第一章 第2話「仮面の少女の秘密 前編」

 あの後に僕はノア様の肩を借りてベッドに行き少し仮眠を取らせて頂いた。

 少し横目で見たらテーブルでノア様は紙を取り出し文字を綴っていた。


 2時間ほど仮眠していたら昼になっていた。僕はベッドから起き上がり申し訳なさそうに言った。

「ノア様……、僕はあなたの奴隷として相応しく無いのでは……」

 そう僕が言った後、彼女は少し間を置いてから首を横に振った。そして僕の前に立ち紙切れを渡した。そこには綺麗な文字でノア様自身の事が記されていた。


 一行目にはこう書かれていた

”まず最初に謝らせて下さい。私の声があなたの体調を悪化させた事を大変申し訳なく思っています。”

 一行目を読んですぐに「ノア様、僕は別に気にしていませんよ。」と僕は優しく答えた。

 彼女は少し安心したように手を胸に当てた。


 そのまま下の行に目を移す。

 二行目には”私は魔族の父と人間の母との間に生まれた魔族ハーフです。もしかしたらその事が貴方が私の声を聴くと不快になる要因かも知れません”と書かれていた。

 次の行に”魔族の一部のモノの声は人間の害になると母に教えられてました。私の中の魔族の血が貴方に害を為しているかもしれません”と


 僕はまだこの異世界に来て一か月半ほど、この世界を殆んど分かっていない。ましてや魔族の存在も

知らなかった。魔族と人間のハーフという事は彼女は異種間交配によって産まれたって事か? この世界にも少なからず人間と魔族のハーフがいるのだろうか?

「あ、あの魔族ハーフの方は他にも沢山いらっしゃるのですか?」僕は尋ねたが彼女は首を横に振る。


 僕は奴隷として引き渡される時にグルド隊長に転生者だと口外しないよう言われていたので少し嘘を付きながら彼女に話した。

「僕は記憶喪失でこの世界の事が何も分かりません、そもそも魔族とはどのような存在なのでしょうか?」

 ノア様は少し考え込んでから他の紙を取り出して書き始めた。

「魔族は人間より力や魔力が少し高く、寿命も長く、そして強い男の魔族は角や羽が生えてきます」と紙に書きながら彼女は答えた。

 僕はその紙を見てから言った。

「ノア様はその……、魔族ハーフという事でお強いのですか?」と僕は質問した。すると彼女は首を横に振った。

 そして彼女はまたペンを走らせ僕に見せた。そこには”私は半分の血なので力や魔力は弱く、それに戦闘経験もまだ未熟です、私の母は冒険者とかでなく普通の庶民でした。”と書かれていた。

「魔族は人間に害を成すのでしょうか?」彼女に質問した。すると彼女は首を横に振った。

 後日ノア様に説明して頂いたが、昔はどうやらこの世界にも人間族と魔族の対立があったらしい、そして今はそれ程戦争状態のようなものでなく国境付近で牽制してたまにいざこざが起きる程度だと

「そうなんですか……。」と僕が先程の質問に首を振ったノア様に対して相槌を打つと彼女は紙を出してまた書き始めた。

”もしかしたら貴方は魔族ハーフの声が害を及ぼす体質なのかも知れない。明日の朝、市の図書館の魔道司書に魔族の声を記載した書物が無いか聞きに行く”と書かれていた。

「私も文字が読めるようなのでご同行してよろしいでしょうか?」

彼女は首を縦に振った。

 そして彼女はペンを走らせ僕に見せた。そこには”勿論です。是非ついてきてください”と書かれていた。 その後、僕はノア様と共に昼食を済ませてまた2時間ほど仮眠を取ることにした。正直奴隷になってまだ何もやる事がない、唯一皿洗いをした程度である。彼女は僕の体調が回復するまで何もさせないつもりなのか?と前世のニート以下の自分が情けなくなった…。


 目が覚めたのは日が沈む頃だった。彼女の様子を確認してみるとテーブルでまた何か文字を綴っていた。僕はまだ少し頭痛がするので彼女に近づくのに少し躊躇ったが思い切って彼女に近づいた。すると彼女は僕に気付いたようでこちらに振り向いた。そして紙切れを僕に渡してきた。


 そこには彼女の秘密が記されていた。


 ”私は人に触れるとその人の肌が赤く爛れます、私の肌は害なので全身をマントや手袋で覆っています”

 ”体液や唾が人の肌に付くと溶ける可能性があります。自分の唾が人を傷つけるから仮面を付けています”

 ”だから他人が近寄らないようにマントに異臭を付けています”


 僕はその紙に書かれている事を見て「ノア様はお優しい方ですね……」

 そう僕が言った後、彼女は顔を横に振ったが、恥ずかしそうに俯いた。

「そ、そんな……。私は人様に優しくなんて出来ないですよ……」と彼女は仮面を上げ言った。それと咄嗟に喋ってしまった事を後悔したのか、僕に謝る素振りを見せた。

「少しの会話ならそこまで頭は痛くなりません、大丈夫です。」と僕は言った。

 彼女は少し安心したのか胸をほっと撫で下ろした。



 すこし二人の間に優しい沈黙が続いたその時、僕はある事に気付いた。


 彼女が僕を奴隷オークションで買った理由………

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