第12話 やばめの魔族と魔王様の本音

レオさんはそのまま話し始める。


 「この前店に来てくれた時、俺厨房にいたんすよ!で、そこから事の一部始終を見てて、まあ、ひとりの観客だったわけっす。」


観客・・・?

随分と楽観的な発言に、私は違和感を持つ。包丁まで持ち出していたというのに。


 「ほんっとーにすごかったすね!!!まるで小説のワンシーンみたいに、主人公がいて、ヒロインがいて・・・ヒロインが危なくなった時に、主人公が駆けつける!起承転結ちゃんと整ってて、最後に手を差し伸べるとことか、もうなんなんすか!」

 「見逃しちゃだめだと思って、一回も瞬きできなかったすよ!」


ものすごく早口で語るレオさんに、私は確信する。


この魔族は、常識が外れていると。


確かによっぽど冷静ならそんな風に見えたかもしれないけど、私からしたら、危機一髪の、少し違えば命すら危うい状況だった。


相手は包丁も持っていたし、自分自身も危なかったはず。そこでそんな考えが出るのは、常識はずれの考えを持っているとしか思えなかった。


リン君も、初めて少し引いている気がした。


 「えっと・・・レオさんって変わった人なんですね。」

 「あっはっは!よく言われるっす!親とかにも!」


私はそう口にしたが、またも能天気な答えが返ってきた。


 「俺、なんかいっつも無意識になんか面白いことないかなって考えちゃうんすよね。普通に過ごしてるだけじゃ物足りないっつーか・・・ある意味欲求不満みたいな感じで。だから、夜はあそこで働いてるんすよ。いい景色でしょ、あの店!」


 「まあ・・・それはそうですね。」


そこに関しては共感できた。


 「で、そこで働いてたら偶然!ガラの悪いやつが来て、小説みたいな展開になってって・・・もっと面白いことが見れたっす!エビで鯛を釣る・・・ってやつっすね!」


 「そしてまたも偶然!その二人がパーティーに来てるもんだからついついジロジロ見ちゃって!いやあ、やっぱり持ってるっすね俺!」


 「「・・・・・・」」


あまりの饒舌っぷりに、リン君ですら無言になっている。


 「というか・・・二人は付き合ってるんすか!?」


付きあ・・・え?

私とリン君は唐突に質問が来て、呑み込むのに時間がかかる。


私たちのポカンとした様子を見て、レオさんが重ねて言う。


 「ほら、カフェに二人で来るような仲なんすよね?じゃあ付き合ってるって思われるのも普通じゃないすか?」


あっ、そういうことか。

って・・・!


 「いやいやいやいや、私とリン君は友達ですよ!」


理解して、慌てて否定する。


つ、付き合うだなんてそんな!

リン君とはただの友達で・・・!


 「ほら、リン君も否定して!」


 「・・・カノンさん。」


リン君は、徐々に徐々に私の方を向いて・・・。


 

 「付き合うって・・・何?」


リン君は、すさまじいほどにその方面のことに関して無知だった。


 「し、知らないの!?」


つい大きな声が出て、一瞬だけ周りからの目線が集まった。

 「・・・知らないの?」

今度はさっきよりも小さな声で聞く。

 「うん。」

 「じゃあ、こ、恋とかも?」

 「名前だけは、聞いたことあるかも。」

 「えぇ・・・。」

自分が恥ずかしがっていたのが馬鹿らしくなってくる。


 「ふはははっ・・・!」


レオ君がいきなり笑いだす。

 「やっぱりっ、面白いっすよ二人とも!」

 「とにかく!付き合ってないので!」

 「はいはい。わかったっすよ!」


 「夜に来てくれればいるんで、ぜひ遊びに来てほしいっす!」

 「あと、ちょっと気になったんすけど・・・二人は、魔王様の従者…なんすか?」


多分、さっき見ていた時に思ったのだと思う。

 「そう、だけど・・・それがどうかしました?」

 「そうっすよね!」


 「・・・なら、今度遊びに行っちゃおうか・・・」

私たちに聞こえないような声で、何かを言うレオさん。

の隣に、お父様ぐらいの年齢の魔族が立っていた。


その魔族がレオさんの肩をたたく。

 「な?」

 

