの荷物と魔角鹿の素材を背負ってくれている、女性の一人がヒールしてくれると言うので先にノア様の簡易な手当てをしてもらった。水を飲み、そして僕たちはその人たちの肩を借りゆっくりと森を降りた。街道に降り都市への往来の馬車を待つまでの間ずっと冒険者パーティーが付き添ってくれていた。

 僕が何度も「ありがとう」と礼を言うと、

 パーティーのリーダーらしき人は「良い報酬だし気にしなくていいよ、助け合いはお互い様。」とスマートに返す。

 

 1時間ほどで馬車が付くと僕らはギルドに都市に乗せてもらった。ヒールの応急処置で歩けるくらいには痛みが引いたがまだ辛い。大通りを歩きなんとかギルドに到着すると直ぐに治療室に運ばれる、そこで僕は治癒士に背中の傷の治療を受けた。傷痕は残るという。ノア様には国の施設の上級魔導士による治癒をお願いした。彼女は高額なので最初は拒んだが彼女の綺麗な肌に傷痕が残るのは僕は堪えられなかったので無理言って行ってもらった。医務室での治癒が終え少し休んでいるとギルドの職員がやってきた。今回は”魔角鹿”の素材と依頼の報酬で総額60万ギルの報酬だが、ノア様が行かれた上級魔導士による治癒料金と僕の医務室での治癒代と救難してくれた冒険者パーティーへの報酬が差し引かれるとの事。

「申し訳ないですが上級魔導士による治癒料金は高額なので逆に貴方がたに高額なギルのお支払いが発生すると思います…」ギルドの職員がすまなさそうに話してくれている。


 僕は少し抗議する。「今回の依頼で”オルトロス”という魔獣が出たのですが依頼書には書かれていませんでした。」

 ギルドの職員は「それは申し訳ございません、今回の”魔角鹿”討伐の仕事は街道馬車の安全の為で都市の政府からの依頼になります。この辺りでは高レベルの魔獣である”オルトロス”の発生は異例です。」と言い頭を下げる。そして今回の依頼での報酬について話してくれた・・・。政府に抗議して実際に”オルトロス”が見付かれば治癒料金をなんとかしてくれると職員が約束してくれた。

 今回の魔獣”オルトロス”の件が済むまでは上級魔導士による治癒料金はギルドが肩代わりしてくれるという。僕は一安心した。

 ノア様が帰ってくるまで医務室待たせてもらった。暫くするとギルドの職員がノア様を連れてくる。上級魔導士による治癒でノア様は傷跡も残らないようだ・・・良かった・・・。僕らは”オルトロス”の件を話して今回の依頼の報酬から60万ギルを貰える事になった。


 最後に職員が説明してくれた。

「ノア様は長年ギルドに貢献されたお方なので”オルトロス”が出現した事を信じます。ただ捜索で”オルトロス”が見付からなければ貴方がたに160万ギルの支払い義務が発生致します。今回の件の魔獣捜索には軍の兵が数日間森に入ると思います。」


 僕らはギルドを出て帰路につく。

 僕は歩きながら考えていた『あの”オルトロス”は何処に行ったのか?何故僕らを仕留めなっかたのか?それは単に腹が減っていなかっただけなのか?』

 魔獣の知識のない僕は何も分からなかった。

 本当なら僕らはあの場所で死んでいた、僕が情欲に走りノア様を危険にさらした。


 『僕の所為で彼女は死ぬかもしれない』と思うと胸が張り裂けそうだった・・・。僕らは無言で大通りをとぼとぼと歩く。時間が経つのが長く感じる。

 家に着き僕らは仮眠を取った、もうすっかり時間は昼が過ぎていた。

 3時間くらい経っただろうか、先に目を覚ましたノア様が心配そうに僕を見つめていた・・・

 すると彼女は僕に言った。「貴方を危険な目に遭わせてしまいました・・・。」

 彼女は優しい笑顔でそう言った。彼女は僕の顔を胸にやり頭を擦ってくれる・・・。僕はいつもノア様に甘えてばかりだ。

 

 そして僕らはお互い見つめ合い唇を重ねた……。


 僕は思わず彼女を抱きしめた。彼女も僕の背中に腕を回してくれる……暫くしてお互い身体を離し何かを確認するように額と額をくっつける


 「ノア様、あの本にはもう一つ”肉体的な契り”と書かれていました…。」

 彼女は耳を真っ赤にし頬を染めながら頷く。そして僕らは彼女のベッドに行く。

 


 そして僕たちは一つに繋がった・・・。



 息遣いが次第に落ち着く。

 そして僕らは暫く余韻を味わった……。ノア様はシーツを被り僕の胸に顔を埋める。恍惚とした表情を僕に見せるのが恥ずかしかったのかもしれない。


 どれぐらい時間が経っただろう・・・いつの間にか少し寝てしまっていたようだ。太陽は傾き空は赤く染まっていた。


 ノア様はシーツで僕の視線から身を隠しながら下着を付けシャツを着て、その足で炊事場に向かって行った…。

 スカートを穿いていなかったのでシャツの下にちらちら見える純白のパンツのお尻が僕の気持ちをまた刺激した。


 ベッドの敷布団を見るとそこには彼女の純潔が破られた赤い跡があった…。


 暫くしてノア様は水の入ったコップを持って僕の所に来た。

「お水を持って来ましたよ」と少し恥ずかしがりながら言う。


 僕は水を少し飲み、そして彼女に渡し仲良く飲み合いっこする。

 その後ノア様はスカートを探していたが見つからずそのまま夕食の準備を始めた・・・。

 シャツの下にちらちら見える純白のパンツのプリんとした小ぶりのお尻が良い眺めだ。この光景を見たいが為に僕はベッドの下に落ちていたスカートをシーツの中に隠しておいた。


 夕食は卵のスープと鶏肉だった、ノア様は料理が上手い。僕はいつも彼女の手料理を楽しみにしている。食事が終わると今日はお互い同じベッドで眠る事になった。

 僕は彼女の髪を優しく撫でながら、この生活がずっと続けば…

 この時の僕はただそう甘い考えでいた……。


 朝目覚めると隣に寝ているノア様がいる……。彼女はまだ少し疲れが残っているのか寝息が聞こえる。彼女の髪を撫でる・・・


「ノア様、おはようございます」

 彼女は一瞬ビクッとして目が開き僕をみる・・・そして何かを思い出したかのように顔が真っ赤になった・・・。


『あっ、昨日私……』と小声で呟く。どうやら昨日の事を思い出しているようだ。

「お、おはようございます……」と小さな声で言う彼女……。


「あの……その……昨日はすいませんでした・・・」僕は何故か謝る……。


「あ、いえ……その・・・」ノア様はまだ顔を赤くしている。彼女の恥ずかしさがこちらまで伝わってくる・・・。僕も恥ずかしくなる……。


 昨日の事でまだお互い緊張する……


 「今日は頭痛はないと思いますよ」

 僕らは昨日の事を”体液の交換”や”肉体的な契り”で人間の体内に魔族の体液が入った事により”自己耐性”と”抗体”が出来る手段として”建前”として行っている。

 

 僕らはこれからもそうして自分たちに嘘を付いて肌を重ねる……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る