不遇な王女様と孤児の俺〜文字化け職業を授かった2人の冒険譚〜

ウェルディング

第1話 囚われ王女

「ねえ。居るんでしょ!お願いだから私を外に連れ出して!でないと私は気が狂ってしまう。お願いだから!姿を表してよー!」


狭い牢屋の様な、窓の無い部屋に閉じ込められている王女。部屋には板に脚となる角材を打ち付けただけのテーブルと背もたれの無い丸椅子。角には床に穴が空いて板で仕切られた用を足す場所が有るだけだった。

出入り口には、鉄格子がはまっており、鍵が掛けられている。

その場所を廊下から見ている俺。

目線は合っていないが、王女の発言は多分俺に言っているのだろう。可愛そうだがまだ、脱出方法を確立していないので、王女の問いには答えられない。

俺は〝隠密〟スキルを発動維持しながら。この黒の塔を探索する。

移動を始めると、王女の悲痛な叫び声が木霊こだまする。


「ダメッ!お願い行かないで!行っちゃ嫌だよ〜!」


悲痛な叫びを聴いた俺は、


「待ってて。必ず迎えに来るから。」


と言葉を掛けた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


俺が、彼女の事を知ったのは半年前の教会だった。職業授与の儀は10歳になる翌月の1日に受ける。俺が受けるその日に彼女も職業授与の儀を受けに教会に来ていた。


銀髪碧眼のとても綺麗な可愛らしい子で見た目の服装は空色のワンピースを着てちょっと裕福な家の子供位に思っていたのだが、まさか王女とはとても思えない装いだった。

侍女が前を歩き彼女はその後ろを付いて歩いていたので、俺は侍女が母親だと思っていたが会話を聞いていると違っていた。


今月の職業授与の儀に参加したのは15人いて俺もその一人。王女様は一番初めに名前を呼ばれた。


「エリナベル様、祭壇の前にお越し下さい。」


教会の司教に呼ばれて、王女が祭壇の前に立つ。祭壇には金属のプレートが置かれてそれに触れて魔力を流すと、その金属プレートに名前と職業が表示される仕組みだと孤児院のシスターに聞いている。


王女が金属プレートに手を触れる。その瞬間にまばゆい光が金属プレートから発せられて周囲を照らす。それは一瞬の出来事だった。司教から、


「文字化け……。私の教会でこんな事……。あってはならない…。侍女の方、エリナベル王女を連れて帰ってください。王女!そのプレート持って今すぐ、出て行きなさい!」


教会騎士が脇にある関係者出入り口から出て来て、エリナベル王女を礼拝堂から追い出した。司教は、


「少しアクシデントがありましたが、仕切り直します。次、トーマス祭壇の前へ……。」


先程の王女の一件を無かった事として、職業授与の儀は続いて行く。残りの13人は何事も起こらず、無事に職業に付いてプレートを貰って帰って行く。最後に俺の番がやって来た。


「最後かな、ではアステル祭壇の前に」


祭壇に金属のプレートが置いてある。

俺がそのプレートに手を触れた瞬間王女と同じ現象が起こり、光の球が俺の頭に入ってきた。その瞬間、頭の中が針を刺されるような痛みがはしる。何度も何度も痛みが続いて次に、身体中に熱くきしむ痛みが起こった。

一連の事態が数秒なのか何十分か分からないが続いている時に司教が、


「ここに来て2人の文字化け職業が出るとは……。アステル。お前は本日より孤児院から追放です。文字化け職業を取得した者を養うわけに行きません。孤児院に戻って私物を持って出ていきなさい。」


司教にそう告げられ、プレートを投げつけられ、待機していた教会騎士に突かれながら教会を出た。隣接する孤児院に戻ると、シスターが向かい入れてくれたが、司教の言葉を報告すると、顔色変えて、


