第13話 辺境伯領都トアイバス
宿屋に戻ると、宿屋の女将さんから声を掛けられる。
「おかえり。無事に両替は出来たかい」
「ただいま、お陰様で無事に両替出来ました」
「夕食はどうするんだい。1人銅貨5枚だよ。食べるかい」
「いただきます」「食べたい」
俺達はテーブルについて、銀貨1枚をテーブルに置いて食事が来るのを待つ。
「はい。お待たせトマトソース掛けのステーキと白パン。それとベーコンと根野菜のポトフだよ。銀貨1枚ちょうどいただくよ。ごゆっくり」
「「いただきます」」
何故か2人共、そんな言葉が出て食事を始める。ホカホカの食事にあり付き、かき込む様に食事をする。味わう事無く一気に食べ終わると、女将さんがお水を木のコップに入れて持って来た。
「随分と慌ただしい食事だったねぇ。お腹空いていたのかい」
「はい。そうみたいです。それと出された食事が美味しかったので」
「女将さん、とっても美味しかったわ。私もこんな料理作れる様になりたい」
「嬉しい事言ってくれるね。教えてあげたい所だけど、明日には出発するんだろう。まあ頑張りな」
食事を終わらせて部屋に戻ると、直ぐに就寝した。
翌朝、目を醒ますと、隣のベッドにはエリナベルが未だ眠っていた。俺はこの逃避行で眠りが浅くなっているようで陽の出と同時に目が醒めてしまった。
身体全体に洗浄する魔法〝クリーン〟を掛けて、全てを綺麗にすると昨日購入した下着に着替えてシャツとズボンも着替える。そんな着替えでゴソゴソしていると、エリナベルも起きてきた。
「アステル、おはよう」
「おはよう。ぐっすり眠れたかい」
「気絶した様に、ぐっすり眠れたわ。ベッドの誘惑は恐ろしいわ」
「長い事、柔らかベッドなんかで寝させて貰っていないもんなぁ。ぐっすり眠れて良かった。俺は女将さんに領都の事を聞いて来るから身支度して降りて来て」
「分かったわ」
先に身支度を終えた俺は鍵を持って部屋を出て、女将さんがいるカウンターに向かう。
カウンターに鍵を置くと、
「女将さん、ライプストール辺境伯領の領都に向かいたいのだけどどうやって行けば良い?」
鍵を引き取った女将さんは、
「ここもライプストール辺境伯領よ。領都は西に真っ直ぐ行けば良いだけよ。領都に落ち着くのかい」
「分かりませんが、取り敢えずそこで色々学びながら力を付けようと思ってます」
「そうかい。帝国では平民も通える学び舎があるからそこに通うと良いよ。それには帝国民に登録しないといけないけどね。因みに、その様子じゃ領都の名前も知らないのだろうね。領都はトアイバスと云う街名だから覚えておきな」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。ここから距離はどのぐらいなんですか?」
「確か30km程で、馬車で7〜8時間ってとこじゃなかったかね」
女将さんと領都について話をしていると、エリナベルが降りて来た。
「アステル。お待たせ」
「エリナベル、女将さんから領都の話しを聞いていたんだけど。ここから30km西に一本道だそうだよ」
「なら夕方には辿り着けそうね。女将さん大変居心地の良いお部屋でした。ありがとうございました」
「また来ることがあれば是非泊まりに来ておくれよ」
「その時があれば是非に」
エリナベルと2人、女将さんに挨拶をして宿屋を出る。そして国境の町を出ると小走りに街道を進む。町近くの街道の周囲は麦畑が続きその先を進むと小さな林に入るが直ぐに林を抜けると草原が広がりその先は丘になっている
その丘を登り切り丘の上からこれから進む先へ目を向けると、左側には北に森が広がり、遠く山がに見える、右側には草原が広がっていた。その草原と森の境目である正面を街道が続いている。
丘を降って街道を進んで聞くと右に逸れる道があったが街道より道幅が狭い
「こっちにも、村か町があるみたいね」
「領都で落ち着いたら行ってみようか」
「そうね。私はもう自由なのだから、色々な場所に行ってみたいわ」
「うん。一杯冒険しよう」
大きな街道は、荷馬車が行き交う。なので追い越す時は充分注意が必要になる。不用意に近付けば攻撃されても文句が言えない。
追い越す時は、身分と理由言って追い越すのがルールになっていた。今まさに護衛を付けた商人の荷馬車が前方に見えて来たので、
「冒険者です。急ぎの依頼を受けてます」
断りを入れて荷馬車を追い抜いて行く。後方に注意を傾けながら足早に荷馬車との距離を広げる。ある程度距離が離れたら警戒を解いて先に進む。護衛の冒険者や御者が挨拶してくる荷馬車はそれほど警戒しなくても良いが、無言の時は充分警戒が必要だ。
冒険者ギルドの講習で講師に、
「駆け出しのお前らには、魔物が危険な事は今まで話してきたが、一番危険なのは人だ。商人に化けた盗賊。人買い。面識の無い冒険者、それに貴族。これらの対応を誤ると奴隷にされたり殺される。特に、町から離れて街道を進む時には遭遇したら絶対油断するな。貴族の箱馬車には紋章が刻まれているからそれを街道で見掛けたら街道から必ず外れる事忘れるなよ」
そんな事を思い出しつつ、進んでいると川があり街道に砦が見えて来た。大きな両開きの扉で、その前には全身を金属の鎧で武装した門番が検問をしている。
「馬車一行は右に寄せて検問を受けろ」
「歩きの者は左に並べ」
俺達は左に並ぶ、左側には数人かおらず、検問の様子を見ると、
「身分証を見せろ」
「はい」
「冒険者か、行って良し」
「身分証を見せろ」
「これです」
「両民か、行って良し」
こんな感じなので直ぐに、俺達の順番がやって来た。
「身分証を見せろ」
「「はい」」
門番に俺達は冒険者ギルドカードを見せる。
「冒険者だな、行って良し」
すんなり砦に入ると、目の前に川に架かった大きな石造りの橋があった、対岸にも砦があり、橋を渡って、砦を抜けると大きな城壁で囲われた街が見えた。俺は思わず、
「あれが領都……。」
「大きいねぇ~」
俺達が逃げ出して来た王都と変わり無い位の大きな城壁に向かって歩みを進めた。街の出入り口にになる城門に近付くと門の扉も俺達の身長の5倍近くありそうな両開き扉とその脇に3m程の両開き扉が2つあり小さい方の扉側で、皆は列を作り検問を待っている。俺達も最後尾に並び順番を待つ。1時間ほど待って漸く順番になると、門番から、
「身分証を見せて、そこにある石板に手をつけ」
冒険者ギルドカードを門番に見せて、
水晶の様な珠が引っ付いた石板に手を置くと、水晶が青く光りそれを見た門番は、
「問題無し。入って良し」
と言われて城門を抜けると広場になっておりその先には石畳の道に石壁で作られた家々が立ち並んでいた。
「エリナベル、ここが俺達がしばらく住む、領都トアイバスだ!」
「ここから本当に自由が始まるのね」
「そうだよ!食べたい物があれば食べ、寝たい時に寝て。起きた時に起きる。行きたいところに行き。住みたいところに住む。でも、危険もいっぱいだから。力も付けていかないとね」
「そうよね。戦える力を身に着けないとね」
ようやく目的地の領都トアイバスに着いた。
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