第一章 第12話「僕らが出会った場所」
彼女と初めての契りを結んだ翌朝、僕たちはギルドに向かう。
僕たちは冒険者ギルドで朝食を食べてから依頼掲示板を見に行く事になった。ノア様は浮かれた感じで僕の手を引きながら言う「今日は簡単な依頼を受けましょう」と・・・。
しかし僕が見てみると様々な依頼があった。薬草の採取・荷物持ちの仕事・魔獣討伐の依頼等様々だ・・・。あと2度依頼を達成すれば正式に冒険者と認定される。それから暫く低ランク向けの仕事を探す・・・、これじゃハローワークだな。僕は前世を思い出し苦笑いをする。ノア様は一緒にギルドの掲示板を見ていた。
「レン君、これなんてどうですか?」とノア様が指さした依頼書は『魔角鹿の討伐』だった・・・。
僕はあの惨劇を思い出し微笑んで「また今度にしましょう」と言った。ノア様が外でこんな冗談を言ってくれるのは昨日の契りで距離がかなり縮まったからなのか…そんな事を考えていると彼女は横で小悪魔のように笑っていた……。
それに今朝からノア様は僕を呼ぶときは”レン君”に統一された、前は”貴方”と少し冷たく呼ばれていたのに…。僕は自分の名前で呼ばれるのが嬉しくて堪らなかった。数日前に貰った名前に愛着が湧いてくる。
暫くして探していると「あ、あのこれ、レン君と初めて遭った付近の仕事ですよ。」ノア様が依頼書を見付け指差す。
『あの場所ここから馬でも5日くらいの距離だったような…』
僕は質問する。「ノア様、あそこまではかなり遠いですが…。」
「転送魔方陣ですぐですよ、使用料は高いですが。」
僕はノア様の答えに驚く。『転送魔方陣?ワープみたいなものなのか?』そんな事を考えていると、 ノア様は不思議そうな顔で僕を見る・・・。「レン君?」
「いえ、なんでもありません」僕は笑顔で答える……そして僕らは依頼書を掲示板から剥がし受付に持っていった。
都市から少し離れたあの森林の捜索と薬草の採取の仕事だった。僕はギルドカードを出し手続きをする。「では、気を付けていってらっしゃいませ。」と職員の人が見送ってくれた。
僕らは冒険者ギルドの横の建物に入り職員の人にギルドカードを渡す、ノア様が言うにはここが転送魔方陣の施設だそうだ。
大きな半円のエントランスからいくつもの小さな扉が見える。各扉の向こうの部屋に転送魔方陣があるという。
一般の市民は高額だが冒険者の依頼書とギルドカードを見せれば半額に割り引きされるという
転送魔方陣の仕組みは簡単で2か所の固定された場所の片方から魔方陣の中心の魔石に魔力を送りもう一方の場所に飛ばす。
一つの魔方陣からは一か所のみなので多くの部屋があるそうだ。街の奥にある軍隊直轄の施設の転送魔方陣は同盟国にも飛べるらしい
今日の利用は都市近辺なので街中のギルド横のよく利用されている施設で飛ぶ。
職員が僕たちのギルドカードを確認し「利用料は一人8000Gです」と僕らに言う。僕は受付で小切手で料金を払う。そして僕らは小さな扉のうちの一つに入る……。
半円型のエントランスには何人か人がいる、恐らく冒険者だろう・・・、30分刻みか利用者が上限に達すると魔導士が転送を発動する。彼らもこれから依頼に向かうのだろうか? そんなことを考えていると小さな魔石の付いたネックレスを渡される。そのネックレスを訳も分からず手で持っているとノア様が僕に言う「レン君、これを首に着けないと飛べませんよ」とクスクス笑う……どうやら悪戯好きのようだ……。僕はネックレスを着けるとノア様が笑顔で「さぁ、行きましょうか」と僕の手を握り入り口に向かう。
職員は僕らを見ると手続きを始める……どうやら僕たちで定員だったらしい。僕らは手を繋ぎながら魔方陣に入る・・・。魔導士が外から魔方陣の円に魔法を送り光が中央の魔石に届いた瞬間
『ピカッ』と目が真っ白になる
『全く同じ部屋にいるが?』僕が呆然と立っていると他の冒険者はとっとと部屋を出ていく。
ノア様は手を繋いできて「レン君、行きましょう」と言う
僕たちはドアを開き外に出る・・・、そこは小さな村の部屋のようだった。
そして少し歩き人目のない所まで来たらノア様が僕から手を離す……
「レン君、ここがユクナ村ですよ。私たちが出会った場所はここから1時間くらい歩いた所です。」ノア様は笑顔で言う……
『本当に転送したんだ!』そして僕らは村の村長らしき人に魔石の付いたネックレスを返す。村長は「冒険者様、御苦労さまです。」と頭を下げる……
そしてノア様は村の周辺を案内してくれるという。僕は彼女の後について行く・・・
僕は自分がワープしたという興奮を抑えながら歩く……
暫くして小さな湖に辿り着いた。とても美しい景色だ・・・。「レン君、ここは私のお気に入りの場所なんですよ」彼女は笑顔で言う。
僕らはその綺麗な湖で手と顔を洗った、外で仮面を外すノア様には少し興奮する。家ではもう見慣れた美しい顔なはずなのに…
そこから風景の良い道をのんびり歩く。僕らはたわいのない会話をする。でも昨日の初夜からノア様の声を聴いても一度も頭痛の気配はない。僕はあまりにも自身の体調が良すぎたのか疑問すら感じていなかった。
『やはり交配による影響は大きいのか?』
そして僕はノア様に切り出した。
少し真面目なトーンで僕は話始める「ノア様、あの……。」
そんな雰囲気にノア様もおどけた態度から姿勢を正しまっすぐこちらを見る。
「昨日の”肉体的な契り”以降はノア様の声の魔障の影響はないです。」
ノア様は恥ずかしそうに俯き「あ、あのそれは良かったです……。」そう小声で言うとそれっきり黙ってしまった。
僕らは昨日の”契り”を思い出し少し距離を置いて歩く。
もう1時間は歩いたか?
そうしてノア様が沈黙を破る「あと少しで私たちが出会った場所です、貴方はそこで右の森に走って行かれました。」
『そうか、ノア様が悪ガキ共に石をぶつけられていた場所か……。』
そうしてノア様は僕の手を取りゆっくり歩く・・・
「あの時、僕は自分の名前が思い出せませんでした。そしてノア様の名前を聞いた時には声の魔障の影響か、頭が割れそうになってそれでノア様から逃げて去りました。」
「あの時私は嬉しかったです。子供に対して私を助けようとした気持ちと、それに私の不快な臭いにもレン君は……。」そう言って彼女は泣きだした。
僕はノア様の頭をゆっくり撫でた。
そうして出会った場所で手を繋いで座りノア様の仮面を外すと深いキスをした。
「私はずっと孤独でした……。」彼女は涙が止まらない…
そして僕らは青空の下抱きしめ合った。
今思えば、僕らはこの時お互い共依存の関係だったんだろう……。
そして共依存の関係など、もろく崩れ去るのを知らなかった……。
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