第4話 急な誘い
いつもより少し遅い時間に起きる。
いつもと同じように、ベッドから出て窓を開ける。
そこにはいつものように、生き生きとした街の様子が・・・無かった。
・・・寝ぼけてた。そうだ、ここは魔族王国なんだ。
窓から聞こえてくる、人々の声ではなく、自然の奏でる静かな音。
私は目を閉じ、その音に聞き入っていた。
昨日は疲れてたから、久々に深く寝むれた。あの夢も見なかったし。
窓を閉じて身支度をしようとしたら、コンコン、と扉から音が鳴った。
次に、ドスン、と何かが落ちる音が部屋に響く。
「カノンさん。開けてもよろしいでしょうか。」
リン君だ。
「あ・・・うん、いいよー。」
「失礼しま・・・何をされているのですか?」
ものすごく無様に地面に座っている私に、リン君が首をかしげる。
「あっ・・・ちょっとびっくりしちゃってねー。あはは・・・。私、ノックとか、ちょっとした音とかでも、すぐびっくりしちゃうんだよね。」
それを聞いて、リン君が少し落ち込んだ表情をする。
「気にしなくていいって!ほら、昨日も言ったじゃん?」
「そうですね・・・では、改めて。朝食の準備ができたので、そのお知らせをしに参りました。」
「身支度が終わってからで構いませんので、下に来ていただけますか。」
私はそれに疑問を持っつ。
「えっと、リン君と食べるの?」
「それはーーーーーー」
そこから私が身支度をして、下に移動するまでの間、リン君が説明してくれた。
リン君によると、お父様のお城とは違って、ここに寝泊まりしている従者は私たち二人だけらしい。ほかの従者もここに住んで仕事をすることは可能だけど、それぞれに、それぞれの家庭がある、と言っていた。
かなりさらっと言われたけれど、昨日、城には私と、リン君と魔王様しか・・・私以外には、男性しか、いなかったわけだよね・・・?
前までは、メイドさんとかも一緒に寝泊まりしてたのもあって、
昨日特に何も起きなかったのに、魔族嫌いとは別に今更、ちょっと緊張する・・・。
話を戻す。かなり昔まではここに住み込むこと、というのが仕事をする上での条件だったのが、いつからか自由になったという。なんでも、当時の王様が、
「みんなでここに住む必要ある?家帰りたいよね、みんな?じゃあ、明日から自由にするよ~。」というような、軽い感じで決めたようだ。
なんとも軽い王様だなあと、思いながら、私は朝食を食べる。
どんな料理が出てくるのかと少しソワソワして待っていたのだけれど、出てきたのはいい意味で、ごくごく普通の以前食べていたような朝食だった。
そこからは、特に何もなく時間が過ぎた。時々向かい合ってたリン君に話しかけてみたけど、正直あまり会話は続かなかった。まだまだ友達までの道は遠そうだ。
リン君といるときは、ほかの魔族といる時よりも、少し緊張感というのが減った気がする。
どいうか、同年代の男性と一緒にご飯なんて食べたことなかったな・・・。
ただ、リン君は見た目から、かなり年下みたいに思えて、特に意識したりはしない。
ほんの少し余裕が生まれたせいか、そんなことを考える。
ただ同時に、時間だけですべて治るわけない。と、自分を戒めた。
食べ終わった私は、少し休憩をしてから仕事のための用意をし始めた。
今日はここに来てから初めて、従者としての仕事日だ。やることはあまり変わらないとはいっても、少し落ち着かなかった。一応、初日なのだ。仕方がないだろう。ほかの従者の人たちも来て、城は人でいっぱい・・・とまではいかず、ちょっとにぎやかになった。
従者というのは家事をする者だけを指す言葉ではない。中には、町の発展に尽力する者、魔王の側近として仕える者、最悪の場合の、武力となる者もいる。従者たち全員が城に来るわけではないのだから、母数に対し、城で働く従者は少なくもなる。
そんな、分析のような考え事をしながら私は廊下の窓ふきを進めていく。私は家事が好きなほうなので、やっていて退屈はしない。時折、すれ違う先輩方に挨拶をしているのだけれど、何人目かに挨拶したときに、ふと自分が、あまり緊張感を持たずにいるのに気付いた。
好きなことをしていると気がまぎれるというのを体感する。近くには魔族もいるというのに。
あまり気にしてはいなかったが、リン君がすれ違いざまに、ちらちらと私のほうを見ていた。昨日の言動にも気になるところがあったし、やっぱり私に何か要件があると思うんだけど・・・。
結果として、特に何も起こらず平穏な時間が過ぎた。・・・魔王様と会うこともなく。初めての場所で、ちょっと手際が良くなかったから、次はもっとうまくやりたいな。
そう意気込んで、私は部屋まで歩く。
部屋のベッドに座る。今日も結構疲れたな・・・。リン君が水浴びもできるって言ってたし、あとで行こうかな・・・。
少し休憩していると、朝と同じように、ドアのノック音が聞こえた。
「カノンさん。少し、よろしいでしょうか?」
声を聴く前から、誰かはわかっていた。もう、私たち以外の従者は帰っている。
「はーい。」
扉が開き、リン君の姿が見える。
リン君は、何か・・・落ち着かない様子だった。何やら指をいじっているし、私が目を合わせようとしても、すぐに目をそらして・・・
「どうか・・・した?」
私はリン君に、問う。
「・・・。」
リン君は自分を落ち着けようとして、深呼吸をして・・・。ただ、それでもまだ何かを迷っていて。
私は、リン君が答えるのを待った。何でも聞くぞという、真剣な顔で。
それを見てなのか、とうとうリン君が口を開く。
「あの・・・カノンさん・・・。」
「ぼっ・・・僕と」
最後に、絞り出すように言った。
「でっ、デート・・・してくれません・・・か?」
とても真剣な言葉に、私は到底冗談だとも思えなかった。
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