 「おいレオ。」

 「お前は・・・いっつもいっつも、どこをほっつき歩いているんだ!!!」

その魔族の怒号がとぶ。

 「うわっ、親父!」

 「ほら、あいさつ回りに行くぞ!」

 「ちょっと待ってよ、まだ話が・・・」

言いながら引っ張られていくレオさん。

 「次会った時は二人とも、敬語じゃなくていいっすよ~~~!」


それだけ言い残して、風のように去っていった。


「「・・・」」

私とリン君は、無言で魔王様のところに戻っていく。





戻っても、まだまばらではあるが、魔王様の客が残っていた。

戻ってきた私たちを一瞥し、また魔王様は客との会話を再開する。


最初と全く変わらない話すスピードと調子からは、疲れが感じられない。

リン君の言っていた通りであれば、話し終われば疲れて外に涼みに行くとのことだったが、あまりの変化のなさに、それを疑ってしまう。


リン君は、感情があまり表に出ないといっていたけど・・・


魔王様は、何かを感じることはあるのだろうか。


もし感じていないとなれば、私たちが魔王様を笑わせることは、格段に難しくなる。

それどころか、一生笑ってもらえないかもしれない。


情報がなければどうすることもできない。

今日話すことで、何かしら手掛かりが得られればいいけど。






 「では、またお話いたしましょう、魔王様。」

魔王様が、最後の一人と話し終わった。

後ろにいる私たちの方を振り向いて、一言だけ喋る。

 「カノンさん。少し、外に涼んできます。」


魔王様が外に行くのを二人で見届ける。

 「さあ、僕たちも行こう。魔王様はいつも行くのは二階のバルコニーだ。僕が誘導するから、ついてきて。」

私はこくりと頷き、ついていく。



魔族国家に来てから、何回もリン君についていくことがあった。

その背中が、以前よりも大きく感じられるのは、勘違いではないだろう。


誰かに守られてばかりでいいのか、という小さな声が私の内側から聞こえる。


ただ私はもう、そのことは気にしないと決めたのだ。





私とリン君はバルコニー前についた。

 「僕が自然に話をするから、まずはそれに合わせてほしい。」

その確認をしてバルコニーに出る。


魔王様は、バルコニーの柵に両手を乗せ、外の自然を眺めていた。

 「魔王様。」


 「・・・もう帰ってもいい時間かい?」


 「いえ。僕もほかの方と少しだけ話があるので、」

 「カノンさんとここで待っていてくれませんか?」


 「わかった。」


 「では。」

自然に、魔王様と私のみがバルコニーに残る。

 「・・・」

 「・・・」


・・・魔王様としっかり二人で話したことなんて、一回もなかったな。

なぜ、私を助けてくれるのか。

その理由がわかる・・・はずだ。


私にとって重大なことを聞くために、自分の重い口を開ける。


 「魔王様は、良い景色を見ることは・・・好きですか?」

日常会話から、話を切り出していく。






 「好きだと思います。」


リン君と似たような冷たい声。

ただ、魔王様とリン君には、違いがある。

リン君には、その裏に潜む感情がある。そのことを私は知っている。


今私と魔王様が眺めているのは、夕日の映る自然の風景。

上を見上げると雲一つない空。

下を見れば木々が春風に揺られている様子が見れる。


魔王様には・・・この風景がどう映っているのだろう。


 「皆さんとの会話はどうでしたか?」


もう一つ、魔王様に尋ねる。


 「実に濃い時間でしたね。」


その濃い時間という言葉は、どんな意味でとらえればよいのだろう。

あなたにとっての、濃いなのか。

客人にとっての、濃いなのか。


あなたにとって何か感じた時間だったのか、私はわからない。


最後に、一つだけ尋ねる。


 「なぜ・・・私を守ると決めたのですか?」


刹那。

私の髪が目の前の木々と同じように、強い春風にあおられ、前が見えなくなる。

風が後ろからくるように、私は体の向きを横に向ける。







今目の前に映っているのは、一枚の芸術作品だろう。


右側に描かれた木々は強く風にあおられ、今にも木の葉が飛んでいきそうだ。


しかも。

左側のバルコニーに立っている、素晴らしい美貌を持った男性と対比されている。



男性はその風を受けていないかのように、口を開けたまま何も動かない。

足も、胴体も、頭も

髪でさえも。


全てが静止している。


この作品を見た人々は、あることを議論するだろう。

男の、感情を。


風にも負けたくないくらいの、圧倒的な負けず嫌いだとか。


何かに挑戦するという、それはそれは強い意志を「固めた」瞬間だとか。



今の私はこう言う。


男は、何も感じてなどいない、と。


 


 「・・・私は、ある人からカノンさんのことを守るよう、頼まれていました。」




 「・・・話せるのはこれだけです。」



 「これ以上は・・・あなたを傷つけてしまうかもしれない。」



私は・・・裏切られたような気分になった。



誰かに頼まれていたから助けてくれたのか、と。

自分の意志で、助けてくれたんじゃなかったのか、と。


無責任にも、言いたくなった。

勝手に相手に期待して、勝手に自分で落ち込んでる。



・・・めんどくさいやつだな、私。




ところが、話には続きがあった。



 「でも・・・頼まれたのとは別に、カノンさんを・・・守りたいとも思った。」


 「私はそれまで・・・昔の記憶を頼りに生きていました。それ以外に・・・自分の気持ちを教えてくれるものがなかったから。」

 「昔に美しいと思ったものは、今でも絶対に美しいと、自分に思い込ませて。」



 「だけども今の・・・まことの感情ではないだけに。」

 「意識せず表に感情が出ることはなかった。」

 

 「だから私は・・・今の感情が知りたいと思った。」



 「そんな中で何年振りかに感じた感情が、あなたを守りたいというものです。」

 「それを感じてからもかなり時間がたちました。」


魔王様も、こちらを向く。

 「ただし私は胸を張って言えます。」


 「この感情は過去のものではないと。」




今初めて、春風によって魔王様の髪が動き始めた。

静止して見えたのは。

魔王様には心がないと、私が勘違いして、決めつけていたからだった。


私の・・・気持ちが何か、変わった気がした。




 「・・・魔王様。」




 「わたしとこれから、少しデートをしましょう。」






















































 





 







 

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