第一章 第8話「僕の冒険者人生の始まり」

僕は冒険者ギルドの登録で”レン・ヨルク”という新たな名前を必要事項を書き用紙を受付嬢に手渡す。その用紙を受け取った受付嬢は何やら魔法らしきものを唱えている。するとその用紙が光って消えた……。

「これで登録完了です!まだあなたは見習い会員ですが、幾つか依頼の達成をされると正式にギルドメンバーとしてギルドカード発行と口座設立が認められます。」と笑顔で話す。

 その後冒険者のルールやギルドカードについて説明を受ける、この国のギルドランクはAからGランクまである。

 その上に一握りのアイアン級・ブロンズ級・シルーバー級・ゴールド級・プラチナ級・ダイヤ級・そして国にたった一人のマスター冒険者

 このギルドは最高でゴールド級が一人だけいるとの事だった。

 最後に受付嬢からギルドに人だかりができてる右の壁の依頼掲示板を見るように勧められた。

 僕たちは掲示板の前に行く、そこには様々な依頼が貼ってあった。薬草採取から護衛まで色々な依頼がある。ノア様の方を見ると掲示板の上の方の一枚の紙をすっと取り受付嬢に渡していた・・・。僕はそれを見ると『魔角鹿の討伐』と書かれていた。

 それを見た受付嬢は「はい!これはFランクの依頼ですね、政府からの依頼ですので報酬も少し高いです。街道付近を荒らす魔角鹿の討伐ですか…」と話し何やら奥に入っていった。暫くすると奥の部屋から封筒を持って来た。それをノア様は受け取り何か話しているようだ。

 そしてノア様は僕の所に来て話す「この依頼を受けます、良いですか?」


「え?あのノア様、僕何も分からないですが・・・大丈夫でしょうか?」と僕は焦る……。その様子を見てノア様は微笑みながら言う

「大丈夫ですよ、低ランク向けの依頼です。それに貴方がいなくても私は一人で倒せますし心配ないです」と言い僕にギルドカードを見せてくれた、そこには『Dランク』と書かれている……。

 「ノア様はこのギルドに登録されて何年くらいなんですか?」

 ノア様は受付から紙とペンを借り何か書き始めた。メモを見せてもらうと”12年になります”と書かれており僕は驚く。

 「結構ベテランなんですね。」と口を滑らすとノア様は僕に初めて不機嫌そうな態度を取る、仮面の下の表情を想像すると薄ら怖い…。


 女性に年齢に関する言及はご法度だ。


 以前聞いていたが魔族ハーフは人間族より長寿で成長も遅い。この世界の僕より若く見える容姿だが前世の僕の年齢より上かも知れない・・。今後は気を付けようと何か話題を逸らす言葉を探していると、ノア様に年配の高そうな服を着た姿勢の良い男性が話しかけてきた。

 受付嬢が背筋を正して挨拶する、その挨拶からギルドの書記長だと分かった。

「お久しぶりです、オークションで買われたのがその男ですかな?」ギルドの書記長がノア様にそう言うと、ノア様はなにかメモを書き始めて渡した。

 その後会釈して書記長は去る。

 ノア様はDランクだけどギルドの偉い人とも面識があるのかと少し不思議に思うが、ノア様がもうギルドの外に出たがっていたのでそれに従った。

 他の冒険者のも個性的な防具やローブの者もいたので、街中よりマントと仮面姿のノア様もギルドの建物内ではそれほど目立たないはずに思えたが、何故かこちらに視線が多く集まっているようにも感じた。

 僕たちは外に出た、仮面を少し上げ一旦装備と荷物の準備の為家に戻り、夕方に依頼のあった地域に向かうとの事。

 帰路の途中で防具屋と干物を売ってる店に向かうとの事

 大通りを少し歩くと剣や盾の看板が並ぶ広間がありそこの盾の看板の店に向かう。

 店に入ると中年の如何にも元冒険者のような店主がデカい声で挨拶してくる。なかなか苦手なタイプだとたじろぐが、ぐいぐい質問してくる。僕は初心者向けの軽い防具を聞いた。早速店長お勧めの品を試着する。それらは革製の胸当てに肘・肩・膝などの関節部分も保護している。動きやすく防御面でも優れている印象を受けた。

 僕はノア様に防具の装着を手伝ってもらい、その革の胸当ての上に更にマントを羽織った。

 「似合ってますよ」とノア様が小声で褒めてくれたので僕は照れる・・・ が奴隷にマントはなにか違うとやめておいた。

 上半身の皮防具一式で60万ギル、下半身は膝と脛当てのみなので10万ギル 計70万ギルだった。

 店長は安くしておいたぜと言ったがこの世界の防具の相場はピンとこなかった、あとでノア様に聞くと初心者向けはその後の顧客になるから少しお安いとの事

 胸と腕に少し金属の帷子が施してあるのでその値段という事だった。

 何から何まで現在はノア様にお金を出して貰っている、それにノア様は僕を4000万ギルで買った。ギルドで12年依頼をこなしてるとの事だが『Dランク』でそこまで稼げているのか?貯金は大丈夫なのかと?心配もあった。これから僕も防具を冒険者の報酬で返していかないとと思った。

