第7話 カフェへの新たな来客
「魔王様かあ・・・。」
これまでの少ない会話などから考える。
「私、全然話したことないから、あんまりよくわからないけど・・・。」
「最初に会った時は、冷たそうな人だと思った。」
「・・・そうですか。」
リン君が相槌を打ってくる。
「だって、ずっとすまし顔で、ピクリとも笑わないし。あんまり、言葉を発してくれないし・・・。それは、その機会がなかったからかもだけど・・・。」
「外見はどうですか?魔王様、ものすごく整った顔をしているね、と言われることも多いんです。」
「外見は・・・確かに、凄く整ってる。初めて会った時は、本に出てくる王子様か
それ以上に整ってると思った。芸術的だって。それで私も、凄く緊張してたし。」
「さっき街を歩いてた時みたいに、それで魔王様に近づく人もいると思う。」
「あっ、私は内面とかも大事だと思うから、そんなことしないけどね。まあ、それぐらいに整った外見だってこと。」
「なるほど。」
また、リン君が相槌を打つ。
「ただね・・・今は、あんまり冷たそうとか、そういう考えはないの。」
私は胸の内の考えを打ち明ける。
「それは、どうして・・・ですか?」
リン君が疑問を飛ばす。
「えっと、急に・・・わ、私の頬を触ってきたりとか、頭をなでてきたときとかに、そう思ったんだけどね。」
「急に触ってくるってどういうこと・・・って、理解はできなかったけど、別に嫌な感じはしなくて。それ以上に・・・。」
「何となく・・・魔王様の心の奥の、優しさを感じた・・・気がしたんだ。」
「頬を触ってきたときも、手は冷たかったんだけど、何か、触り方とか、匂いとか・・・ごめん。ちょっとうまく説明できないや。そういうところに、温かさがあったんだ。」
「まあ・・・本当に何となく、そう思ったんだよね。」
「だから今は、実は優しい方なんじゃないかって、考えてる。」
私の目に映るリン君は、驚いた表情をしていた。
まるで、そんなことを言われると思っていなかった、という表情だ。
「カノンさんは魔王様のこと、そんな風に思っているのですね。」
リン君はすぐにいつもの表情に戻って、そう言った。
「ていうか、私よりリン君のほうが詳しいんじゃないの?ねえ、魔王様ってどんな方なの?」
「ええとーーー」
注文した料理が来たことで、会話が中断される。
「あ、私そっちです。」
机に料理がおかれると、有無を言わさずリン君は黙々と料理を食べ始めた。
よっぽどおなかがすいていたのだろうと思い、何も言わず、私も食べ始める。
食べている間は会話はなく、私は外の景色を眺めているだけだった。
本来デートではゼロ点のこの状況だが、最初に魔王様がついて来た時から、もう、なるようになれ!というような割り切った気持でいたので、特に何も思わない。
「ごちそうさまでした。」
リン君が先に食べ終わって言った。
私も最後の残りを食べ、同じことを言おうとした・・・のだが。
ガチャ、という音が鳴って、店の扉が開く。
すると、仕事終わりのような、明らかにガラの悪い二人組が店内に入ってくる。
「はあ~あ、やってらんねえよ、マジであの店長!」
「な!いっつもいっつもガミガミガミガミ・・・俺らをいじめて楽しんでんじゃねえか?」
「そうだよな!?・・・ちっ。思い出すだけで腹が立つ・・・。おい店員!注文だ!」
叫び声を聞いて出てきた店員さんにも、片方が注文しながら怒りをぶちまける。
「あぁ・・・?そんなこと聞かないでもわかるだろうがよ!!!」
「で、ですが・・・温かい方がいいお客様もいらっしゃいますので・・・。」
「んなこと知らねえよ。」
「では、ご注文はーー」
「もうねえよ。わかったらさっさと俺の前から消えろ!!!」
店員さんは、少し涙目になりながら、厨房に戻っていった。
「今日は散々だぜ・・・ったく。」
少し・・・気持ち悪くなってきたかもしれない。
魔族の負の感情を目の当たりにすると、毎回こうなってしまう。
