第14話 景色と魔王様の感情?
食事中にはリン君の時と同じで会話はなかったので、こういうところは似ているのかも、とも思ってしまう。
「「ごちそうさまでした。」」
二人ともが食べ終わったところで一緒に言う。
前はこの後、機嫌の悪い二人組が来たんだっけ。
今回もそうなるわけがないのに、つい身構えてしまう。
「・・・行きましょうか。」
なので、声も少しこわばる。
「カノンさん、少し、声が震えていませんか?」
魔王様にわかるくらいには。
「・・・前にリン君と来たとき、怖いことがあったんです。」
「それはどんな?」
「店に、かなり機嫌の悪そうな二人組の魔族がいたんです。もう、店員さんにも強く当たったりしてて。」
「・・・。」
魔王様は、私の話を静かに聞く。
「聞こえてくるその魔族たちの話が・・・私にとって不快なものだったんです。それで、思わず魔族たちの話を否定するような言葉を口走ってしまって・・・。」
「魔族たちが激昂した・・・と。」
「・・・はい。」
「それは、災難でしたね。」
慰めの言葉を言う魔王様。
「けがなどはなかったのですか?」
「かなり危ないところだったんですけど、リン君が助けてくれました。」
「リンは・・・かなり護身術の伸びが良かった記憶もあります。私から見ても、かなりのやり手です。」
「リン君は魔王様には及ばない・・・みたいなことを言ってたんですけど、本当なんですか?」
「いえ・・・及ばないというのは大げさかもしれません。何度か負けたこともありますし。」
どうやら、兄弟同士でも戦ったことがあるらしい。
「魔王様は・・・護身術を覚えてよかったと思いますか?」
「・・・両親がいる時は、いろいろなことを、覚えろと言われてきました。その中には、普通に生きている人には、覚える必要のないものもあります。」
「護身術も、そのうちの一つです。」
「ただ、その護身術だけは、今の私に絶対に必要だったものでもあります。」
「・・・なぜ、ですか?」
「あなたのことを、お守りできるからです。」
何回か、聞いたような言葉だった。
しかし、以前に聞いたとは違って、魔王様のその言葉の裏を知っている今。
彼にとって重要で、純粋な一つだけの気持ちであると知っていると今、その言葉を聞くと・・・妙に、恥ずかしくなってくる。
ひょっとすると私は・・・その言葉が聞きたくて「なぜ」と聞いたのかもしれない。
「行きましょうか。」
今度は魔王様を視界から外し、さっきと同じ言葉を言う。
「・・・魔王なんて、最初からいなければ・・・。」
・・・え?
今魔王様、何か言った?
「えっ、いま何か言いましたか?」
急なつぶやきだったため、何を言っているか聞き取れなかった。
「いえ?何も言っていませんが・・・。」
本当に何も言っていないというような声色で、返答がされる。
私の聞き間違いかな・・・?
まあ、いいか。
新たな来客が来るかもという考えは結局ただの杞憂で、私と魔王様は店から出る。
出てすぐに店から「また今度っす~!」という声と、「静かにしろ!」問う声が聞こえてきて、私はくすっと笑った。
もう夜も夜、寝ている者もいるだろうという時間ではあって、通行人も全くいない。
「最後に、一か所だけ行きたいところがあるんです。」
「少し前にリン君と話したときに、教えてもらった場所で。」
「あまり遠くもないので、行ってみましょう!」
頷く魔王様を見てから、また一緒に歩き始める。
リン君から聞いたのは、そこにいい景色が見える丘があるということ。
人生二回目のデートを、その場所で終える。
リン君の時よりもっと、デートっぽいデートな気がする。
そもそもあの時は、あまりリン君とも仲が良くなかったし、年下のような存在だと思っていたし。
今では、頼りになる、同年代の友達のように思っている。
なら・・・魔王様は?
いろんなことがあった今・・・私は魔王様のことをどんな風に思っているんだろう?
すでに歩き始めてから時間もたち、リン君の言っていた町のはずれに到着しようという頃合いにまでなった。
「ほら、あの丘です!」
目の前には、斜面がなだらかで上りやすそうな、山とは言わないくらいの大きさの丘があった。木々も生えていて、舗装された道はなさそうだ。
リン君によると、前は登りきるのに、五分くらいかかったらしい。
「じゃ、上りましょうか。」
街はずれなだけあって、やはりあまり整備はされていない。
なだらかな斜面でも、ちょっとした階段があるのとないのでは大違いなことは知っている。これでも、いくつかこういう丘のようなところは登ってことがある。
自信をもって進んでいると。
「うわっ・・・!」
地面に転がっていた石に足をすくわれる。
が、幸い一人ではなかった。
「大丈夫ですか?」
魔王様が以前のように、冷たい言葉で私の焦りを取り除き、倒れそうになった私の手を取り、そのままゆっくりと立たせてくれる。
「あ、ありがとうございます・・・。」
私の手を取っている魔王様の顔を見ながら、お礼を言う。
私の顔は、魔王様の目に映っている。
魔王様は、私の顔すら冷静に分析するのだろうか。
それなら、今の私の感情も、知ることができるのだろうか。
わからないけど、分析・・・しないでほしいな。
その後合計して五分ほど歩いたところで、木に囲まれるように開けた場所が見えた。
「魔王様、つきましたよ!」
旅行先についた子供のように駆けていく。
私は、良い景色が大好きだ。
ところが。
空までもが、開けているわけではなかった。
私は頂上あたりまで行って、夜空を見上げながら座り込む。
「く・・・くもりが・・・。」
さっきまで雲なんて見当たらないくらいだったのに・・・。
星もはっきり見えると思ったんだけどな・・・。
落ち込んでいる私の隣に、魔王様がそっと座り込む。
「あまり・・・良い景色とは呼べませんね。」
曇った空を見て、そんなことを言う。
「まあ・・・そうですね。すいません、こんなときに来ちゃって。」
「天気の予想を、完璧にできる人などいません。仕方ないでしょう。」
私がそのまま、何とか晴れないかと、曇った空を眺めていたら。
「カノンさんは・・・このような景色を見るのは好きですか?」
珍しく、魔王様から話を切り出された。
私は顔を横に向ける。
「あっ、はい。小さいときに・・・よく母親に連れられて、ちょうどこの丘みたいなところで、星を見てました。だから大人になった今でも、たまにそういう景色が見たくなるんです。」
「・・・なら・・・。」
「次も、私と一緒に、行きませんか?」
「えっと・・・魔王様も、「行きたい」・・・ということですか?」
それが、どこから湧いてきた言葉なのか気になった。
「えっと・・・行きたい・・・」
魔王様自身も、それを考える。
「あなたを守りたい・・・じゃない・・・」
「自然を見に行きたい・・・でもない・・・」
「あなたと、一緒にいたい・・・?」
魔王様から初めて発せられたその言葉は、私に確かめるように言われた。
「すみません、やっぱりわかりません・・・。」
「しょうがないですよ、そんな急には!」
そんなことを言った私だったけど。
もし、回答が許されるなら、肯定したかった。
その感情であっていますよ、と言いたかった。
その感情であってほしいと思った。
これは、魔王様に対する私の気持ちの、証明なのかもしれない。
そのまま、空を見上げる魔王様の横顔を見ていた。
急に、その顔が明るく照らされる。
どうやら雲が晴れてきたらしい。
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