 家に向かいながら僕はノア様に依頼の魔角鹿について聞いてみた。

「あの、さっき討伐する魔物は”魔角鹿”って言ってましたがどんな魔物なんでしょうか?」

「私もよく討伐しているので大丈夫です、依頼にあった森から街道によく出没して冒険者や商人を襲います、繁殖が盛んなので狩っても狩ってもまた翌月出てきます」と説明してくれた。そして続けて話す。

『魔角鹿』は頭に大きい角がある小型の獣で、その角には魔力があり魔法攻撃にも耐性を持つという。またその角には薬の成分が含まれているので高値で取引されるらしい。「この森は薬草も豊富ですし魔物もあまり強くないので、ギルドの依頼ではよく魔角鹿討伐があります」

 ノア様は冒険者に関することだけはいつも無口な時と違って少し早口で饒舌に話す。僕はやはり言葉の多さで頭が痛くなって吐き気を感じていた。

 少しよろめくとノア様が心配してくださり木の元の木陰の芝生で休んだ。ノア様の方を見るとずっと俯いている。

 

 きっと昨日の事を思い出しているのだろう、僕がまたこの症状が出たので昨日と同じ事をしなければならない。

 ましてや冒険の依頼でメモなど書けやしない。時には大声を出す。その為には・・・。


 少し芝生で休みその後、冒険中の保存食として魚の干物や肉の燻製を買いそして家に着いた。僕たちは夕方出発の装備や荷物の準備をする。

 僕は初めて自分の武器となる短剣を手に取った。ノア様のお古のその短剣は30センチほどで軽いものだった。これなら非力の僕でも扱える。

 改めて依頼書の詳細を読み返す。魔角鹿は森の奥地にいるみたいだ、この森の魔物はFランクが殆どで低ランクの冒険者向きとの記述。

 ノア様が依頼に関するめもを書き僕に見せる。

 ”夕方大通りの停留所に向かい隣の都市への定期馬車で向かう、依頼地点で降ろしてもらい徒歩で森の奥に侵入する。森で一泊するので荷物は少し多めに”

 ”夜間なのではぐれないようお互い絶対に離れない事”

 ”基本はノア様が戦うので自分の身を守る事だけを考えて欲しい”

 ノア様からしたら何でもない依頼だと思うが今回は僕という足枷がいるので慎重になっているのだろうか?そして僕もノア様に少しの気休め程度になればと一言話す。

「あの……僕はただの奴隷です。もし危なくなったら僕を囮にしてください」

 するとノア様は慌てて言う「そんな事絶対にしません!」と厳しい顔で言われる。顔が赤くなっているのが分かる・・・多分怒らせたのだろう・・・。その後僕たちは夕方まで仮眠を取る事にした。

 いよいよ冒険者としての初めての仕事だ。気を引き締めていこう・・・うとうとしてるとノア様から身体を揺さぶられ目が覚めた。ノア様はもう準備をしていた。いつの間にか熟睡していたようだ。

「おはようございます」と僕が言うと、ノア様は笑顔で挨拶してくれた。

 そしてすぐに装備を身に付ける。今日はいつもと違う革の胸当てに膝当てと脛当て、短剣も腰に差している。体力のない僕にとってはフル装備は少し重い。緊張しながら玄関を出て時間より早めに停留所の大通りまで歩く。少し待っていると馬車が来る。

 僕は初めて馬車に乗るが、この異世界に来てから初めての乗り物だ。馬を見るとやはり怖い・・・。

 御者にギルド依頼書を見せ依頼地点で降ろしてくれと頼む。僕を見て何か言いたげだったが、僕とノア様が乗ると御者は話さず馬車を走らせた。乗り合いの別の乗客が僕に話しかける。「その恰好は冒険者のひと?」 僕が今日が初依頼と答えると笑って頑張れよと声を掛けてくれた。隣のノア様は眠ったかのようにダンマリだ。

 荷台は8人乗りくらいのスペースで9人も乗っていたので少々きつかった。ノア様は一番端に座り僕に寄りかかる。僕は深呼吸した。そして今一度依頼内容を思い出す・・・魔角鹿の討伐・・・。

 そう考えているうちに森の入口に着いたのか馬が止まったので僕たちは御者に礼を言い馬車から降りた。

 ノア様は僕に言う。「では、行きましょう」 僕は頷き森の中に入っていく・・・少し歩くと獣道がありそれに沿って進む。暫く進むと木漏れ日が消え周囲が暗くなる、更に歩くと少し開けた場所に出る。ノア様はそこに魔角鹿の足跡を見付ける。そしてその足跡を追跡する・・・。森に入って30分くらいでもう僕は息を切らしていた。初めて異世界で目覚めた時も森だった、そこで盗賊に捕らえられるまで独りで数週間過ごした。しかし今はこの防具と背中に背負ってる荷物。あの時はただ漠然と何も持たずに生存の事だけ考えていた。改めてあの時魔獣に襲われなかった事が幸運だと知る。


 今日のこの森はそれほど不気味だった。



 そして低ランクの簡単な依頼のはずだった僕の冒険者としての初の仕事は色んな意味で運命の夜となった……。

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