第11話 パーティーと謎の刺客?
夢を見る前の、楽しげな夜。
私とリン君は、あの後も話をしていた。
「魔王様も、ほかの人と立場上少しは話をしないといけない。でも、魔王様は人と話すのが好きじゃない。これは昔からのこと。そこを狙うんだ。」
「人と話し疲れた後、魔王様は絶対に外に涼みにいくから、カノンさんはそこに話しかけに行ってほしい。」
「わかった・・・けど、そもそもパーティーには私の参加していいの?」
「そこは・・・何とか魔王様に頼み込んでみる。多分だけど、カノンさんなら許可してくれるんじゃないかな。」
「もちろん僕もパーティーにはついていくし、手助けもする。だから、安心してほしい。まあ、ちょっと心配なこともあるけど・・・。」
「どんなこと?」
「もしかしたら・・・人間が嫌いな魔族がいる・・・かもしれない。」
「カノンさんの国でも、魔族が嫌いな人とかいなかった?」
「あーうん、いたね・・・。」
まさに自分のことだったので、少し目をそらしてしまう。
「おとなしい魔族だったらいいんだけど、それが偉いやつだったら・・・。」
「面倒なことになるかもしれない、ってことね・・・。」
「うん。カフェの時みたいに頭が悪かったら魔王様もいるし、ボコボ・・・じゃなくて、痛めつけてあげられるからいいんだ。」
物騒な言い間違いがこの可愛い顔から冷静な声で飛んできた。
「リン君、凄く強かったもんね。昨日は助かったよ。というか、魔王様、も?」
「・・・僕たち兄弟は昔、身を守るために護身術を習っていたから。僕なんかより、兄のほうがずっとすごいよ。」
物悲しげに、リン君が言う。
「あのさ、聞いていいかわからないけど・・・昔何かあったの?」
思い切って、聞いてみる。
「・・・簡単に言うと親の教育だよ。教育がものすごく・・・厳しかったんだ。」
「それは・・・なんというか・・・。」
しんみりした雰囲気になったと感じたのか、急にリン君が明るい調子で言う。
「でも、良いこともあった。さっきの、護身術みたいに。」
「そういう意味では、良い教育だったとも言える・・・かな。」
パチン、と手と手で拍手をするように音を鳴らすリン君。
「さあ、話を戻そう。で、万が一頭がいいやつの場合、陰湿な感じで攻撃してくるんだ。」
「だから、このパーティーでカノンさんには、魔王様以外話をしてほしくない。」
私も気持ちを変え、元気よく返答する。
「わかった!」
「もし話しかけられたら、僕がフォローするから。」
しんみりとした雰囲気から会話を続け、またにぎやかな雰囲気になっていった。
そして、パーティー当日。
私と、リン君と、魔王様の三人は昼過ぎには城から離れ、
ある・・・本でいうところの洋風のおしゃれな屋敷に来ていた。
魔王様を前に、私とリン君がついていくような形で入口の前にいる、執事のおじいさんに話しかけに行く。
「これはこれは、魔王様とそのお連れ方!ようこそおいでなさいました。」
「どうぞこちらへ!」
そのまま中に案内されていく。
「リン君は来たことあるの?」
右を歩くリン君に小声で話しかける。
「うん、何度か。でも年に一回しかないものだから、そこまでの回数は。」
それに合わせて、リン君も小声で返す。
私は何も話さなくていいとはいえ緊張する・・・。
魔族がいるからでもあるけれど、私はパーティーなどに、一度も参加したことがないのだ。どういう風なんだろ?と、興味もあるが緊張もする。
そのまま少し歩いた末、本会場への扉が開かれた。
「おお・・・。」
すでにパーティーは始まっていて、中はかなりの賑わいを見せていた。
前に進みながら、部屋全体を見渡す。
中は思ったよりずっと広かった。
イメージしていたのは全面が、床までもピカピカとした、お父様の城の、玉座の間くらいの広さの部屋。
しかし実際には側面のみがピカピカしていて、床は白の・・・大理石で。
お父様の玉座の間、もう一個分くらい横に広かった。
そして上を見上げると、空が見えた。
雨が降ってくると台無しの開放的な空間ではなく、ガラス張りの天井だ。
