彩葉⑥ イオン鏡ヶ丘店・続き

 結局当たったのは大介だいすけの二等一枚。あとはそれぞれ末等の300円が一枚ずつと言う結果だった。


 ボクはしょせんこんなモノかと思っていたのでそれほどショックはない。それより大介が二等を当てたって事は、当選金十万円の一割、一万円は貰える約束だ。うん、上出来上出来! でも何故か収まらないのは七海ななみだ。さっきも触れたが七海の売り場からも二等の当選が出ている。もちろん、だからと言って七海が当たっていた確率は何万分の一なのだろうけど、どうしても納得が行かないらしい。


「ねえ、元気出しなよ七海」

「おう、そうだぜ! な~に、心配すんなって! 約束通り一割の一万はお前らにくれてやっからよ」


 得意そうな大介の言葉が終わったところで急に七海がその大介をにらむ。


「何よ『くれてやる』って! もともとそう言う約束なんだからアンタが偉そうにすることないでしょ!」

「な、なんだよ逆ギレか!? 自分が外れたからってねたむなよな!」

「そ、そりゃそうだけど・・・」そう言うと自分の宝くじの束を握ったまま黙り込む七海。


「まあまあ。でもさ一万円貰えるんだから良かったじゃん」慰めるボク。

「言い方が悪かったなら謝るけどよ。まあ、こう言うコトは前向きに考えないとだぜ」そう言いながら十万円の当選くじが入った束をバッグに仕舞う大介。少し大人しくなった七海がその様子を見守る。その時、そんな七海の大きな目が一層開かれた。

「ちょっと待って・・・」

「ん? なんだよ」

「もしかしてその宝くじって・・・」


 大介が肩に掛けたバッグを眺めながら七海が続ける。


「その当たった束って私のじゃない?」

「はあ~っ!? 何言ってんだよ、俺のだろうよ!」

「だって・・・だってさっき風で宝くじ飛んだじゃん。その時、それを拾ったのは大介だったわよね」

「だからってなんでコレがお前のだったってことになるんだよ」

「だって大介だったらあの時、私のと自分のとをすり替えられたじゃん!」

「おいおい、なんだイチャモンか! 俺のはさっきも言った通り、ズボンのケツに折り曲げて入れてたから二つ折りになってただろ」

「そ、それは・・・」

「ほら! 見てみろよ!」


 そう言うと再度バッグから取り出した宝くじを七海の目の前に突き出す。たしかにうっすらとではあるが中央に折れ線が一本入っている。


「じゃあ何か? お前の宝くじも折れてたって言うのかよ」

「い、いや私は長財布に入れてたから折れてはいなかったけど・・・」

「何だよ、だったら俺ので間違いないじゃんかよ。いい加減にしろよ」

「そうだけどさ・・・」


 ここまで聞いても納得が行っていないのだろう、七海の顔は相変わらず冴えない。


「それに良いか、一番大事なことを忘れているようだけど、俺が落ちた宝くじを拾った時はまだ開封前だったんだぜ。万が一、俺が誰かのとすり替えたとして、その中に当りくじが入ってるって、あの段階でどうやったらわかるんだよ!」


 あっ、そっか。確かに大介が七海の、もしくはボクの宝くじとすり替えたってそれが当たってる保障はないのか。大介の言うとおりあの時点じゃまだどの宝くじの束も未開封だったんだからね。


「もういいか? 俺、これから用事があるからよ!」


 さっきまで長々と呪文を唱えていた彼は急に用事を思い出したかのようにろくにボクたちに挨拶もすることなく、その場を去って行った。

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