そのとき、リン君が小声で早く行こうと言ってきた。
私はそれに賛同し、席を立とうとする。
「ごちそうさまでし・・・」
「ぷはっ、あのいけ好かねえ王様もいるしよ!」
私は、少し気になって動きを止める。
「あの王様・・・いっつもいっつも女に囲まれてよお・・・。」
「イラつくぜ、本当に!外面と地位だけ良くってちやほやされて・・・。」
「どうせ城ん中じゃ部下にだけ仕事させてんだろ!?」
「絶対そうだ。俺らはちゃんと働いてるってのによぉ!」
「まったく。いい御身分だよな!」
ここで聞いて初めて、魔王様のことをよく思わない魔族もいることを知った。
この魔族たちは、魔王様のあの整った外見と、魔族の中で最上位と言ってもいい、王という地位に、嫉妬しているのだ。
でもこの魔族たちは、王というある意味での仕事の、大変さを知らない。
「実はあいつ、とんだアホなんじゃないか?部下が考えたこと復唱するだけの。」
「あんな冷静そうな感じで、実はなんにも考えてませーん。頭空っぽですーってか?ギャハハ!そうに違いねえ!!!」
魔族たちがそう笑ったとき、私はとうとう我慢が出来なくなった。
「違うっ!!!」
カフェの中にいる全員が驚くくらい、大きな声だった。
頭では、平穏にやり過ごすのが一番だってわかってはいた。
でも、私の心は止められなかった。
「カノンさん!?」
「あっ・・・。」
リン君の驚くような声が聞こえ、はっと我に返る。
二人組がこちらを向いてくる。
「あぁ・・・?」
「なんだお前?」
怒りの矛先が私に向く。
「人間、か?」
「てか、魔王と一緒にいた女じゃないか・・・?」
「そういえば・・・!ハッ、なるほどな。親愛なる魔王様が馬鹿にされて、つい声が出たのか。」
「なあお前、あんなカスみてえな王様の、どこがいいんだよ?」
「そうだぜ!意外といい見た目してるし・・・なあ、俺たちと一緒に来ねえか?」
「あんな奴のこと忘れて、俺たちの一緒に遊ぼうぜぇ。」
私は緊張を超えて、吐きそうだった。吐く寸前だった。
でも、胃から上がってくるものを抑え込む。
そんなことより、この魔族たちに言い返してやりたくなったのだ。
私は、魔王様のことを何も知らない。
だけどっ!
「・・・ない・・・!」
「あぁ?」
「今なんつったお前?」
「あなたたちは、王様の仕事のことを、何にも知らない!」
「王様はね、毎日毎日早起きして、夜遅くまで働いてる!」
「寝る時間を削ってまで、みんなのために働いてる!」
「いつも自分の気持ちを押し殺して、もっと多くの国の住民たちが幸せに暮らしてるようにって・・・自分を犠牲にして働いてるの!」
私は、魔王様のことを何も知らない。
でも、王様は彼らが言うような者には、勤まるはずがないことは知っている。
何年も、この目で見てきたのだ。
少なくともお父様は、自分よりも誰かの・・・民のためを思って動く人間だった。
私がどんなに朝早く起きても、それよりも早くお父様は起きていた。
もしかしたら、寝ていない時もあったのかもしれない。
それぐらいに、自分を犠牲にしていた。
だからこそ私は、「本当の」父だと思って尊敬しているし、だからこそ、従者や、民はついてきてくれる。信じてくれる。
「あなたたちみたいなのに私はついていくわけがないし、魔王様を悪く言う権利もない!!!」
魔王様だけでなく、お父様のことを思って、言った。
ただ、カノンはその後どうなるか考えていなかった。
「いいこと言って、正義の勇者気取り、ってか?」
「うぜえんだよ、子どものくせして!」
一歩ずつ、魔族たちがカノンに近づいてくる。
「誰にたてついたか、思い知らせてやるよ!」
怒りを爆発させ、そう凄む。
客たちは騒ぎながら、一斉に店の外へと出ていく。
そんな状況の中、カノンの言葉を心の中で復唱し、何かを考えているのは、
リンだった。
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