それに、ただガラスに貼ってあるわけではなく、上方向に向かって膨らんだ、球のようになっていて、なんかおしゃれだと思った。
リン君と魔王様は見慣れていたのか、見渡すこともせず執事さんについていく。
「では、どうぞごゆっくり。」
中心あたりまで来て、執事さんが戻っていった。
「・・・これからは、魔王様がほかの方々とお話をする時間。」
リン君が耳打ちをしてくる。
「・・・僕たちは、魔王様の後ろで静かに待つだけでいいから。」
リン君がそう言った後にすぐ、魔王様の周りに様々な外見をした人が集まってきた。
「あら魔王様、お久しぶりです~!」
「こんばんは、魔王様。」
「魔王様、久しぶり~!」
マダムから、商人から、その息子から。
見るからに騎士のようにガタイの良い魔族から、ご令嬢のように若く美しい魔族まで
様々な身分、年齢の魔族が魔王様のもとに集まり、挨拶をしていく。
その内容も色々で、ただ挨拶をするだけの者もいれば。
「いえね、この間息子が生まれまして・・・!」
関係が長いのか、私情たっぷりの話をする者も。
「この間の話、考えていただけました・・・?」
商談やら政治的な話をする者も。
「私、かなり男性に好かれるんですよ・・・?」
魔王様の地位か姿かに惹かれ、近づこうとする者もいた。
・・・ほんとに魔族が多いなあ・・・。
従者という待つだけの立場で良かった。
これだけの魔族と話したりしたら、吐いてパーティーどころじゃなくなってしまう。
そんなことを考え、静かに心の中で安心する。
私が魔王様の飲み物を持ってきた後、しばらく待っていると、なぜか魔王様でなく私たちをじっと見る魔族の男がいた。
「・・・気を付けて、あの魔族、僕たちのことを見てる。」
リン君もそれに気づいていたらしく、いつもと変わらない声で耳打ちしてきた。
「わかってる。」
返事だけをして、その魔族に注意しながらまた黙る。
しかし・・・。
「ねえ、もっと近づいて来たよ、どうしよう・・・!」
魔族はどこかに行くでもなく、私たちの方に近づいてきた。
静かに焦る私を見て、
「魔王様。二人で少し席を外しても?」
リン君が魔王様の客たちとの会話の合間を縫ってしゃべりかける。
その言葉を聞いて、これまた静かにうなずく魔王様。
「付いてきて。」
リン君がそう言ったため、魔族から離れるように二人で歩き始める。
ただ、あの魔族も私たちと一定の距離を保って近づいてきた。
見かねたリン君が足を止め、
「・・・問い詰めに行こう。」
そう冷静に言う。
この前も聞いた、可愛らしい顔から出される怖い発言に、私は驚く。
「ええっ、ダメだよリン君!慎重にっ・・・」
すでにリン君はやや速足で魔族の男の方に向かっていた。
「ああ、行っちゃった・・・。」
仕方ないので私もリン君を追いかけるようにして、魔族の方へ向かう。
リン君がとその魔族の目の前に行くと、私はリン君の隣で二人を比べてしまう。
魔族はリン君と同じくらいの身長で、リン君とまではいかずとも、整った顔立ちをしていた。また、その姿や立ち振る舞いから・・・どこかの偉い人とか金持ちの、息子だと私は認識する。
「すみません。あなた、僕・・・もしくはこの女性に何か用でも?」
リン君が直球に、少しいつもより冷たい声で質問を投げかける。
それを聞いた魔族は、一瞬驚いたように口を開いた後、急にリン君の手を取って。
「用あるっす!!!」
ものすごく食い気味にそう言ったので、逆にリン君が戸惑う。
「ど、どんな用ですか・・・?」
「お二人って、あの時カフェにいた人っすよね!?」
リン君がそれに反応する。
「あの時・・・?」
一つ思い当たることはあったが、私がそれを口に出す前に、先に魔族が喋りだす。
「ほらあの時っすよ、あの時!変な輩がそっちの女の人にぶちぎれた時っす!」
「あ~・・・」
リン君が納得したように口をこぼす。
「あっ、自己紹介してなかったっすね!」
「俺の名前はレオっす!これからよろしくお願いします!」
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