彩葉⑧ 月曜日の教室

 拾い違いで持って帰ってきた当り馬券を手にしたまま、ニコニコ顔でテレビを見ているアニキ。「魔法学校シリーズ」は昨年、劇場で大ヒットした映画だ。でも確かに魔法もファンタジックで面白いが、きっとアニキが興味を持っているのは、そこに出て来る外国人の女優演じる魔女っ子のその可愛らしい姿だろう。もうすでに鼻の下が3センチほど伸びている。


 そんなアニキがたった今口にした摩訶不思議まかふしぎな発言。


「宝くじの中身なんて開けなくてもわかる」―――いったい、どんな魔法なの?

「ねえアニキ、その宝くじの中身がわかるってどんな魔法なの?」

「ああ?」


 一瞬、面倒臭そうにこっちを振り向くアニキ。


「そんなの魔法なんて使わなくたって、簡単にわかるさ」


***


 月曜日の教室、ボクは大介だいすけと向かい合っていた。私のすぐ後ろには七海、更にその隣の席ではそんなボクたちには興味なさそうに颯真そうまが教科書を開いている。


「ねえ大介、ボク達に隠していることあるよね」

「ああ?」

「隠していること?」


 面倒臭さそうに顔を上げる大介に続いて、後ろから七海ななみも会話に加わる。


「ボク、知ってるんだからね、宝くじの仕組み」

「な、なんだよ仕組みって」

「仕組みは仕組みだよ。そして大介がインチキしたこともさ」


 ボクがそう言うと、大介は少し顔を赤らめながら立ち上がる。


「な、なんだよ! また俺にイチャモンか!?」

「ちょっと彩葉いろは、どう言う意味なの?」

 大介に続いて七海も立ち上がる。


「大介、七海の宝くじと入れ替えたよね?」

 ボクはさっきよりハッキリと大介に詰め寄る。


「おい、またその話かよ。あの時、風に吹かれた宝くじを拾ったのは確かに俺だけどよ。でもあれはちゃんと元の持ち主に返しただろうが。角が濡れているのはお前に、折り目のないやつは七海に、そしてケツのポケットに入れて折り目の付いたのを俺がそのままもらった。それのどこに入れ替える隙があるんだよ!」


 なんだまたその話かとばかり、少し苛立いらだちながらも昨日と同じ方便を使う大介。でもここまでは想定内だもんね。


「でもさ、拾った拍子に折り目くらい簡単に付けられるよね」


 ボクがそう続けるとその意味がわかったのか一瞬、大介の顔が曇る。しかしすぐに気を取り直したように言い返してくる。


「だからよ、万が一そうだったとして、どうやって七海の宝くじが当たってるって解るんだって話だよ! 昨日も言っただろ? アレはまだ開封する前だったんだぜ。封を開ける前じゃ、最初の一枚しか番号がわかんねえだろうが!」


 声を荒げてまくし立てる大介。うん、そう来ることも想定内。そこでボクはひと言だけ彼に確認する。


「でもさ、その最初の一枚目の数字はわかってたんだよね? 

「さ、最初の一枚? そ、そりゃ一枚目だけは袋の外からでも見えるからな。でもそれがどうしたって言うんだよ。一番上にあった宝くじが当たったわけじゃねえぞ。何枚かめくった・・・そう、確か四枚目くらいに当りが入ってたんだぜ。これなら解りようがないだろうが!」

「た、確かに私も隣で見てたけど、何枚か捲ったあとで大介が「当たった」って大声を上げた気がする・・・」


 いつの間にかボクの隣に来ていた七海も少し困った顔で大介の言葉にうなずく。


「だろ? もし万が一、落ちた宝くじを俺が故意に選んだとしても、その四枚目にどんな数字の宝くじが入ってるかなんて解らねえじゃねえかよ!」


 イライラしたようにそう叫ぶ大介。うん、これまた想定内の反応だ。ボクは満を持して昨夜アニキから聞いた話を披露すべく、息を吸い込む。


 その時、ずっと隣で勉強していたはずの颯真がおもむろに顔をこちらに向けると、大介に向ってこう言い放った。


「宝くじのバラなんて規則性があって並んでるに決まってますよ」

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