第13話 二度目のデート
「デート・・・?」
聞き返す魔王様。
「・・・いや、遠慮しておきます。」
「私はカノンさんを、楽しませてあげられない。」
私自身の、思いを話す。
「魔王様の考えは、関係ありません。」
「私は、魔王様に、笑ってほしいと思ったんです。」
「魔王様を、笑わせてあげたいと。」
「魔王様を笑顔にさせられる保証なんてありません。」
「そしてその、自信すらも。」
「だからこれは、私のわがままです。」
絶対に断れないような、私だけの手札を出す。
「いまから、ずるいことを言います。」
「私は魔王様の従者であり、魔王様に守られる人です。」
「守ると決めた人の頼みは、断るべきでしょうか?」
私を守るという、魔王様にとって重要な、過去ではない気持ちを。
「・・・そうですね。」
そして魔王様は、デートを承諾した。
「ならどこに行くかは、わたしが決めます。」
パーティーを後にして城に戻った後、リン君に魔王様とデートをしてくるとだけ言って、また城から出る。
「驚いたリン君の顔、凄い良かったですね~!」
抑えられない笑いを前面に出しながらしゃべる。
「そうですね。」
と言いつつも顔は全く笑っていない魔王様。
しかし、特に気にすることなく歩いていく。
今の私には、それを気にする必要がない。
ただ魔王様が笑ってくれるよう、自然に話すだけでいい。
私はもう、魔王様の裏の考えを知っているから。
「魔王様は今から行くところ、どこかわかりますか?」
「いえ、カノンさんの好みすらわかりませんし・・・。」
すっかり日も暮れ、あたりにはあまり魔族がいないため、魔王様がまた囲まれるなんてことはなかった。
それに魔王様は今帽子をかぶっていて、顔が見えずらくなっている。
「子どものころはどんなことをしていたんですか?」
「子どものころは、そうですね・・・ちょうどあそこに見える花屋さんに行って、あそんでいたこともありました。」
魔王様が指をさした先には、見覚えのある花屋さんだった。
つい、恥ずかしがるリン君のことを思い出してしまう。
あの時の顔はかわいかったなあ・・・。
そういえばあの時、コウ君という名前が出てきたけど、もしかして・・・。
「魔王様の、名前を聞いても・・・?」
「・・・魔王ですが。」
そんな漫才のような回答が返ってくる。
「いや、本当の名前です。リン君みたいな。」
「コウ、という名前・・・だったはずです。」
なんとも歯切れの悪い言葉だった。
「だったはず・・・?」
「この魔王という地位についてから、民からはその役職名でしか呼ばれなくなりました。従者としてのリンからも。なのでこの名前を口に出したのもかなり久しぶりなのです。」
「人々に慕われているのは、魔王であって、コウではない。」
こういうのも、自分を見失う原因になるんだろうなと、私は思った。
「名前で呼ばれたい・・・とかはないんですか?」
「・・・わかりません。」
予想していた回答だ。
「なら・・・昔は、リン君のことをどう思っていたんですか?」
「昔は・・・二つの意味で、可愛い弟でしたね。」
過去のことを中心に会話しながら、ずっと歩く。
私がここの町で知っている店というのは多くない。
その中の一つ、一番行ってよかったと思える場所に、魔王様を連れていく。
「ほら!見えてきましたよ。」
「まさか・・・あの店ですか?」
これも見覚えのある建物で、魔王様がそれを指さす。
そう、あのカフェだ。
「魔王様、このカフェには?」
「これも・・・小さいとき、よく来ましたね。」
喋りながら店内に入っていく。
「初めて来たときはリンがーーー」
そしてどこかの席に座ろうとしていた時。
私の予定にはなかった事が起こる。
「あっ、リンさんじゃないっすか~~~!!」
ほかにいる客など気にせず厨房から大声で私のことを呼ぶ、レオ・・・君の声が聞こえた。
「えっ、なんでレオ君が?パーティーはどうしたの?」
今はまだ、パーティーは続いている時間のはずだったけれど・・・。
「いやあ、あんなパーティーよりも、ここでいい景色見てる方がよっぽど面白い時間を過ごせるっすよ!というか、パーティーのことを言うなら、魔王様がここにいる方がおかしいじゃないんすか?」
・・・まあ確かに。
「ま、まあ魔王様は一通りすべての客人と話してきたから。今はちょっとした休憩時間って感じだよ。」
「へー・・・!」
急に、厨房から小走りで私の方に近づいてくるレオ君。
すぐに私のそばにきて、隣にいる魔王様に聞こえないような小声で言う。
「もしかして・・・今度は魔王様とデートっすか!?」
なっ・・・!