「文字化け職業ですって!アステル。良く聞きなさい。こうなってはこの国には居られません。孤児院だけでなくこの国は何故か文字化け職業を忌み嫌います。

貴方が授かったのには何かしらの意味があるのでしょう。私は帝国から派遣されたシスターですが、帝国では文字化け職業には意味が有ると知られていますから、この国より生きやすいはずです。ですから、この国にいる時は職業の事は絶対秘密にしなさい。そして、職業プレートを見せないで済む様に、冒険者ギルドに登録しなさい。西側にある冒険者ギルドのギルド長に手紙を書きます。それを持って冒険者ギルドに行きなさい。」


自分の使っていたベッドに着くと、出て行く支度を始めた。と言っても持っている物は赤ちゃんの時にくるまれていた名前が刺繍された産着と布だけだった。それを布製の肩掛けカバンに入れて、孤児院の玄関に行くと話をしてくれたシスターが手紙を持って待っていた。


「良いですか、アステル。これを西側の冒険者のギルド長に必ず渡すのです。東の冒険者ギルドには間違って行かない様に、ギルド長の名前はドラムスです。忘れない様に。こんな事になって、アステルの前途に神のご加護を。」


「シスター。今まで育ててくれてありがとうございました。孤児院の仲間達に会えないのは寂しいですが、宜しくお伝え下さい。

手紙の件もありがとうございます。

シスター何時までもお元気でいて下さい。さようなら」


「皆んなには旅に出たと言っておきます。身体に気を付けて無理をしないように、それとこれ少ないけど持っていきなさい」


と小さな皮袋を渡して来た。俺はシスターに頭を下げて皮袋を受け取り孤児院を後にした。暫く西地区に向かって歩きながら皮袋の中を覗くと、銀貨が5枚入っていた。ありがたいと思いつつ。肩掛けカバンに皮袋を仕舞って冒険者ギルドへと急いだ。


冒険者ギルドは西門広場の近くにあり、出入り口は西門へと続く大通りに面していた。

時間はお昼近くだったので、冒険者ギルドに入っても冒険者の姿は併設されている酒場兼食堂にまばらにいるだけで受付カウンターに冒険者の姿は無かった。


正面のカウンターに近寄り、受付スタッフに、


「すいません南西地区にある孤児院のシスターからドラムスギルド長宛に手紙を預かって来たのですが、ギルド長に会えますか?

直接渡せとシスターに言われました」


「まあ、そうなの?少し待ってて今ギルド長呼んでくるから」


女性の受付スタッフは席を離れて、奥の階段を登り二階へ上がって行った。

しばらく待っていると、赤毛で角刈りの大男を連れて戻って来た。その大男が、


「俺が、ギルド長のドラムスだ。孤児院のシスターからの手紙を持って来たと云うのはお前か?」


俺は肩掛けカバンからシスターに渡された手紙をギルド長に渡す。

受け取ったギルド長はその場で手紙を開き読む。ただでさえいかつい顔が眉間にシワを作り厳しい表情になって読み終えても変わらず、


「全くジュリアンは、お前がこの手紙にあるアステルか?」


「はい、そうです」


「そうか、アンナ応接室は空いているか?」


俺の対応した受付スタッフにギルド長が尋ねると、


「今日は、何処どこも使っていませんから空いていますよ。」


「そうか、アステル俺について来い」


と言って左側にあるカウンターへの出入り口であるスウィングドアに向かって進んで行った。俺もそれを目で追って平行について行く。スウィングドアからこちらに出て来て、左側にある扉を開いて部屋に入って行くので俺も後ろからついて行って、応接室に入った。応接室に入るとギルド長が、


「ソファーに座って楽にしろ」


そして、ギルド長と向かい合わせで座ると、


「職業プレートを出して見せろ」


と言われたので教会で貰ったプレートを出してテーブルに置いた。そのプレートには、


[アステル・ジョアンヴィル]

[ᛏᛟᚢᚱᚤᛟᚢ《統領》]


と刻まれていた。


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