第8話 王子様とお姫様のような
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「あなたたちみたいなのに私はついていくわけがないし、魔王様のことを悪く言う資格もない!!!」
カノンさんの心からの叫びを聞いて、僕の考えは、確信へと変わった。
この人は、魔王様の地位や外見を目当てに近づいてくることはない。
さっきの質問にも、ふわりとした回答ではあったけど、魔王様の心を、何故かとらえていた。
魔王様のことを何も知らないはずなのに、擁護する必要もないはずなのに、魔王様の名誉を、守ろうとしてくれた。
僕に、さっきまでの「試す」というような考えは、もうない。
僕は、兄を支える一人の従者であって、弟だ。
ただ、僕は兄の心までも、支えてあげられなかった。
昔訪れていた場所に、一緒に行ってみたり。
昔遊んでいたものを、もう一度一緒にしてみたりした。
できることなら、僕が兄を昔のようにしてあげたかった。
結局それは、ただ行くだけ、するだけにしかならず。
なにも、変わらなかった。
自分の無力さも感じる。
僕では、兄を変えてあげられない。
やはりカノンさんにしか、兄を変えてあげられない。
なら・・・僕は、僕なりにできることをする。
僕は、魔王様だけでなく、カノンさんの、力になろう。
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「下がってください、カノンさん。」
「えっ、リン君!?」
リン君が私の前に立つ。
「おいおい、何だこのかわいいのは?」
「お前も痛い目にあいたいみてえだな!」
手をボキボキと鳴らしながら、そのまま一歩ずつ近づいてくる。
「危ないよ、リン君!」
次の瞬間、思いがけないことが起こった。
リン君は身軽に体を翻し宙を舞い、二人の魔族の後ろを取ったのだ。
「「なっ!?」」
魔族の驚く声が響く。
「なんて速さだこいつ!?」
殴りかかろうとするも、すんでのところでリン君に躱される。
「ちぃっっ、ちょこまかと!!」
「くそがっ!!」
二人で連続して殴りかかっても、リン君には当たらなかった。
「お前は先にあの女を狙え!!」
一人が、私へと標的を変更し、厨房に走る。
「邪魔だ、どけ!!!」
店員さんたちの悲鳴、食器の割れる音がする。
そして出てきた魔族の手には、包丁があった。
「あいつを人質にとればこっちのもんだぜ・・・!」
まずいっ・・・!!
私は、なんの戦う力もないため、必死で逃げようとする。
けれど、この決して広くはない場所ではそれも限界があって。
「きゃあっ!」
私は足を滑らせ、壁際まで追いつめられる。
「オラ、捕まえーーー」
でも、ついに私は捕まらなかった。
一瞬にして、一人の魔族の攻撃をよけていたリン君がこちらへと駆けつけ、私を襲おうとしていた魔族の、脚を蹴って転ばせたのだ。
「いだっっ・・・!」
そして、駆け付けたもう一人も。
「ゔっ・・・」
そして、この可愛らしい顔からは想像もできないほど冷たい声で。
「あなたたちみたいなものが・・・。」
「カノンさんに触れていいはずがないだろう・・・?」
リン君は、まるで舞を踊っているかのような精錬された無駄のない動きで、二人の魔族を翻弄した。
「さあ、早く出て行け。店にも迷惑だ。」
「「は、はいいい!!!」」
二人の魔族はすぐに立ち上がり、目にもとまらぬ速さで店から出て行った。
「大丈夫ですか、カノンさん。」
私は、先に逃げることもできた。いや、そうするべきだった。
リン君の足手まといにならないように。
ただ・・・
私はリン君の軽やかな動きの美しさに、目を奪われてしまっていた。
リン君の手がのばされる。
たぶん、今私は本に出てくるヒロインのような助けられ方をしている。
私の目に映るリン君は、これまでの、可愛い年下のようには映っていない。
一人の・・・頼れる魔族として、見上げている。
「う、うん・・・。」
私はリン君に手を取られ、立ちあがる。
その時、忘れていた吐き気が私を襲った。
「っ!!!」
「だ、大丈夫ですかカノンさん!?」
私は手で口を覆い、必死に我慢する。
いつもなら、少し経てば歩けるくらいには落ち着いたのだが。
「ゔ・・・。お、おえぇ・・・。」
今回に限って、吐いてしまう。
今日たくさんの魔族と接触し、それが蓄積したのだと思う。
ドスン。
私はそのまま、床に倒れこむ。
だんだん意識が遠のいていく。
「・・・カノンさん!・・・さん・・・。」
ここまでよく頑張ったと自分を心の中で褒めたところで、意識が飛んだ。
「・・・はっ・・・!」
飛び上がるように起きる。
そこは、まだ真っ白な、私の部屋だった。
目覚めは、最悪だった。
また、あの夢を見た。
良い星空の景色に、森の風に揺れる音。
母が殺されるところ。
そして、嫌な悲壮感と、喪失感。理由のわからない安心感。
すーはー、すーはー。
深呼吸して、心を落ち着かせる。
魔族嫌いも少し進展があったのに、またこの夢を見た。
いや・・・、と思い直す。
どこに、魔族嫌いが治ればこの夢を見なくなるという根拠がある?
確かに、いまだに魔族嫌いである原因は、この夢にもある。
だからと言って、魔族嫌いが治れば、この夢を見なくなるのか・・・?
それは、いくら考えても答えの出ない疑問だった。
昨日のように、コンコンとドアがノックされる。
「・・・カノンさん、大丈夫ですか?」
「少し、物音が聞こえたので。」
これも昨日のように、リン君だった。
「体調は、どうですか?」
ベッドに座る私の前に立って、いつもの表情でリン君がそう言う。
昨日かなり吐いたからか、余裕ができている。
「ああ、うん・・・まあ、大丈夫。」
「ずいぶん・・・うなされるような声が聞こえましたが。」
え・・・隣にまで聞こえてたのかな・・・。
「何か、悪い夢でも?」
・・・リン君に、夢のことを伝えるべきだろうか。
・・・やめておこう。
魔族に、「私は魔族嫌いなんです」と伝えて、相手がどう思うか考えられないほど、私は馬鹿じゃない。
「いや、まあそんな感じ・・・。」
私は濁して答えた。
「まあ、体調は全然大丈夫だから、安心して!」
「そうですか・・・。」
リン君は、一瞬だけほっとした表情をした。
「では・・・カノンさんに、ご相談があります。」
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