「ちっ、違うから!!!」
またも、ほかの客を驚かせるような大声が出る。
「カノンさん、何が違うのですか?」
「ああいや、なんでもないです・・・はは・・・。」
もちろん、魔王様にも聞こえている。
「ねえレオ君、びっくりするからやめてよ・・・!」
小声でレオ君に伝える。
「ははっ、顔真っ赤じゃないっすか・・・!」
「えっ、そう・・・?」
自覚はなかったが、笑っているレオ君のの顔を見ていると、どうやらそうらしい。
「そうっすよ、パーティーの時よりずっと。」
「いいっすね、魔王と従者の禁断の恋・・・!あっ、リンさんもいるから、三角関係も付いてきて・・・!」
何やら妄想を始めるレオ君。
「美形男子とかわいい系男子の間に挟まれる一人の女性・・・。二人に好意を向けられ、どちらか決めきれないまま、泥沼の関係に発展・・・!」
「互いがたがいに隠れて、リンさんを落とそうしてきて、三人の関係性が明るみになったら、もう手段を択ばずに・・・!」
「うーん、面白い状況っすねえ!やっぱり、僕も城にお邪魔しちゃおうかーーー」
後ろに立っている、店長らしき人の影に気づくレオ君。
「な?」
「すいません、うちのこの馬鹿が!」
「あー待ってまだ話が・・・!」
「早く仕事しろ!」
引っ張られていくレオ君。ものすごく既視感がある。
「・・・どこか席に座りましょうか。」
魔王様に呼びかける。
席に座ってから話始める。
「カノンさん、あの方は・・・?」
「あーまあ、ちょっとした縁でですね・・・。」
「それよりも、ひとまず何か注文しましょう。」
私はやってきた店員さんに前にリン君から勧められたものを注文する。
「料理については何か感じるんですか?」
頼み終わった魔王様に質問をする。
「味はわかります。それがしょっぱいだとか、甘いだとか、煮貝だとかは。」
「しかし・・・自分の味の好みであるとかについては分かりません。自分の腹がすいているなども分かりません。」
「・・・じゃあ、毎日食事などは・・・?」
「普段は二食食べます。ただ、やることがたくさんあるときなどは、その限りではありません。仕事をすることだけにおいては、一番良い頭と体です。」
一番良い・・・か。
自分に対しての皮肉が込められた言葉が私は少し気になった。
「話を戻しましょう!」
「初めて来たとき、リン君が、っていうところからです。」
「ああ・・・最初はリンがここの店のうわさを聞いて、一緒に行こうと言ってきたので、私はこの店のことは知らなかったんです。」
「そして初めて見たときは、平凡なカフェだと思いました。」
やはり、みんなそう思うのだろう。
「ただ、中を見たら印象ががらりと変わりました。窓からは湖が見え・・・今よりは少し早い時間でしたが、それでも夕日の届く湖に、感動した記憶があります。」
「なので、パーティーの時に言った良い景色が好きという言葉も、あながち間違いではありません。それが・・・過去の記憶のことではありますが。」
「・・・今見ると、何か思いますか?」
私は窓から見える景色に目線を向ける。
「・・・昔より、うまく言語化、分析できると思います。ただ、それだけです。」
昔好きだった物が好きではなくなる。
そこにある心の抜けた穴の大きさは、私にはわからない。
「ご飯、食べましょうか。」
呼びかけ、やってきた料理を同時に食べかける。
私はリン君や魔王様の言う、「昔」を正確に知らない。
そんな私が、魔王様を昔のように・・・などできるのだろうか。
・・・無駄な考えだと、私は思った。
私が誰かを助けたいと思った。それだけで、何か行動する理由には、十分だ。
たとえ、その行動が正しい方向性ではなかったとしても、
嫌だと言われたら止めればいい。
言われなければ、続ければいい。
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