プロローグ第3話「不慣れなコミュニケーション」
”仮面の少女”の「ありがとう」との声
確かにそう聞こえた・・
あの悪ガキたちに「おい! 何してんだよ!」と言われた時点で普通は気付くだろ。
僕は少し心の中で笑った…。混乱していたのであの時点で自身がこの世界の言語を理解しているとまだ分かっていなかった。
今はそれより人とコミュニケーションが初めてとれた事に感動していた。前世では何年も他人と関わらず人を避けて生きていたのに…。
それはこの世界に来て2週間での初めての他者との会話だった感動なのかもしれない。
後ろを向いて顔を隠しながら仮面を少し上げ喋るその”仮面の少女”は感謝を言い恥ずかしそうに俯いた。汚れたマントやフードから異臭がするが僕の鼻には然程気にならなかった
なぜ”仮面の少女”が異臭を放っていたかは1ヶ月後に知る事になる。
「血が出てるけど大丈夫?」
僕は石を悪ガキたちから何度もぶつけられた彼女を心配して声を掛けた。
「大丈夫です」そう言いながら彼女は仮面を下げ少し沈黙した。
そこから手から薄い光が発光した、その手を頭に当てじっとしていた。
彼女は後ろを向くとまた仮面を上げ話した「ヒールを使えますので自分で治せます」
「ヒール?」
僕の疑問に彼女はまた沈黙した 何か考えているのか? そう思っていると彼女は喋り出した。
「ヒールは傷を治す魔法です」
魔法って本当にあるのか!?それよりも魔法を使える人が近くに居るっていう事実に寒気がした……
彼女は光が全身を包むまで光を大きくしたと同時に傷が無くなったのがなんとなく分かった。
僕は本当に驚いた。治癒魔法なんてあるのか!と、魔法で傷を治すとかゲームの世界でしか出来ない事だと思っていたからだ。
少しの沈黙の後彼女はまた考え出していた。
ん?何故にまだ考える?何か気になる事でもあるのか? 僕はそう思い彼女の顔を見たが仮面は目しか出てないので表情が読めなかった……
しばらくすると彼女が沈黙を破ろうとした。彼女は喋る時はいつも後ろを向く
何を言うのかと僕は内心ドキドキしていた。
「何故貴方は私を助けたのですか?」
え?いや、助けない方が良かったのか? よく分かないが……
いや、でも、さすがに小さいマント被った人が石をぶつけられるのを見たら…
「あ、え~と、何でって言われると困るんだけど……」
彼女は仮面を下にずらし前を向き僕を見た。
顔全体は出ていないが僕を見ていた。そして初めて彼女の目が見えた気がした……
それに少し恐怖を感じた……その目は何かを見透かすように鋭かったのだ。
僕はその目に飲み込まれそうになり少し後ずさった。少し間が空いた後彼女はまた後ろを向き仮面を上げ喋り出した。
「では質問を変えます」
僕は唾を飲み込み彼女の言葉を待った。彼女の口は動いていた……
だが、何も聞こえない・・・いや聞こえてはいるが内容が理解できなかった……
いや、理解はしている頭が拒否したのか?わからない・・・わからないが拒否したのは確かだった……
彼女は続けて確かに喋っている。だが頭では理解できてもその言葉は音として聞こえないのだ。
そして僕はこの感覚をどこかで感じた事があった……
恐らくだがこの異世界では日本語が使われていないのかもしれない……
そして耳鳴りと頭痛が僕を襲う・・・頭が痛い!
