彩葉⑩ みずほ銀行の帰り

 みずほ銀行を出た時にはすでに夕暮れが始まっていた。これから電車を乗り継いで最寄駅もよりえきまでは約一時間だ。こんな時は田舎に住んでいることを少し残念に思うけど、アニキを駅まで招集したし、まいっか。


 それに今日は良い事もあった。推理ごっこには勝ったし、なんてったってお陰で当選した宝くじを手に入れることができたんだもんね。隣を歩く七海ななみの足取りも軽やかだ。


「ねえ彩葉いろは、今日は良かったね」

「うん、結果オーライってやつだね」

「うん! それにさっきの彩葉、格好良かったよ! なんかいつもの彩葉じゃないみたいだった」

「いつものボク・・・?」

「うん、なんか名探偵みたいだったよ!」


 若干気になるフレーズもあった気がするけど、ボクはそう言われて満更でもない気分だった。もっとも一番おいしい部分は颯真そうまが持って行っちゃった感はあるけどね。


「ねえ彩葉、今度のお休み、また宝幸神社ほうこうじんじゃに付き合ってよ」

「え? いいけど・・・ってまさかまた宝くじの当選祈願?」

「違う違う! またおみくじを引きに行くのよ」

「じゃあ今度は何を占ってもらうの?」

「決まってるじゃない、恋愛運よ」

「わぁ、それいいね! ボクももう一回占ってもらおうかな」


 あははは・・・。

 そんな会話をするボク達の前を、生暖かい浜風が吹き抜けて行った。

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