第20話 トアイバスという街

ギルドマスターと一緒に外で待っているソレイユ達と合流する為、1階に降りて訓練所に近付くと冒険者達が集まって何やら大騒ぎしている。その騒ぎにギルドマスターが、


「おいっ!何を騒いでいる!」


と冒険者をかき分けて騒動の中心へと向かうと、ソレイユ達を触れるか度胸試しが始まっている様だ。騒ぎの中心まで行くと、


〈おらぁ!びびってねえで触ってみろ!〉

〈こんな機会滅多にねえぞ!〉

〈スレイプニルってデカいな〉

〈あっ!ギルマスだ!〉

〈やべぇ!ギルマスが来たぞ!〉


ギルドマスターを見掛けた冒険者達が蜘蛛の子を散らす様にその場から離れて行く。ソレイユ達は気にした様子も無くたたずんでいる。ギルドマスターはソレイユ達を見て、


「いやはや、立派なものだねぇ。Aランク幻獣と区分されるだけあって威圧されている様だ。言葉は理解出来るのかね?」


「はい。理解します。それに俺達に念話で返事もして来ます」


「それならば何も問題無いね。では私の家まで行くとしよう。と言ってもあそこなのだがね」


ギルドマスターはそう言ってギルドの建物裏に見えている屋敷を指差す。そこにはそれなりの大きさの2階建てであった。ソレイユとヘクトルを連れてギルドマスターの屋敷へと向かう。屋敷のに到着し裏にある馬房に着くとソレイユに、


「ここで暫くご厄介になるから大人しくしてね」


〘まあまあの寝床ね。そんなに大きくないけど雨が凌げるなら問題無いわ〙


〘僕は、母さんと一緒ならどこでも良いよ〙


「毎日会いに来るから大人しくしててね」


エリナベルの声かけにソレイユが、


〘分かったわ。それでも魔力を渡しに毎日顔を出すのよ〙


ソレイユ達を馬房に預けて冒険者ギルドへ戻ろうとするとギルドマスターが、


「そう云えば、午後の講習で基礎魔法の講義があった筈だよ。受けないかい」


「俺は以前受けましたが、エリナベルは未だなので…。エリナベル受けるか?」


「受けたいけど…。アステルはどうするの?」


「俺は、街をぶらぶら散策してみるよ。ここに来てから何が売っていて、どんなお店があるか把握してないし、今後必要なモノがないか探してみたい」


「それなら、ギルドマスター。私、講習受けたいです」


「良し。ではギルドに戻ろう。アステル君はこのまま散策に向かうかい?」


「はい。講習の時間はどのぐらいですか?」


「2時間程かな」


「そうですか。エリナベル。俺はギルドに戻って来るから、終わったら一緒に宿へ帰ろう」


「分かったわ。また後でね」


エリナベルが冒険者ギルドに入るのを見送り、俺は街へと繰り出す。先ずは鍛冶屋を探して北へと向かう。北に鍛冶屋がありそうと当たりを付けたのは煙を吐き出している煙突が見えているからだ。煙突を目指して移動していると武器を売るお店や防具を売るお店の看板を掲げたエリアへと入った。その中でも冒険者の出入りが多い武器屋を見つけて中に入ると、それなりに人が入っている。

気配を消して商品を見てみると丁寧な仕上がりで良い商品ばかり並べられている。

俺は隠密を使って完全に存在を消して工房がありそうな店の奥へと入って行く。そこには鍛冶場があり炉の前でずんぐりしたドワーフが風魔法を使って火の温度を上げている最中だった。


俺はとても良いタイミングと思って鉄鉱石の置いてある置き場の影から見学する事にした。そのドワーフは、火の色が赤からオレンジ、そして黄色になった頃、やっとこで赤々とした鉄塊を挟んで炉から取り出し、金床に置くと、金槌で「カンッ。カンッ」と叩き伸ばして行く。鉄が温度が下がって暗い色になると再度炉に放り込んで、風魔法を使い温度を上げては、鉄を取り出して金槌で叩いて伸ばして行く。それを何度も何度も繰り返していくうちにその鉄塊だったモノが剣の姿に変わって行く。

最後に水で急速冷却され、焼き入れが終わると歪みを確認して、一度寝かされてその後研ぎをして仕上がっていた。

一部始終を見せてもらうと、隠密を掛けたままその場を後にした。店を出て冒険者ギルドへ向かい、冒険者ギルドの中に入ってベンチに腰掛けてエリナベルの降りてくるのを待っていると、暫くしてエリナベルが2階から降りて来た。


「エリナベル!」


「アステル。お待たせ。」


「俺も今到着したばかりだよ。どうだった?」


「分かりやすくて、魔力を感じる事なんて無かったのだけど、今はきちんと感じるわ。今も魔力を循環させているのよ。学ぶって楽しいわぁ」


「その肩掛けカバン。マジックパックにあるの気づいたんだ。セラスをどうするかと思って、俺が預かれば良かったね」


「最初どうしようと思ったの。でも、マジックパックに何かないかしらと探していたらこの肩掛けカバンがあったから、セラスに擬態スキルでリスになって貰ってこの肩掛けカバンに入って貰ったの。受講する人数も少なかったから良かったわ」


「明日も受けるの?」


「明日は、文字の読み書きと計算があるの。それに薬草の講義もあるから受けるつもり。受けても良い?」


「勿論さ。受けたい講義は全て受けなよ。俺は、店通いをして職人の技を習得しに廻るから」


「アステルもやりたい事があるのね。良かったわ。では気兼ねなく講習に通います」


「終わりは俺がここで待ってるから一緒に帰ろう」


「そうね。一緒に帰りましょう。明日から頑張って勉強するわ」


こうして、冒険者ギルドを後にし宿屋へと帰るのだった。

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不遇な王女様と孤児の俺〜文字化け職業を授かった2人の冒険譚〜 ウェルディング @welding

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