彩葉⑤ イオン鏡ヶ丘店
そこには
その前を通り過ぎ、正面入り口から入ったボクたちが目指すのは二階のフードコート。この一角には
今日は大安吉日、きっと良い事があるはず! ちゃんとご先祖様にもお祈りしたもんね!
そんなボクたちのもとに、ジュースを抱えた大介がやって来た。
「お前ら、早いな」
「そりゃそうよ、運命が
大介の顔を確認するなり、挨拶もそこそこに
「おい、折角晴れてるんだからテラス席でやろうぜ」
座ったばかりの七海を無視するように、小脇にバッグを抱えた彼はこっちの了解も得ずにずかずかと窓際に向って歩いて行く。
このフードコートはハリボテ神社を一番端にして、およそ100席くらいのテーブルとイスが設置されている。それらを取り囲むように、市内では一番多い数のファーストフード店が並ぶ。
そのフードコートの外、このモールのテラスにも、天気の良い日だけいくつかの席が並べられる。大介はどうやらその席に向うようだ。
大介の後に続きテラス席へのドアを開ける。途端、いつもの浜風が七海ご自慢の黒髪を大きく揺らす。今日は天気も良く、気温もちょうど良い感じだ。確かに
席にはそれぞれ白くて大きなビーチパラソルが広がっていて、その影が日なたとのコントラストを生んでいる。
「ねえ、早速見てみようよ!」
もう待ちきれないと言った様子で七海がボクたちを急かす。なんせ七海が買った売り場から二等の当選が出ているのだ。七海の宝くじが当たっている可能性は・・・うん、少なからずあるはず!
「よし、じゃあまずみんなの宝くじをここに並べてお祈りだな」
「お祈り?」
大介の提案に若干その気勢を削がされた様子の七海だったがすぐに同意する。
「そうね、宝幸神社の神様のご加護を受けないとね!」
そう言うとバッグの中から自分の宝くじを取り出す。もちろんボクも七海に
こうしてテーブルの上には三束の宝くじが並ぶ。いずれも「ドリームジャンボミニ バラ10枚」の束だ。それを眺めて少し改まったように七海が言う。
「で、これからどうやんの?」
「おう、まずはお祈りだな。みんな目を瞑って呪文を唱えるんだ」
「呪文?」
「そうさ、賭け事必勝祈願の呪文! 俺はいつもコレで運を呼び込んでる」
「呪文て言ってもボク、知らないよ」
「ああ、お前らは俺の呪文に適当に口を合せていればいい」
「ふう~ん、適当にね・・・」
「よし、じゃあ行くぞ!」
すぐに中身を確認したそうな七海だったが、大介の
「ええっと、じゃあ行くぞ!
―――んんー? それって呪文なの? 落語か何かだよね? そんなボクの疑問など無視するかのように大介は声たかだかに続ける。
「パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン・・・」
まあ、呪文って一種のジンクスみたいなものだからきっと大介には大事な儀式なのだろう。でも本当にこれで勝率が上がるの?
そう思っていた時だった。
ひゅぅぅ~~~!!
一段と強い浜風がテラス席を駆け抜ける。
バサバサッ!!!
「あっ!」
慌てて目を開けた三人の手前、宝くじが風に舞った。
「わぁ、ヤベ!」
慌ててそれを拾おうとその身を屈める大介。
「もう! ヘンな儀式やってるからだよ!」
少し呆れた表情で七海がその仕草を見下す。テーブルの下に舞い降りた宝くじを拾い上げた大介はまた元のように三人の前にそれを並べる。
「ええっと、俺のは二つ折りにしてたからこれか」
そう言って薄く半分に折り目の入った宝くじを自分の前に置く。
「ボクのはこれかな」
袋の右端がすこしふやけた宝くじ。昨日の晩、アニキがビールをこぼして濡れたのだ。乾いた今でも少し紙がしわくちゃになっているのがわかる。
「んじゃこれ、私のね」
七海は残りの一束を自分の前に置くと今まで思っていたであろう事を大介に言う。
「ねえ、お祈りはいいんだけど、早く開封式やらない? また風が吹いても困るし」
これにはボクも賛成だ。今は運良く自分たちの足元に落ちたからいいけど、もしテラスの下、一階の駐車場にまで落ちたら面倒だもん。
「わ、わかったよ。んじゃ、そろそろやるか」
そう言いながら大介もスマホを取り出す。
「じゃ、まずそれぞれ開封して確認だな」
「うん、そうしよう、そうしよう!」
ワクワクした気持ちを抑えることなく同意する七海。ボクも昨晩スマホでスクショした当選番号の写メを開く。
「じゃ見てみっか!」
大介の掛け声と共に急に静かになる三人。近視でも老眼でもないはずの七海は、それでもカラダをくの字に曲げてスマホと自分の宝くじを交互に確認している。ボ、ボクも当てるんだ!
そうやってボクが何枚目かの宝くじを確認している時だった。
「あっ! 当たってる!!」
突然、大介が叫ぶ。その右手に握られた一枚の宝くじ。
「ま、マジ!?!?」
七海が脇から覗き込む。
「な、見て見ろよ。『二等 下5桁 39835』!」
大介の宝くじと自分のスマホ画面を見比べる七海。
「ほ、ほんとだ・・・」
どうやら本当に当たっちゃったの!?!?
右手を高々と突き上げる大介。その様子を脇で見ていた七海も慌てて自分の手元に視線を戻す。きっと自分もそれに続こうと思っているのだろう、その顔は上気して赤くなっていた。
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