僕は耳と頭を抑えながらしゃがみこんだ・・・ 彼女は心配そうに仮面を下げ少し僕に近付き佇んでいる。だが僕にはもう目が霞んでいた・・・
そして僕は意識を失い倒れた……
彼女は僕が意識を失うまでずっと傍に立って光る手をかざしていた。
あの時、彼女が何を言っていたかは分からなかったが、その声だけは何故か聞こえた気がした……
意識が戻り最初に目に入ったのは夕焼けだった。
僕は上半身を起こし周りを見た。僕は朝にあの場で倒れ夕方までそのままだったのか
彼女は今にも倒れそうに疲労困憊した感じで草原にへたり込んでいた
少し僕は考え込んでいた。僕は彼女を見た。
もしかして倒れている間ずっとヒールしてくれていたのか……
僕は立ち上がり彼女に近付いた。疲労困憊でもう動けないのだろう……
そして彼女の横に座った。彼女も僕の動きに反応し立ち上がろうとするが疲労で立てないようだ……
「ありがとう」と言って僕が先に彼女に礼を言ったが彼女は首を振るだけだった。
そして恥ずかしそうに俯いた。
彼女の疲労は並大抵の事じゃなさそうだな・・・ 僕は何か出来ないかと頭を掻きながら考えていた・・・
「あ、そういえば名前教えてなかったね。僕の名前は……」と自己紹介しようと思ったら彼女は首を横に振り顔を下に向かせた。
「私に近付かないで下さい!」”仮面の少女”は少し強い口調で話す。
もしかして僕に近寄られたのがそんなに嫌だったのか? いや、でも少し前まで僕の傍でヒールしてくれてたのに?ん~わからない。僕は少し考えたがわからなかったので立ち上がり彼女と少し距離を取り名乗る事にした。この時またこめかみにチクチクと痛みが走る。
「僕の名前は……✖✖…、……✖✖…、あれ名前が出てこない。」僕は自分の名前がいくら思い出そうとしても出てこないことに混乱した
「僕の名前は……✖✖…、」もう一度声に出して言った。それでも出てこない。。。何かがおかしい……
いや、名前が出ないだけか? それともこの異世界に来て僕自身がおかしくなったのか?いやそんなことはない!と頭の中で否定はするが記憶がはっきりせず答えが出ずにいた。
僕はその場でまた倒れそうになり膝を付き頭を抱えていた・・・ その様子に気付いた彼女は心配そうに僕の傍まで来て佇んでいる。
「いや、大丈夫です」僕は少し自分の顔にビンタして正気を取り戻した。
彼女はそんな僕をずっと見ていた……
すると彼女は僕から距離を置き後ろを向き仮面を上げ「私の名前は………〇〇。」と喋った。
また何か頭の中で雑音がして聞き取れなかった、彼女が折角名前を言ってくれたのに…
「あ、ごめん……」僕が俯きながら聞き取れなかった事をごまかした
彼女は横に首を振った。そしてまた後ろを向いた・・・彼女が喋り出した……
その声音はどこか悲しいようにも聞こえた……
だが何を言っているのか僕にはやはり分からなかった……
彼女はまだ僕に何かを言っているようだったがやはり聴き取れないので僕はそのまま彼女の元まで歩いた。「ごめん、何言ってるか全然分からないんだ」と僕は正直に言った。
すると彼女は何か言いたそうに手を動かした。
僕はその行動に一瞬戸惑ったが彼女は手を動かし何かを伝えようとしていた。
しかし僕は彼女の行動を、彼女が何を伝えたいかが分からなかった……
僕は彼女にお礼を言いその場を去ろうとした……
そして少し間が空き彼女が何かを言った。
ん?やはり聞こえるぞ!これは僕の耳が悪いんじゃない! 彼女はまた後ろを向いていた……
僕は彼女まで近付き彼女の肩を掴んだ。彼女は驚き僕を見た。
「あ、あの僕は……。」何か言いたくなったが何を話すのか分からなくなった。
僕はそして逃げるように”仮面の少女”から去った…。
これが彼女との最初の出会いの顛末である
彼女とはこの後1か月後に全く違う場所で運命の再開を果たす
その時僕は奴隷で彼女は買い手だった……
何故、彼女は僕と話す時にずっと後ろを向いていたのか?
彼女は何故仮面を付けていたのか?
何故彼女は近付かれるのを嫌がったのか?
それは1か月後に奴隷主となった彼女から聞かされる事になる。
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